特別な日なのに特別じゃなかった
建国祭は国の最大の祭事だけど神殿にも降臨祭っていうのがあってね、神殿の主導で開催するんだ。
建国祭は国によって違う日なんだけど、降臨祭は全世界の同じ日に開催されるから降臨祭の方が規模が大きくてすごいよね~。
だ・け・ど、私はこの日が大ッキライなんだ。
理由はすぐに分かるよね、神殿主導ってコトはつまり……神殿に所属している者は前の日も本番も次の日も朝早くから遅くまで一日中ムチャクチャ働かなきゃいけないんだよ~、そんなのサイアクに決まってるよね。
「ハートッ、つまみ食いしてはいけません」
「ゴ、ゴメンナサ~イ」
モ~……副班長のケチ~、クッキーの一枚くらいイイじゃん。
降臨祭の前日、8班は下働きの人達と一緒にずっと厨房で色々な物を作ってる。
私の担当はクッキー作り、イジワル副班長はメレンゲ菓子の花を作ってる……イヤミなくらい器用。
「シンディさん、まだまだ忙しそうですね。お互いに今日を乗り越えましょう」
「聖女様、ありがとうございます」
「行きますね」
聖女が来て、部屋が心地よくなったな~と思ったら疲れが消えてたけど、聖女は手伝うでもないし何をしに来たんだろうね。
「聖女様は今日はお一人で国内の神殿を回られて回復魔法をかけられているのか、ありがたいな」
「本当に。だが、お一人で大丈夫だろうか」
「護衛騎士くらい付ければいいのにと思うけど、聖女様は神様が見守って下さっているから平気なんだと。それに聖女様お一人で移動した方が余計な魔法を使わずに済むだろ」
「それもそうだな」
下働き達は適当なことを言っているけど、聖女だからどこも手伝わないで遊んでるんだよ、聖女ってズルい。
(アレ?さっき火傷したトコが消えてる……なんでぇ?)
降臨祭の本番はキチッと聖騎士の正装を着るんだよ。
私の小帯は白だから汚さないようにしなきゃいけない……あ~、メンドウクサイ。
私は式典の警備担当に入ってないけど祭事の列に並ばされちゃった。
私はカワイイから一番前だよ、当然だよね。
私だけじゃなくてアビスも一緒なんだよ、でも隣じゃないのが不満、聖騎士が並ぶ場所に近い位置にいる貴族令嬢達がアビスを見て頬を染めているのも不満。
でも婚約者が隣にいるのに私をずっと見ている貴族の男の子と私を睨む婚約者がいるのはオモシロイよ。
(私の方がカワイイから睨んでも敵わないでしょ~、だ)
笑顔を見せてやると貴族の男の子がデレっとして婚約者は俯いた。
でもそんなのは私の知ったことじゃないよ、私には婚約者のアビスがいるもん。
正装姿のアビスは誰よりも聖騎士の制服が似合ってる、半徒聖騎士じゃなくて聖騎士を示す青い小帯がカッコイイ。
(この後は二人で降臨祭を楽しむんだ~)
って思ってたのにぃ~!
「聖騎士になりたいか~ッ!」
「「「なりたーいッ!」」」
8班の子供達向け聖騎士見習い体験の指導係としての仕事で楽しめないよ~。
°︵‿︵࿔.♡.࿔︵‿︵°
聖女になって初めての降臨祭、今日は要らない原作の話が突っ込まれるから最悪な日だ。
「こちらが昨年、発見されました聖女のユニ・モーガンです」
「お初にお目にかかり光栄です」
「聖女殿、初めまして」
「初めまして~、ピンク色の髪でスッゴク、カワイイのね~」
「王妃様、髪色を褒めていただけて嬉しいです」
「ところで……殿下は今日、来られなかったのですか?」
大神官が空気を読まないで必要ない質問をした。
「そうなのよ~、誘ったんだけど森林組合の連合会だそうよ」
「信心を怠るとは感心しませんな」
「ごめんなさいね~。パドったら二年前に「毎年参加する」って約束しちゃったんですってよ、終わったら顔を出すようには言ったから」
「降臨祭の出店の一角にザボン公爵令嬢の馬車事故撲滅活動の天幕があるらしく、そこには行きたがっていたから、来るは来る」
「……左様ですか」
王家との対面は当たり障りもなく原作の話もなく終わった。
(助かった~、王太子と再会してわざと驚かずに済んだや)
原作では建国祭で出会った少年が王太子だったことに気付いて、「隠してたのね」「すまない」な、遣り取りをして小さなイチャ付きをしてから王太子に手を引かれつつ神殿内をデートする流れだった。
俺様だから私の気持ちは無視して原作の通りになると思っていたから王太子が欠席してくれて助かった。
降臨祭の本番はまず式典から。
礼拝のための聖堂の前の方に並ぶ聖騎士は顔で選抜だからアビスは一番前。
流石、聖騎士の正装姿になったアビたんはカッコイイ、大好き、大好きッ!
