天狗の怪 その三
あぁどうも始めまして。私は焼里と言います。あなたが菊子さんでいらっしゃいますか。
えぇそうです。
いろいろお話を聞かせてもらえませんか?
私に分かることでしたら何でも話します。そんなことより一旦作業の途中だし、こんな恰好なのでちょっとだけスミマセン。
あ、失礼しました。
若いのに、人当たりの良さそうないい感じの子だな。こういうのが大体狙われたりはするんだけどな。
その子は、畑で摘んだ残りの菊を日陰のザルに晒し、自分の足を汲んであった井戸水で洗い急いで家の中へ入る。しばらく待っていると、先ほどの作業服よりは綺麗なTシャツとジーンズを身につけ出てきた。
すみません。お待たせしました。では、中へ。
あ、では失礼します。
私は扉を閉めようとしたが、結構重たかった。この子、意外と力あるんだな。部屋の中は薄暗く、妙に湿気が籠もっていた。奥には段ボールやら家財道具が積まれてあって、その手前のリビングのテーブルに案内された。目の前にはキッチンがあるがほこりまみれで服やらが積まれていた。それに、窓側には洗濯物が干してあり、かなり生乾き臭のする部屋だった。
汚いところですみません。
いえ、お構いなく。菊を育ててるですか?
はい、中央の方では高く売れるので、こうして栽培してるんです。今年は大収穫で凄かったんですよ。
へぇ、それにしても中央まではかなり遠いですよね。
えぇ、なので役場の方で仲介してもらってるんですよ。仲介料は半分近く取られちゃうのは悔しいんですけど、自分で行くよりはマシなので。それに、仲介料は祭りのために使われたりって言われてるんですけど、今年はあの事件があったものだから、祭りなんかやらないのにね。それでも取っちゃうからやんなっちゃいますよね。
笑いながら、屈託なく話すもんだ。しっかりしてるなぁ。
それにしてもご両親は?
あぁ今は山奥の施設で籠もってます。昔は姥捨山なんて言われてたみたいですけど、やっぱりさみしくなっちゃいますよね。もちろん月に1回は会いに行ってますよ。意外と元気でやってるんですよ。
それは、よかったですね。
あぁ、あの老後制度のことか。還暦あたり超えたら、山に籠もって仏教の教えに勤しむやつだ。全く、この国も貧しくなったもんだ。そんなことよりも本題だ。
まぁ長居しても申し訳ないし、さっそく今回の事件についていろいろ聞きたいのですが・・・。
えぇなんでも。
まず、この里はどういった場所なんですかね。
まぁこの里は何にもないですよ。自分のことを自分でやるんです。あとは、たまに祭りがあってこれからの冬の時期にかけてはいつも太鼓の音とかよく聞こえるんですよ?でも今年はね。
なるほどね。ちなみにずっと1人ですか?
なんでそんなこと聞くんですか??まぁいいですけど、とりあえずもうハタチなのでいろいろ動こうかなとは思ってますよ。畑を広くしたいし。
さっきより語気を強めて言われた。ちょっとデリケートなこと聞いちゃったかな。
あぁ、失礼。では。今回の事件の遺族は?
そうですね。だいたいの家の場所は分かりますが、たぶん誰も答えてくれないと思いますよ。みんな引きこもっちゃってます。
たしかにそうだよな。今回は遺族に対して何か聞くってのは無理そうだ。
ちなみに、その幼児たちはいつごろいなくなったとか分かるんですか?
うーん。だいたいみんな夕方頃なんですよね。あの時間帯って、子供たちがちょうど神社とか公園とか図書館に遊びに行く頃なんですけど、急に神隠しにあったみたいに消えちゃうんです。10人みんなそうですよ?だから、この時間帯は、外に出歩かないように、保育所に閉じ込めておくんですけど、それでも出ていっちゃう子が、あとから狙われちゃってましたね。
なるほどね。確かにあの時間帯ってのは、親は中央に出稼ぎに行ったりしてる時間帯だから、その隙を狙われてるわけか。
ちなみに、あの遺骨がズラッと並べられてた場所ってのはどこなんですか?
それならちょっと来てください。
私は、外へ行くように促され、外へ出た。その子は山の方を指さした。
あの頂上が平らな山あるでしょ?御岳山っていうんです。あの頂上に神社があって天狗が祀られてるんですけど、その手前の階段の入り口にあったんです。
あぁ、あの山はこの里のシンボルですよね。すごく分かりやすいです。
ですよね。あの山は女人禁制なのですが、男と一緒なら登れるんですよ。だから、父ちゃんと一緒によく登ったんですよね。いい思い出です。あ、そうだ。もしよかったらあとで一緒に登りませんか?明日、菊を預けたら一緒に登りましょ!
ええ、もちろんですとも。
これはいいめぐり合わせだった。菊子さん。菊を育ててる菊子さんか。いい名前だな。一旦役場に戻って、今日の整理でもするか。




