そんなワケないよ~だ
私は8班の相談窓口でずっと業務してたんだけど、女性から結婚相手に暴力されちゃうって相談がチョクチョクあって、子供に手を上げられる前に子供と一緒に女性を家から逃がしたりもしてた。
旦那は外ヅラだけいいヤツ等ばかりで逆恨みされることも多くなっちゃったけど素人が数を揃えたって私相手に勝てる筈ないよね~。
私はいいけど、相談窓口の神官達はそうもいかなくて神殿の寮じゃない人達は一時的に寮暮らしをすることになっちゃった。
神殿は社会的弱者の駆け込み先ではあるけど国の法律もあるし、流石に神殿だけの対処じゃ難しいっていう判断になった。
そんな神殿の事情を知った王妃様の慈悲で、国と神殿が協力して逃げ出して来た人達が暮らしていくための場所を作ることになったから逃げて来た人達にとってもイイ結果になった。
王宮から王妃様の仕事を補助している王太子様の婚約者でもあるザボン公爵令嬢が、その場所に行くことになる人達の経緯や必要な物を聞きに来ることにもなった。
駆け込んできた女性や子供達の対処は主に私で、副班長が報告を確認してたから二人で説明したよ。
私はこんなカンジで8班でスゴク頑張って功績をあげたのを認められて、半徒聖騎士から聖騎士になれた。
ま、神殿の階級で一番下の7段から6段に上がっただけだから地位はまだまだ低いけど二年半で上がったんだから優秀な方だよ。
アビスが既に5段の聖騎士副班長なのがオカシイんだよ。
「アビスだッ!アビスーッ!」
「お前か」
「なんでいるの~?」
「お前……これから捕縛試験があるから付き合え」
アビスから「お願い」されるなんて初めてだよ~♡
でも私を縛って何をするつもりなの~、ドキドキしちゃう♡
(アレ?もう拘束されちゃってる)
ちょっと考え事をしている間に私の両手両足縛られちゃってるし、アビスは消えてる。
「エーッ?!ちょっと?コレ……どうやってほどけばいいの~?」
「ハート、業務を放棄するのもいい加減にしてください。ですが……ハートは遂に捕縛されてしまうくらいのことをしでかしたんですか?」
「違うよ~、恋人が「試験がある」って言うから訓練に付き合っただけだもん」
「恋人が……縛って……放置ですか?」
イジワル副班長から軽蔑の視線を向けられちゃってる。
「違うッ!違うからッ!副班長の考えてるようなことじゃないから~……ほどいてくださいよ~」
絶対に信じてくれてないけどイジワル副班長がいつも私が持ってる短剣で縄を切ってくれた。
「結び目を切らないといけないほどキツク縛るなんて……ハート、恋人ではなく、その方に執拗な付き纏いをしているから縛られたのではないでしょうね?」
アビスのせいなのに副班長にそんなことを言われちゃったよ。
副班長ってイジワルなだけじゃなくてスゴク失礼だよねッ!
執拗な付き纏いなんてしてないけど、してたとしても私みたいにカワイイ娘からそんなことをされたら嬉しいに決まってるのに~。
仕事が終わってからレッドと一緒に飲みに行ったよ。
どうせレッドが奢ってくれるし、昼間のこともあるし、今夜はヤケ酒しちゃうよッ。
「バニー、そろそろ結婚しようぜ。二人共、聖騎士になれてるし、付き合って二年になるし」
「する筈ないよッ!私の結婚相手はア・ビ・スッ!」
「全く相手にされてないのによく続くな」
レッドが呆れ顔で言ってきた。
(寝たからってすぐに自分の女だと思わないでよねッ)
遊牧民の女が強い遺伝子を望むのは生きるために当然なんだから今後もアビスを狙っていくもんね~だ。
「(アレ?ソレってアビスの子供を産めばいいってコトだからレッドと結婚しても可能だよね)やっぱり結婚する。」
「「アビスの子供を産めばいいし~」って考えてるだろ」
レッドに顳顬をグリグリされながら聞かれた。
「お、思ってないもんッ!」
そうだよ、ちょっと思っただけだもん。
「ちょっとでもダメだぞ」
「じゃあ、思ってない~」
「思ってるじゃないか」
レッドには何を言ってもバレちゃうのは何でかな?
