第112話 埋蔵金を移送
大坂夏の陣で戦われた天王寺口の激戦では、秀頼の作戦勝ちとなり、家康は磔台に縛り付けられた。その哀れな姿を見せられては、秀忠も要求された武装解除に従わざるをえず、徳川方の全軍は武器を取り上げられて撤退する事になった。
「幡野三郎光照と申す者でございます」
季節は夏から秋に変わろうとしている。埋められた大阪城外堀の復旧を急がせていた幸村から、思わぬ情報がもたらされた。秀吉の埋蔵金に関するものだった。
「その方か、父上から黄金の埋蔵を指示されていたと申す者は」
「ははっ」
実直そうな武士は、額を畳にこすりつけた。
秀頼に何度か促された光照はやっと顔を上げ話し出した。その内容とは、秀吉から黄金を「ひそかに埋蔵せよ」との密命を受けていたというものだった。
「埋蔵場所は大坂から北西に位置する銀銅山を選び、坑道の奥数十か所に分けて埋め、即閉山を命じました」
「埋蔵金を目立たぬよう数十回に分けて掘り出し、大阪城に運ぶように」
と秀頼の指示である。光照が担当し、幸村の家臣と軍が護衛に付く事になった。
(トキ、すごい量の黄金なんだろうな)
(…………)
「秀頼様」
「なんだ」
「黄金の輸送なのですが」
現地を調べた幸村の話によると、どのようにして、あれだけ膨大な量の黄金を運び出したらいいものか悩んでいるという。
「秘密裏にという御命令でしたが、あれほどの大量の黄金を運ぶとしたら、相当な数の大八車と護衛の軍が必要になるでしよう」
「……分かった。おれに考えがある。とにかく始めろ」
秀頼は一人になり、誰かに向かって話し掛け始めた――
「トキ」
「あの黄金を運び出すのね」
「そうだ、手伝ってくれるか」
「いいわよ」
(トキだって!)
(…………)
幸村らは意外に早く輸送が終わってしまったので、狐につままれたようだった。
黄金は全て大阪城の地下深く、石造りの蔵に運び込まれ、頑丈な二重の扉で守られることになった。
大阪夏の陣で敗退したとはいえ、いまだ徳川幕府は健在。征夷大将軍の職も秀忠が引き継ぎ受け継いでいく事で、豊臣氏に従属しない立場を明確にしている。徳川家がこの先も武家の棟梁として存続していくことを示しているのだ。
また大阪城下にあふれてしまった浪人問題がある。その一割ほどは名のある武将のようだが、十万とも言われるその他の者達は、このまま何もしないでほっておけば、食うための略奪者になってしまうではないか。
徳川という最大勢力が敗れたのを見た日本各地の大名達は、また領地争いを起こす可能性がある。そうなれば戦国時代の再開となってしまうだろう。大坂攻めに参加していた有志の武将は、めいめい勝手に各地に散って、再び混とんとした戦乱の世に戻ると思われるのだ。
(この先秀頼がするべき事は……徳川幕府に対抗する豊臣家の勢力拡大か……)
(…………)
(でも、どうやって?)
しかし状況が少しくらい変わったからといって、徳川方に付いた旧豊臣の有力家臣たちが、いまさら秀頼に従うだろうか。この時点での豊臣家は六十五万石しかない。経済力はそこそこだが、軍事力で日本全国の大名ににらみを利かせるのは難しい。
六十五万石、それが今の豊臣家の全てだ。
徳川は敗れた、だが、滅びたわけではない。むしろ家康を捕らえたことで、徳川はこれまで以上に豊臣を警戒するだろう。
(兵を増やすか?)
それでは徳川も兵を増やす。
(領地を増やすか?)
そんな簡単に各地の大名が従うはずもない。ただし大阪の周囲に大きな大名家は居ないから、畿内一円程度を支配する程度なら容易いだろう。ただし京・大阪周辺の支配は出来ても、その影響は地方までおよばず、日本の各地で戦が頻発する状況は大いに考えられる。
(じゃあ……どうする?)




