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天狗の怪 その六

翌朝、いつの間にか寝ていたようだ。

まぁ人間疲れていたらどこでだって眠れるもんさ。それにしても、この庁舎ぐらしがいつ終わることやら。俺は進路を間違えたのかな。しかし、文学で飯を食っていけるわけでもないし、中央育ちでエリート教育を受けた俺は、その恩を返さねばならんのだ。全く自分の人生を棒に振るって言葉があるけど、何がどうやら。俺も好き勝手やりたいもんだよなー。


・・・とにかく朝は気分が悪い。身体にまとわりつく理由のない不安感がずっと俺に残っている。もう20数年生きてきたが、不安感というのは永遠に消えないものなのだな。たとえ成長に支配されていた、かつての21世紀と比べても。これは人間の、生を受けたものの試練なのかもしれないと改めて思わせてくれる。


とにかくコーヒーでも飲みたいが、ここらにはシケったもんしかないだろう。部屋から差す朝日を存分に浴び、適当に身支度をして、一階にあるウォーターサーバーの水をコップに注ぎ、一気に飲み干す。これで不安も多少は消えた。


とりあえずそのへんにあったソファでのんびりとした。今日は菊子さんが納品に来るという話だから、ちょっと待ってみるか。かつてはスマホという電子機器があって、こういう暇な時間には、それをピコピコ動かして暇を持て余す老若男女に溢れていたらしいな。今では、簡素な通信機一つしか持たせてくれない。昔はよかったんだなぁ。俺もあの時代を生きたかったもんだな。


とりとめもなく過去のことに思いを馳せていると、菊子さんが役場に入ってきた。籠にはいっぱいの菊を携えていて、服装はこの前話をしたときの格好だった。あれが正装だと思ってるのだろうか。それに足元には何も身に着けていない。私にはあり得ないような破廉恥を見せつけられているようだった。健気にもペタペタと、大理石の廊下を裸足で歩き、受付の方まで歩く。その時に私に気が付き、


あ、おはようございます!


と、あいさつをしてくれたので、あぁどうも、と軽く会釈をした。朝から元気がいいもんだなぁ。

受付で菊子さんは籠を下ろし、待っていると、間もなく太った役所の管理人が出てきた。彼は昨日私を案内してくれた方だが、疲れていてあまり彼のことを構う余裕もなかったが、今日はしっかり見れている気がする。いかにも私腹を肥やしてそうな風体だ。派遣される前から聞いていたが、この役所にいるものはれっきとした中央局所属のエリートだ。彼は、菊子さんが渡した籠に積んである菊の花を見るなり、こんなんじゃ低級品だなと、安く買い叩いた。菊子さんには似つかわしくない悲しそうな顔を浮かべて、籠に入った菊をすべて引き渡した。その後、サイン付きの手形を受け取ったあと、大切そうに肩にかけているバッグの中にしまい、こちらへペタペタとやってくる。


待ってました?ごめんなさいね!

いえいえ、全然。

じゃあ今から山、登りましょっか!

もしかして、裸足で行くの?

え?私、生まれてからずっと裸足だったから気にしたことなかったな。

そうなんだ。まぁともかく今日はよろしく!

なんだかお付き合いみたいでいいですね。


先程の悲しげな顔とうってかわり、屈託のない笑顔に戻り私は安心した。

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