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悪役令嬢に転生したのでヒーローの愛を疑うのは生死がかかっているので当然なのです

 あれから二年、私は20歳になった。

 私は殿下から囲われてそれなりに愛の言葉を受けているが、小説の恋愛部分の期間はまだ始まっていないので殿下を完全に信用できない。

 私は愛読書以外も読み(あさ)ったので悪役令嬢がヒーローを育てて、共に試練を乗り越えても友人になったヒロインに心変わりした話を知っている。

 20歳になると聖女が神殿からやって来て王宮に滞在する設定なので、まだ殿下を完全に信用できない私は、どっちに転ぶか分からない未来の対策として領地に逃げる算段を始めている。

 逃亡先のザボン公爵領で元乳母が活躍してくれているので元乳母の下で働こうと思っている。

 15歳から仕事をして先行投資でお茶と柚子の苗木を送ったので我が領地は今ではお茶と柚子の産地として浸透してきた。

 そろそろ第二段階の土壌改善に着手する資金もできている筈だ、予定だけは完璧である。

 完璧じゃないのは殿下の意味不明な溺愛行動と私の未練である。


「ルーはもっと食べて太れ」


 殿下は王太子なのだから政治的な会食に行けばいいのに毎食、毎食、私と共に食している。


「いつも適量をいただいております、必要な部位に必要以上に肉が付いておりますから御心配に及びません」


 殿下からは一度だって触れられていないが自慢の胸囲を自慢するとお年頃な殿下の目が泳いだ。

 ちなみに殿下と私は共有部分の寝室は使用したことがない。

 王太子と王太子妃の部屋は仮面夫婦でも共に暮らしていけるように私的空間がバッチリあるし、聖女が来てイチャイチャが始まる設定なので殿下は純真無垢な王子様のままであり、私は一度たりとも貞操の危機を感じたことはない。

 殿下と私に恋愛的な発展がないことは、この世界が小説の世界だという事実を痛感させられた。

 まだ油断はできない、なんせ20歳になっているのだから王宮に聖女降臨のX・dayは近い筈だ。

 私は戦々恐々、胃を殺られつつ毎日を過ごしていたのだがジアリウム侯爵が王宮から突如消え数時間後に戻り、その間の記憶を失くした怪事件が発生した直後に聖女から国王に手紙がきた。


 王宮への常駐要請には応じられません、担当の神官で十分だと判断しています。

 聖女は王太子様には死んでも嫁ぎません、政治利用しようと聖女の婚約者となった聖女専属聖騎士兼聖騎士団長のアビスを排除しようとしたり、私の幸せを脅かそうとしてきたりしたら国の安寧と命は保証できません。


 だそうだ、私は事の次第を全て理解できた。


(ふえぇぇ、この世界のユニちゃんは凄いな。私は愛情を拗らせて自分と結ばれないなら一緒に死んで欲しいなんて結論を出すストーカー・アビスと愛を育むのはいくら美形でも無理だわ、小学生男子な殿下は少なくとも人の範疇だから百倍マシだと思うけどな。まあ育てなきゃなんないから面倒臭いけど……もしかしてスパダリじゃないのはユニちゃんと私が子育てしなかったせいかな?)


 翌日、聖女なユニちゃんの婚約発表があった。

 それまで降っていた雨が発表と同時にこの世界に存在しない桜の花びらに変わり、それはそれは美しい風景になっている。


「ルー、そろそろ結婚の準備を始めたいのだがどうだろうか」


 書類に囲まれながら窓の外の桜吹雪に見惚れていたのだが、バルコニーに出ていた殿下が、ユニちゃんが降らせた桜の花びらを頭にくっつけたまま事務的に言ってきた。

 普段の殿下は「好き」だの「愛している」だの言ってくるくせに、子育てしてないせいでスパダリではない殿下は男として人生の決め時なのに求婚しやがらねえ。


「そうですね、王族の婚儀には何かと準備がございますから今から始めれば契約で取り決めた時期に婚儀を執り行えるでしょう」


 私は殿下がヒーローな愛読書のように求婚に感動して泣いて頷く恋人になれなかったので乙女のちょっとした夢を打ち砕いた殿下を一生恨むことにして事務的に答えた。


「ウム、やはり聖女殿は存在するだけで何かしらの形で恩恵を与えて下さるものなのだな、ルーが俺様の言葉に素直に頷くとは喜ばしい」


 殿下の浮気男要素を感じる聖女アゲ、婚約者サゲのカチンとくる考え方と言い方。


「……私、殿下の名前呼びと愛称呼びは一生しないことを今、決意しました」


 愛読書の通りに求婚しない殿下への報復として私は完璧な対応をした。

 きっと殿下のような男が熟年離婚をされるのだと思いながらも、自分のことをよく知っている私は絶対に離婚しないのだろうなと思った。

 私の発言に衝撃を受けた後、悲しみを滲ませながら私のことをチラチラ見ているワンコ状態の殿下を冷ややかな視線で無視しながら心の中で悶え中だからだ。




 それから私は殿下と順調だった。


「ルー♡……ルー♡……ルー♡……ルー♡……ルー♡……ルー?……ルーッ!」

「私は狐でございますかッ!」

「俺様を無視するなッ!」

「今は社会的弱者支援に対する予算編成の要望書で忙しいですから邪魔をしないで下さいまし、その後は医学発展のための助成に提出された研究の元になっている論文を読まなくては。書類なしで殿下と二人きりのお茶は……15日後です」


 お互いに積み上がった書類を片付けながら殿下と会話をしている。


「15日後!それは酷いんじゃないか?」

「じゃあ今、片手間にお茶をして差し上げましょうか?」

「俺様の相手をするのに片手間だと!」

「じゃあ、書類が汚れてはいけませんのでナシですね」

「お茶を運べ!じゅ、15日後も承諾してやる。だが当日は膝に座ってもらうからな」

「過剰な触れ合いは私の心臓に負担が大きいのでご遠慮いたします」


 貴族令嬢歴も前世以上の年季なので男女間の濃厚な接触に気絶を伴うのは当分、変わらないだろう。

 書類から顔をあげた私は中身は小学生男子だがすこぶる顔の良い殿下をウッカリ見てしまった、口元が勝手にニヤニヤしてしまう。


「なんだその可愛い反応と顔は、俺様を殺す気かッ!」

「殿下、五月蠅(うるさ)いから死んでおいて下さいませ、殿下を愛しておりますが今は忙しいんです」

「クソッ、可愛い。好きだ、ルーレンディア。やはり婚儀は前倒しして年内で頼む」

「補正予算が面倒臭いのでお断りします」


 私は、やはり子育てしなかった弊害は大きいと判断した。

 山のように書類があって時間的な余裕がない時でも優秀が故に苦もなく書類を片付けて溺愛する余裕のあるヒーローはイチイチ甘く接してくる、だが私は平凡であり時間がないから相手にしていられない。

 溺愛されても今は「後で」という対処しかできないが、私は貴族令嬢らしく男性との触れ合いで気を失う乙女体質なので殿下との触れ合いに耐えられない、それでも15日後のご褒美があるから仕事を頑張ろうと思うのだ。


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