危ないヤツじゃないもん
この間の降臨祭でアビスのことがボアルの貴族連中にも知れ渡っちゃった。
神殿の食堂で嫌な話題ばかり耳に入ってくる。
「エトラに男爵家から縁談がきたってよ」
たかが男爵家のくせに図々しい(ま、公爵家だって王家だって図々しいって思うけどッ)から元遊牧民繋がりで情報を集めて、演劇みたいな演出をして貴族令嬢には別の聖騎士を当てがったよ。
裏があるとも知らないで貴族令嬢は簡単に騙されてくれたから聖騎士は借金から抜け出せた。
今後もこの手は使えるって分かったし、二人は幸せだし、私もお金を手に入れられたから悪いことなんて何もないね。
「エトラが「神に生涯を捧げる」って宣言したってよ、神殿に属してたって妻帯禁止じゃないのにお堅いよな」
結婚できるか怪しいブサイク達がアビスをバカにして嗤ってるけど、私を守るためにそんなことを言わなくても「俺にはバニーがいるから」って宣言してくれていいのに。
「アビスってちっとも女心を分かってないよねッ」
休みの日、外の食堂で晩御飯を食べながら神殿に保護されて入った孤児院からずっと一緒の腐れ縁なレッドに愚痴ると溜め息を吐かれた。
「バニー、その「アビス・エトラの自称婚約者」妄想は危ないヤツでしかないからいつも止めろって言ってんだろ」
「本当に婚約者なのッ!」
「それは、エト族との結婚話を父親から提案されたってだけで、相手がアビス・エトラだったかどうかも分からない話で、おまけにエト族の族長に断られたから立ち消えになったんだろ」
「違うもん!エト族から返事がくる前にアト族が滅んじゃったから話はなくなってないもん!」
「エト族もアト族も滅んだから部族同士の繋がりを深める目的での結婚話自体が成り立たないだろう。
「バカッ、レッドのバカッ!」
「バニーのアホ」
「レッドのイジワル」
そういう難しい話は分かんない、でも私達が結婚すれば部族が復活するんだからいいと思う。
それにレッドは元遊牧民じゃないから、遊牧民の生き方を知らないからそんなことを言ってるんだよ。
「……酒でも飲みに行くか?」
「……バカ……奢りなら……行ってもいい」
(二日酔いだよ~)
それでもおシゴトだから起きなきゃだし、行かなきゃなんない。
出勤のためにイヤ、イヤ、歩いていたら前方にアビスがいた。
朝からアビス会えるなんて今までなかったのに、いつもと違う時間帯のせいなのかも。
(嬉しいッ!)
アビスを走って追いかけて背中から抱き付いた。
「オハヨー、アビスッ!」
「オワッ!」
「派遣から戻ったの?会えなかったから話したいコトがたくさんあるんだよ♡」
抱き付いたのはアビスの筈だったんだけど、いつの間に入れ替わったのか聖騎士の間でも有名な6班の武器狂いマッドだった。
そんなマッドとアビスはなぜかよく話をしているから友達?なんだと思う。
「ゴ、ゴメンナサ~イ。てっきりアビスだと思って」
「いいよ、いいよ。避けたエトラが悪い。オイ、話したいことがあるみたいだから聞いてやれよ」
マッドに言われてアビスが振り返って足を止めてくれた。
「何だ、早く言え」
「今度、一緒にご飯行かない?ソコでゆっくり話そうよ」
「行く理由がないから断る。話があるなら今、言え」
「アビス、アト・リル・ハ・ミシュ・ライバ・ローン……シェ・ライ?」
遊牧民だけの言葉で話しかけるとアビスが舌打ちして嫌そうな顔をした。
「俺はエトラだ、エト・ラじゃない、そんな言葉で俺に話しかけるな」
「怒んないでよ~。でも遊牧民は部族なんか関係なく風と空に従う民だよ、なのにアビスは遊牧民としての生き方を拒絶するの?」
「元遊牧民なのを忘れたいわけでも恥じてもいない……思い出したくないことがあるだけだ」
「分かったよ、でも私が聞いたこと、答えてよ」
「……父親に8人目の妻がくるのは聞いた、だが相手まで聞いていない。それと、俺はこの穢れた想いが届かなくても生涯を捧げる相手を決めている、お前の気持ちは迷惑だ」
アビスがそう言って、私に背中を向けて行ってしまった。
(……アビスは……アビスは私の気持ちに気付いてたんだッ!)
