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天狗の怪 その七

私は菊子さんと共に外へ向かおうとすると、ちょっとお待ちを、とあの太った受付の男に声をかけられたので応じた。


なんでしょう?

あの、この里で近々、あの件で亡くなられた方々の合同葬を行うのですが、色々とご挨拶願いたいのです。あとその際に合わせて遺族の方をご紹介いたしますので、ご承知おきを。

承知いたしました。


菊子さんはすでに外で、さっさと行きましょうと言わんばかりに、私をずっと振り返ってソワソワと身体を揺らしながら見ていたので、さっさとメモに残し、しまいながら走って外へ出る。


それにしても足の裏は痛くないのかい?

それね、何度も言うけど、私は裸足平気なんです!それにさ、靴なんか履いたって足がきついし、水に浸かってるみたいになるし、嫌なんですよね。

そういうのを蒸れるって言うけどね。

あなた?裸足好きでしょ!・・・フェチな意味で。。


急に、どこか私を誘惑するような目つきで甘いような口調で密着するもんだから、ちょっとドギマギして目を空へ向けた。


あ、ま、まぁそんなことはないですよ。


私気づいてるんですよね。あなたの視線が私の足に向いてるの。


私は意表を突かれて、事件の核心を得たわけでもないのに、全身に鳥肌が立った。


い、いやぁね、まぁとにかく事件のこともうちょっと色々聞いてみたいですが。。。

えぇと焼里さんでしたっけ。私、こうやって男女で歩くときって、もっとこう自然の風景とか、趣味の話とかそういうのを語り合うのかなぁって思ってたんですよね。でも焼里さんは、仕事一辺倒なんですね。


なかなかグイグイ来る子なんだな。もし中央のシティガールになったら意外と出世するんじゃないか。


あの、菊子さん。中央で働こうとか考えたことなかったんですか?

え?私は学もないですし、菊を育てることしかできないから、そんなの無理に決まってるじゃないですか。冗談はその格好だけにしてください。これから山に行くってのに。うふふ。


おそらく僕と会話するのだけでも楽しいんだろうな。この里にはなかなか男子を見かけないから、おそらく大体は労働局に駆り出されてるのだろうから、きっと菊子さんも一人でさみしい思いをしてたのだろう。女子一人じゃ、怖くて外へも出られないしな。ましてこんな事件が起きたばかりだし。

私たちは一旦菊子さんの家に戻り、運んでいた籠を下ろして、改めて山へ向かった。山までの道のりの途中、崩れて廃墟同然の町中を進んだり、貨物しか走らない複線の踏切を、列車が来ないか注意深く耳をすせながら急いで渡ったりと、この里の町の景色を存分に味わいつつ、私もなんとか仕事以外の話題をひねり出しながら、菊子さんを楽しませようと努力した。


あ、この道が御岳山の参道入口です。


ここなのか。アスファルトの道から暗い森に向かって獣道が伸びていた。人の足跡があるのは、この里ではだいたいの人が裸足で生活するからだろう。また、平で歩きやすそうではあるが、これは土で汚れそうだ。私はスラックスの裾をまくった。それにしても、俺、登山なんか初めてなんだよな。中央では階段すらしばらく使ってなかったのに。それに、トレッキングシューズってわけでもなく、革靴で山登るなんてな。ドロドロで、中央に戻るときは買いなおしになるのかな。金もないってのにめんどくさいな。

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