表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/33

第14話 「私はユキです」

 草原を渡ってくる風が、季節の変わる事を知らせる頃である。酒場に入って来たバルク達を見ると、店の男が奥のテーブルを指さした。


「あの変な服を着た青白い顔の優男が、あんたを探してるって奴だ」


 ユキはやって来たベンダーという街で何人かに聞いたのだが、酒場に行ってみたらどうだと言われ、ここに入り、カウンターで「バルクという名の男は知らないか?」と聞いたのだった。


「その辺で暫く待ちな」


 店の者がそう言い顎をしゃくった。

 随分時間が経って、もう一度聞こうとした時、数人の男達がまっすぐユキの方に歩いて来る。


「バルクを探してるってのはお前か?」

「そうです」

「こいつ女みてえな野郎だな」


 そう言って、いかつい男が腰にこぶしを当て、羽織袴姿のユキをジロジロと見下ろしている。


「バルクに何の用があるんだ?」

「それは会って直接話します」


 するとひとりの男が前に出て来る、


「おれがバルクだ」

「…………」

「何の用だ?」

「私を覚えていらっしゃらないんですか」


 次の瞬間、ユキを見つめるバルクはまさかといった顔をした。


「おまえは……」

「バルクさん、お久しぶりです」

「ユキ……?」


 バルクは言葉を失った。

 あの小さかった娘が、今凛とした顔で向かい合っている。

 戦場で何度も浮かんだ顔だったが、こんな姿は想像していなかった。

 クイナが目を丸くした。


「うお……」


 声を漏らしたのはクイナだった。


「隊長、あのチビが……、すげえ美人になってるじゃないですか」


 あの頃、ラウラの後ろに隠れていた小さな娘の姿が頭に浮かんだ。

 あれから、こんなにも時が流れていたのか。


「バルクさん、皆さんも、どうぞ椅子にお掛け下さい」


 ユキは椅子を引いて腰掛けるバルクを見つめる。


「で、おれにどんな用があるんだ?」


 バルクは突然現れたユキにどぎまぎして、そっけない対応をしてしまう。あの戦場で度々脳裏に浮かんだユキが、今目の前にいるのだ。


「実はおば様が……」


 そこまで言うとユキは下を向いてしまった。

 バルクの胸がざわついた。


「ラウラさんに何かあったのか?」


 もう泣くまいと心に決めていたのだが、これまで抑えていた涙がどっと出て来てしまった。事情を聴いたバルク、クイナ、タリウト、周囲の男達もどうしていいか分からず、皆黙ってしまう。

 だがやがて、ユキは腰に帯びた刀の柄を握り、鯉口を切ると、静かに引き抜いた。

 酒場の灯りが、白い刃を冷たく照らした。

 酒を飲んでいた男たちの笑い声が、不意に止まった。

 その場の声が静まる。


「私は――」


 ユキの目が真っ直ぐバルクを見た。

 バルクは息を止めた。


「おば様の船を取り返したいんです」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