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第13話 ロシア軍の撤退


「撤退だと?」


 クイナが顔をしかめる。

 勝っているはずの敵が引く理由は一つしかない。


「内部崩壊か」


 タリウトがつぶやいた。

 ロシア帝国内部での政争と反乱が、前線に影響を及ぼしていた。ロシア軍の一部が撤退を始めたという。戦は戦場だけで決まるものではない。

 やがてオスマン側連合軍も戦線を維持できず撤退。

 バルクは血の付いた手を見下ろした。

 共闘していたオスマン軍に去られて孤立したモルダビア軍が、まだクリミアでロシア軍に包囲され全滅の危機に瀕しているのだ。


「クイナ、タリウト、行くぞ」


 4百騎だったバルクの軍団も3百騎程に減っている。だがバルクとその部下たちの戦意は高かった。これは郷土を守る闘いだ。最後の一兵まで闘い抜く決意であると。


「隊長」


 そう声を掛けてきたのはタリウトだ。


「後を……」


 そこに現れた男はチャガンで、ブコビィの後リーダーとなっている者だった。あの決闘の直後、後ろからクイナを襲おうとしたブコビィの喉元に剣を突きつけた副官だ。


「バルク隊長、おれ達を指揮してくれ。あんた達と共に闘う」


 タタールの一氏族チャガンはこれまでの戦闘で手痛い打撃を被って兵が著しく減少しており、氏族間ではバルクの軍団が現在最大勢力となっている。さらにアルチとドタウトも共闘したいと申し出て来た。全ての氏族を合わせると千騎程になった。

 もちろん頼まれたからと言って「行くぞ」の一声で全軍団を動かす事は出来ない。族長達の顔を立てる必要がある。バルクは族長会議を開いたが、数万の敵にたった1千の騎馬では奇襲するしかないと当然の結論に至った。


「うちだけでやった方が遥かにいいんじゃないか」


 行軍中である。後ろをチラッと見たクイナはそういい、浮かぬ顔をしている。3百から一気に1千騎の軍団になって戸惑っているのか、いつもの調子では無い。

 たしかに身内だけの軍団から突然他の氏族と一緒になったのだ。やりにくく感じているのはバルクもクイナと同じであった。


「だがな、これは俺たちの事情だ。そんな事よりモルダビアの軍が窮地に追い込まれているんだ。何とかしないとな」


 そう言うバルク隊長の顔が曇ったその時、


「隊長、何を迷っているんですか。戦場でやる事はただ一つでしょう」


 そう強く言ったのはタリウトである。聞いたバルク隊長は豪快に笑いだした。


「ワッハッハッハツ、そうだ、殺せ、殺せ、殺せだ!」


 バルクは直ぐ馬を返すと、1千騎の軍団に向かい叫び始めた。


「野郎ども、敵はコサックだ。タタールの底力を見せてやれ。怖気付くんじゃないぞ!」


 聞いたタタール軍が全員剣を抜くと、歓声を上げた。

 さらにバルク隊長の檄が飛ぶ。


「戦場でやる事はただ一つ。殺せ、殺せ、殺せだ!」


 そして1千騎の騎馬軍団は一塊の稲妻となり丘を駆け下りて行った。





 小川に入って馬を休ませ、バルク達が剣の血糊を洗っていた時だ。


「なに、ロシア軍が全面撤退し始めただと、勝っている筈のロシア軍が何故撤退するのだ」

「ロシア帝国で起こった内乱が広がっているらしいです」


 やがてバルクの軍団も任務を解かれ、ベンダーに戻った。



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