気持ちを知ってたってことは私を見てくれてたんだしこれから頑張ればいいんだよ。
(ヨーシッ!これからアビスを私に釘付けにしちゃうんだもんね~♡)
スッゴク元気が出たから出勤もイヤじゃなくなった、早く行かなきゃね~。
だって今日も私目当ての人が相談窓口にあふれてるんだもんッ。
°︵‿︵࿔.♡.࿔︵‿︵°
アビたんが降臨祭デビューしたから縁談がイッパイきているらしいのだが、尽く話が消えている。
というのも、あのツインテ女が元遊牧民の仲間との繋がりを悪用してツインテ女の話に乗ってくるようなワケアリ聖騎士と共謀して縁談相手の令嬢を排除しているからだ。
ツインテ女は元遊牧民仲間から情報を得た後、アビたんとの縁談を親にお強請りした令嬢が外出した時に、元遊牧民の仲間に言いがかりや因縁を吹っ掛けさせて仲間の聖騎士に助けに向かわせる。
その後も何度か偶然を装わせて仲間の聖騎士を令嬢に接触させて令嬢に仲間の聖騎士こそ「運命」だと信じ込ませて終了だ。
聖騎士は他に女がいたり借金があったりするワケアリなのでツインテ女は口止め料も要求しているが、乗っかって放置しておこう。
ツインテ女を捕まえるのはすぐにできるけど、アビたん目的でも自主的に犯罪者になっているから排除したくなったらいつでも処理できる。
そんなことより今日のアビたんもカッコ良かった。
聖水汲みは山登りしなきゃいけないけど聖水の泉を水鏡にしてアビたんが国外にいても見られるから苦にならない。
「国外に出るとアビたん、一人部屋だから行きやすいし~♡」
聖水だけは魔法使用不可だから重たいけど私が持って運ばないと効力が消えちゃうのだ。
私は病気で痛いのも苦しいのも辛いのも何もかも投げ出したくなるのも死にたくなるのも知ってる、だからいつも皆のためだと思ったら頑張れる。
「本当はもっと運びたいのに神様のケチッ!」
実はお祈りも聖水の効力をあげるために必要なものなんだって降臨祭の後に気付いた、降臨祭で50回もお祈りしたから次の日の聖水の効力が高まってトロッとしてたから。
でもお祈りは聖女の持つ神聖力を使ってするからそれだけのお祈りは貧血になったみたいな症状が出るし、アビたん補給の添い寝がないとやってられない。
「あの時は寝ぼけてて危なかったし、アビたんの匂いでイッパイだから居心地が良過ぎて寝過ごしそうになっちゃったからしょっちゅうできないもんね」
聖女になってからまだ一年半しか経ってないからアビスが私の護衛騎士になる18歳まで同じ一年半の期間がある。
「待ち遠しいな~、キスだけじゃ物足りないよ」
今夜はアビたんを起こしてキスしようと決めた、しかも大人がするヤツだ。
「アビたん、アビたん♡」
「せ、せ、せ聖女様ッ?!」
「チューしよ♡ん♡」
目を閉じるとアビたんが私の肩に手を置いてキスをしてくれた。
「んー♡」
アビたんのキスはいつもと同じ唇が触れるだけのキス、でも初めより唇を強く押し当てられている。
だから唇を少しだけ開いてアビたんの唇を舐めてみた。
後はナイショ、キャーッ♡




