第14話 「私はユキです」
草原を渡ってくる風が、季節の変わる事を知らせる頃である。酒場に入って来たバルク達を見ると、店の男が奥のテーブルを指さした。
「あの変な服を着た青白い顔の優男が、あんたを探してるって奴だ」
ユキはやって来たベンダーという街で何人かに聞いたのだが、酒場に行ってみたらどうだと言われ、ここに入り、カウンターで「バルクという名の男は知らないか?」と聞いたのだった。
「その辺で暫く待ちな」
店の者がそう言い顎をしゃくった。
随分時間が経って、もう一度聞こうとした時、数人の男達がまっすぐユキの方に歩いて来る。
「バルクを探してるってのはお前か?」
「そうです」
「こいつ女みてえな野郎だな」
そう言って、いかつい男が腰にこぶしを当て、羽織袴姿のユキをジロジロと見下ろしている。
「バルクに何の用があるんだ?」
「それは会って直接話します」
するとひとりの男が前に出て来る、
「おれがバルクだ」
「…………」
「何の用だ?」
「私を覚えていらっしゃらないんですか」
次の瞬間、ユキを見つめるバルクはまさかといった顔をした。
「おまえは……」
「バルクさん、お久しぶりです」
「ユキ……?」
バルクは言葉を失った。
あの小さかった娘が、今凛とした顔で向かい合っている。
戦場で何度も浮かんだ顔だったが、こんな姿は想像していなかった。
クイナが目を丸くした。
「うお……」
声を漏らしたのはクイナだった。
「隊長、あのチビが……、すげえ美人になってるじゃないですか」
あの頃、ラウラの後ろに隠れていた小さな娘の姿が頭に浮かんだ。
あれから、こんなにも時が流れていたのか。
「バルクさん、皆さんも、どうぞ椅子にお掛け下さい」
ユキは椅子を引いて腰掛けるバルクを見つめる。
「で、おれにどんな用があるんだ?」
バルクは突然現れたユキにどぎまぎして、そっけない対応をしてしまう。あの戦場で度々脳裏に浮かんだユキが、今目の前にいるのだ。
「実はおば様が……」
そこまで言うとユキは下を向いてしまった。
バルクの胸がざわついた。
「ラウラさんに何かあったのか?」
もう泣くまいと心に決めていたのだが、これまで抑えていた涙がどっと出て来てしまった。事情を聴いたバルク、クイナ、タリウト、周囲の男達もどうしていいか分からず、皆黙ってしまう。
だがやがて、ユキは腰に帯びた刀の柄を握り、鯉口を切ると、静かに引き抜いた。
酒場の灯りが、白い刃を冷たく照らした。
酒を飲んでいた男たちの笑い声が、不意に止まった。
その場の声が静まる。
「私は――」
ユキの目が真っ直ぐバルクを見た。
バルクは息を止めた。
「おば様の船を取り返したいんです」