(私の小帯は濃い青色にしたからアビたんの青い小帯とちょっとペアルックみたいになってて嬉しいッ♡)
同じ階級の聖騎士達も小帯は同じ色だが、そこは乙女フィルターと気持ちの持ちようだからいいのだ。
私は祭壇近く、大神官の隣にいる。
原作でユニは誰の視線か分からないけど誰かから凄く見られているのに気付いて恐がっていたくらいアビスの視線は他の人より強いから私もずっと視線を感じているが、私はアビスに恋する乙女だから胸が高鳴っている。
(要らない王太子が欠席してくれたから代わりにアビたんとデートしたいな~♡)
でも聖女だからそんな自由時間が与えられる筈もなく、私はまたもや国中の神殿に顔を出すべく転移・式典参加、転移・式典参加で終了した。
ちなみにボアル国には50の領地があるから、いつものお祈りなんて軽くクリアーできたよ。
夜はアビたんの胸に寄りかかって元気を補給。
「つっかれたー。今日は全然、一緒にいられなかったね」
アビたんとのデートは憧れるけど聖女だから人に囲まれてしまうだろう、そうなったらアビたんの嫉妬が爆発するから「イケナイ子」だって言われてエッチなことをされちゃうかも。
「ソレ、悪くない♡今日は~……アビたんと一緒に寝ちゃおうかな♡」
﹌˚₊‧꒰ა ☆ ໒꒱ ‧₊˚﹌
夜中に目を覚ますと月明かりに照らされいる聖女様の眠る顔が真正面にあった。
いつもの夢だと腕の中にいる聖女様を抱き込むと、確かな感触があり柔らかさと匂いに興奮してきた。
夢だから聖女様だって嫌がらずに自分の胸に頬を寄せてくれて嫌がっていない。
後ろから頭を殴られてシューシャ族に捕まった俺は、気絶している間にシューシャ族にエト族を焼き殺されてしまった。
俺が生き残ったのは庇ってくれた小さなシューシャ族の子供がいたから。
俺にあるのは他人の命を奪った穢れた手、空気に混じっているような血の匂いは気のせいだと知っていても消えたことはなかった。
でもそれでよかった、王として背中にエト族の魂達を背負って生きて、俺を追って来るであろうシューシャ族を殺すのを楽しみに生きればいいと。
あの日、聖女様を見た瞬間、俺の中にいたエト族の魂達が光を放って天に昇って行ったのを見た。
あの時、感じた。
神はいる。
神は見ている。
神の手はいつでも伸ばされていて救いを与えてくれる。
「……聖女様、聖女様、聖女様ッ」
聖女様への想いが溢れてきてしまい、縋り付きたくて強く聖女様を抱き込んでしまった。
「……ウーン」
力が強かったせいで聖女様が苦しそうに呻いた。
腕の力を緩めると、腕の中の聖女様が薄目を開けた後、俺なんかに優しく微笑みかけてくれた。
「……アビたん……起き……ちゃったの?ま……だ……寝よー……よー」
再び微笑んだ聖女様から唇を合わせられた。
聖女様の唇の柔らかな感触、過去の辛さは消え失せ幸せな気持ちだけが胸に溢れた。
……夢じゃなければいいのに。
お分かりでしょうがアビスは霊が視えちゃう人です