レッドから鼻を指で弾かれた。
「痛いよ~」
「エトラは無理だぞ、アイツは「神に生涯を捧げる」って宣言したけどエトラが「神」としているのは「聖女様」だからな」
「でも聖女様が相手なら性処理ムグッ」
レッドに口を塞がれちゃったよ~、何すんのッ!
「たまにエトラから甘い匂いが漂ってることがある」
それは私も嗅いだことがあるから知ってるよ、イイ匂いだよね!
喋りたいけどレッドに口を塞がれたままだから頷いた。
「あの甘い匂いは聖女様の香りだ。エトラは聖女様の護衛になったが、普通の距離で聖女様の護衛をして移ると思えない」
レッドに言われたことは分かるけど、レッドが何を言いたいのかは分からないから首を傾げた。
それよりいつまで私の口を塞いだままにすんの?
「エトラはいつも無表情だから分かりにくい、そして聖女様の護衛から戻ると機嫌が悪い。だが機嫌よく戻ることがある、そんな時は聖女様とヤった時だと俺は判断している」
「(エーッ!ダメだよ、聖女様だよッ!聖女様にはそんなコトしちゃいけないんだよッ!)」
レッドに口を塞がれてて声はスゴク小さいからよかったけど、誰かが聞いたらアビスは破戒者として捕縛されちゃうところだよ。
(……ん?モ~ッ、レッドに騙されるところだった)
賢い私は気付いちゃったよ。
私はレッドの手を口から外した。
「レッドの破戒者、聖女様の神聖力は健在だからあり得ないよ」
「俺はいつか聖女様とエトラは結婚宣言すると思うけどな~」
「バーカ、バーカ、レッドのバーカ」
「バニーのアホ」
結局、私はレッドと結婚したよ。
だってレッドが「バニーがいい」って言うから頷いてあげただけで、レッドがモテモテなのに私しか見ないせいじゃないもん……私だってモテモテだったけど他のヤツと付き合ってないし。
その日は雨が降ってた。
春の雨は優しいから遊牧民だった頃から大好き。
だから私は生まれたばかりの子供を抱っこして部屋の中で雨を眺めてたんだけど、雨の中に聖女様とアビスの姿が大きく映し出された。
「ボアル国聖女、ユニ・モーガンは聖騎士団長のアビス・エト・ラと今年の夏に結婚します!でも聖女は辞めません、愛する男性との子供ができてもこうして神聖力はなくなってないから、これからも皆と一緒に歩んでいくよ!」
聖女様の宣言の言葉に呼応するように雨だったのに、雨が今まで見たことのない薄いピンク色の花びらに変わり舞い落ちてきた。
薄いピンク色の花びらが舞う景色は、言葉では言い表せないくらい綺麗なのに胸がギュッと締め付けられて、どこかに帰りたいような気持ちになった。
帰りたいところはアト族がいた場所かもしれないし、遊牧民として預かった家畜を放牧させていた草原や山かもしれないけど、風と空を愛する元遊牧民なのに私はボアル国の王都に住んでるけど、私の腕の中の子は元遊牧民でもないレッドの子供だけど、部族争いもなく幸せだからずっとここで暮らしていくよ。
私の名前は「バニー・ハート・ロッシュ」だけど本当は「バニー・ハ・アト・ロッシュ・レ」、ロッシュのレなんだ。
聖女様は「ユニ・モーガン・エト・マ」、マは后なんだよ。
(二人共おめでとう、お幸せに!)
后なのは遊牧民が複数婚の一族だからです




