番外編:ヒロインとサブヒーローの愛の試練は多い?
前世からの推しであるアビたんが今日、私の護衛騎士になった。
だから告白して、キスして、沐浴する場所でエッチした。
エッチの痕跡がベッドに残ってないから私が処女じゃなくなったのは誰にも分からないと思う。
「聖女様、俺と一緒にここから逃げましょう」
私の両手を握ってアビたんが言った。
聖女は処女でなくてはならないのがルールだから私は聖女の力を失っているだろう。
私が聖女の力を失ってしまったと知られたら、私は大神官に元聖女として聖女信仰でもしている誰かに売られてしまうし、アビたんは破戒者として捕まり処刑されてしまう。
「うん」
私はアビたんの言葉に迷わず頷いた。
「でも、着替えてからにしてもいい?」
「はい」
スケスケの白いワンピースを隠すために私は再び厚いマントをはおった。
「あっ!」
「聖女様ッ!」
歩こうとしたら足がもつれて転びそうになったのでアビたんが素早く反応して支えてくれた、流石。
ハジメテの後って歩きにくいんだと思いつつ、逞しいアビたんの腕を掴んで足に力を入れると、さっきまで感じていた痛みが消えてなくなった。
「アレ?」
「いかがされましたか?」
「う……うん、ちょっとおかしなことが」
「おかしなこと?」
「我等は神の庭にて遊ぶ子、我等は清く、我等は正しく、我等は個々に尊く、神を信じる子。世に満、命の尊さを尊べ尊べ、与えられし刹那の生を尊べ尊べ」
祈りの言葉のほんの一部を唱えただけなのだが、私の中にある神聖力が体から漏れて光を放った。
「聖女様、それはッ!」
光り輝いている私を見たアビたんが驚いている。
「私……聖女のまま、みたい」
アビたんを見上げて言うと、アビたんがきつく抱きしめてきた。
「うん、うん、アビス、私達ッ、神様に認められたんだよ」
「それは、それ……はッ、聖女様が神に愛されているからであって、俺、俺はッ」
「アビスは誰かの命を殺して奪ったことがあるから穢れていて神様に認められないって思うの?」
「思うのではなく、それが事実かと」
「殺さなければ殺されると分かってて受け入れる人は少ないと思う。そりゃ、最善は話し合いで解決して殺し合わないことだけど、誰かを守るために誰かを殺すのはアビス以外もしているけど生きるためだと思ってる」
私の言葉にアビたんは納得していない顔をしていた。
きっと聖騎士になるって決めて神殿に入ってから何度も「人殺しのくせに」とか「お前は穢れてる」って言われただろう、だからアビたんは自分がそうだと思い込んでしまったのだと思う。
エト族の王だから誰かが代わりに犠牲になってくれたことを泣いて、それでも一族のために戦わないといけなかったから傷付きながら必死で生き残らなきゃならないって頑張ってたアビたんに酷いこと言うなんて、ソイツ等の方が神殿の関係者として相応しくないと私は思う。
「この世界には神様と人々を繋ぐ聖女がいるから皆、神様の存在を信じていて、唯一の存在として信仰しているよね?」
「?……はい」
いきなり話題を変えた私にアビたんが戸惑いながら返事をしてきた。
「神殿で神様を「親」だと教えられるから私だけじゃなくて神様を信じている人達は皆、そう思っている」
私の言葉にアビたんが頷いた。
アビたんにとって私の言葉は絶対だけど、頷いたのはアビたんの中にある神様への信仰心の礎になっている内容だから素直に頷いたのだ。
アビたんも今のところは納得しているようなので私は話を続けた。
「私はね、神様は結果だけを見て人を判断するんじゃなくて、育ちや生き方や環境も全部見てくれていると思ってる。だって親ってそういうものでしょ?」
エヘヘと笑うとアビたんの目から涙が零れた。
アビたんの涙を手で拭うと、アビたんが笑ってくれた。
「ねぇ、「ユニ」って呼んで」
「ユニ……様」
私をそう呼ぶのはとってもアビたんっぽいけど私はアビたんの腕の中から抜け出した。
「ユニ様ッ!」
私が逃げ出したからアビたんが焦った声を出しているけど……知らないッ。
「アビスのイジワル、「ユニ」って呼んでって言いました~」
「ですが……呼び捨てなど恐れ多いです」
「聖女様、湯を用意してありますのでこちらに。エトラは下がって」
私はアビたんをこうして困らせるのも「恋人っぽいな♡」と思ってたけど沐浴の場所から離れちゃったから神女が声をかけてきた。
「ハーイ。アビス、後でね」
「聖女様、なぜエトラは濡れているのですか?」
「沐浴の場所から出る時に足を滑らせちゃったから。アビスは助けてくれようとしたんだけど一緒に落ちちゃって」
「聖女様にお怪我は?」
「……二人共、怪我はしてない」
「エトラにも怪我がなくてよかったです」
私は口だけの返事をしてきた神女に視線をやった。
「いかがされましたか?」
「貴女は明日から来なくていい。ロティさん、聖女部に連れて行って報告しておいて」
廊下にいた護衛の女聖騎士のロティさんにお願いしてお風呂に行った。
神殿の神官や神殿騎士達が、担当する職務の割り振りで要人の護衛と祭事の進行や警備を主としている2班には聖女が出現した際に臨時の聖女部が作られる。
聖女の護衛に女聖騎士・身の回りの世話をするために女神官である神女が選ばれるが、私が神殿に保護された直後から付いてくれている神女や女聖騎士の中にたまに「自分は神によって特別な職を与えられた特別な人間だ」と勘違いする者がいて、「男性は聖女の神聖さを損なう者」として排除しようとしてくる。
そういう人達は「生涯を神に捧げる」と宣言して、誰もが見惚れる美貌を持っているから特別枠で聖女部に配属されて、私の護衛騎士になったアビたんが特に気に食わないらしい。
(これからも排除だね)
頭を洗ってもらいつつ、アワアワのお風呂にゆったりと浸かっている。
(お風呂にも二人で入りたいな)
この何もかも任せっきりな「至れり尽くせり」状態を手放すのは惜しいけど、「アビたんとのイチャイチャ」に勝るものはない。
アビたんも着替えて戻って来たので他の人達に遠慮してもらって二人でお茶を楽しんでいる。
聖女部の護衛騎士の中でアビたんが一番、強いから抗議されずに引き下がってくれた。
(アールグレイが風味付けされたお茶で二級品扱いになるなんて知らなかったや)
神殿に入る前まではアールグレイばかり飲んでいたけど、この世界は王制の社会だから紅茶を覚えないと、唯一無二の聖女であっても貴族に常識知らずとして扱われるから覚えている最中なのだ。
しかもアールグレイ以外の紅茶の名前は地名が由来だから前世のほんのちょっとの知識も役に立たない。
そのため、この世界の紅茶の種類を一から覚えなきゃならないから大変なのだ。
「アビスはどこの紅茶が好き?」
「シャンディです」
シャンディは綺麗な濃い赤の紅茶でクセがなく口当たりがとてもよく冷めても美味しい。
「ユニ様は?」
「私もシャンディっていつも答えてるけど本当は家族と飲んでたアールグレイだよ。一生、アールグレイだと思う」
「俺もアールグレイにします」
アビたんが真剣な顔で言ったから、やっぱり私が好きだと公言してたから好きになったのだと分かった。
原作のユニのようにアビたんが本心から言っていても「私に合わせなくてもいいから自分の気持ちを優先して」と諭して受け入れない人もいるだろう。
だけど私は、私がアビスに好意を抱いて欲しいと願う気持ちからアビたんが無自覚にそういうことをしているのが可愛くて、顔が勝手にニヤニヤしてしまう。
「一緒、嬉しい」
二人で並んで座っているのでアビたんとの距離も近いのでアビたんに唇が触れるだけのキスをした。
その後は初めてキスした時のようにずっと唇が触れるだけのキスを繰り返す。
(そういえばアビたんとファーストキスした時、アビたんには夢だと思わせてたんだった……夢じゃないって分かったら喜んでくれるかな?でも夢だと思ってるから忘れちゃってるかも)
かなり自分勝手だと自分でも思うが、アビたんに覚えていて欲しい。
私はアビたんと唇を離した。
「ねぇ……アビス、私が初めて口接けしたのって実は今日じゃないんだ」
「……それは誰ですか?」
アビたんの目が燃えるようになったから嫉妬しているのだろう。
私はあの時のように髪の毛を高い位置で二つに纏めて見せた。
「アビスは覚えてない?この髪形を可愛いって言った後にすぐ私に口接けしてきたの」
「……ッ!それは……夢だと」
「エヘヘ、そう思わせちゃってゴメンね。想いも伝え合ってないのに恋人ヅラしてアビスを責めたり口接けをお強請りしたり添い寝したりして」
「それでは……全て……夢……ではないのですか?」
「夢じゃなくて全部、現実でアビスに起こったこと。アビスに夢だと思わせてそんなことした私って気持ち悪い?幻滅した?」
私はアビたんから「嫌いになった」って答えられたら、この告解をナシにしちゃえるからできるズルい聞き方だけど……。
「ヒャッ!」
断罪を待っていたのにアビたんから強い力で抱きしめられた。
「嬉しいッ、俺は……何度も夢じゃなければと願ってた。出自や過去を蔑まれることも多くて、それでも聖女様の側にいたいから耐えて、けどッ。聖女様と俺は正反対だし聖女様は遠くて綺麗な場所にいるのが相応しいから諦めようかと悩んだ時とか、辛い時とかに聖女様の夢を見ることが多くて救われて……いたのです」
タメ語でいいのに最後だけ敬語に直されたから私とアビたんのラブラブ度はまだまだだなと思いつつアビたんの背中に腕を回した。
その後はまたキスに戻った。
だってもう私達は想いを伝え合って恋人同士になったんだからこれからずっとイチャイチャ・ラブラブしていくんだもん♡
まずは……「アビたん」呼びを許可してもらっちゃお♡




