天狗の怪 その十二
この宇宙での戦い、何が目的で戦っているのか分からなかった。ただひたすら、わが国のステーション防衛のために、周囲を警戒する日々。幾度となく鳴り響くサイレン音。そのたびに、無重力という恐怖と戦いながらスペース・フレームのコックピットを操縦した。敵側からは無数のミサイルが飛ぶ。たちが悪いのは、超高速で飛び交うスペース・デブリの排除だ。いくらその都度バリアーを張っても、防げないものは防げない。破損したステーションを補修するのも我々フレーム操縦者の仕事だ。寝る暇なんてない。私は疲れ切ってしまった。
その末に決意した。若き軍曹とともに、妊娠させてしまった女を連れてこの宇宙から脱出しようと。軍曹は根っからのサディスト野郎ジョー・グローリーだ。だが、そういう気の狂った奴ほど、こういう面白い話には簡単に乗ってくれる。軍曹同士の中ってのもある。ステーションのハッチをぶち破り、グローリー機とともに、女をコックピットの後ろに寝かせ、大気圏に突入した。グローリー機はなぜか陸戦型だったが、お互い無事に傘を開いて、地球まで降下できた。
場所はまさに列島のど真ん中だった。グローリーとは散り散りになったが、これからどうやって過ごそうか。スペース・フレームを操縦していると、ちょうどいいコンテナを見つけた。だが、ここでほぼ燃料は尽きた。グローリーが陸戦型に乗ったのも、燃費を気にしてたからだろうか?そっちの方が、地球作戦での燃費効率ははるかに良かった。そんなことは今となってはどうでもよく、フレームを脇に着陸させ、銃を構えてコンテナを注意深く開けてみたが、人は誰もいなかった。無人のコンテナだったのだ。
そこから、妻との生活は始まった。女の子も生まれ、慌ただしい生活を送った。水辺は遠く、満足に水浴びもできない。だから、山に登ったりして、滝で水浴びをしたり、帰りに山菜を取ったり、時には動物を捕まえて、焼いて食ったもんだ。
だけれども、自分の中に虚しさっていうのが強くなってきてしまったんだ。そのときかつてグローリーから聞いた、人間の肉でも食いてぇなぁって言葉が俺の中に強く響いてしまった。俺は、自分の衰えによって、狩りができなくなったなどと嘘をつき、ずっと宇宙から携帯していた鉈で妻と、成人近い娘の首を刎ねてしまった。そのときは、宇宙を脱出した興奮に満ちたが、その血も止まると、やはり虚しくなってしまった。その虚しさも強くなって、いつしかこの子らの供養のために生きるのが目的になっちまった。
ま、そう話だよ。気が済んだけ?
あぁ十分聞かせてもらったよ。あんたのスペース・フレーム強奪容疑と、敵前逃亡は、もちろん死に値するものだ。だから、あんたには密かに中央へ行ってもらう。もし、今後、子殺しが起きなかったら、全部あんたに容疑をかけるってことでいいな?
んま、そんでいいべ。
グローリーって男もとりあえず死んだことにする。




