幼馴染との運命的な再会
私はバニー・ハート、元遊牧民だよ。
だから正確にはバニー・ハ・アト、「アト」族の姫(「ハ」)「バニー」って名前なんだけど、ボアル国の戸籍を入手した時に「ハート」に書き間違えてバニー・ハートになったんだ、字を書くのって難しいね。
遊牧民はね、この星のほどんどの国を興した王が元遊牧民だった経歴の人が多いから特別な扱いをされていてね、国の戸籍を持たずに国境付近に広がる草原や砂漠や森を自由に行き来できる特別な民族なんだ。
アト族の他にもラテ・マウラ・アング・エト・アヂ・ヨロと部族はたくさんあって、部族の言葉も少しずつ違うから遊牧民は風と空に従って生きている自由と自分の部族を愛する民だと知られているんだよ。
でも勢力拡大の部族争いもあるから好戦的な民(国に属する人たちは粗野で野蛮なだけだって言うけど違うよ)でもある、だから私のアト族やラテ族やマウラ族みたいに滅んだ部族もあるんだ。
その後にラテとマウラが一緒になったシューシャ族みたいに別の部族になることもあるけど、私は神殿の神官様に保護されてボアルの民になったからアト族の皆がその後どうなったのか知らないんだ。
私はアト族の姫だけど女戦士でもあったから今は神殿の聖騎士見習いなんだよ。
神殿には世俗とは違う階級と法があってね、王や貴族に雇われている騎士と違って聖騎士は神の法を遵守するために存在しているんだ。
王や貴族に仕える騎士はやっぱり貴族出身じゃないと出世しにくいらしいけど、神殿の聖騎士は実力だけで評価されるから平民や私みたいな元遊牧民も多いよ。
「ヤダァ~、髪の毛が当たっちゃった~」
遊牧民だとバカにする貴族出身の聖騎士見習いの男相手に高い位置で二つに結んでいる髪の毛をわざと当ててやった。
「そんな幼児みたいな髪形だから当たるんだよッ!」
わざとだと知らない男は片目を擦りながら応戦してくるから死角になる左側から両手に持っている木製の短剣で男の持つ木剣を飛ばしてやった。
「勝者、バニー・ハートッ!」
「ワーイ、ヤッタァ~!」
元遊牧民の仲間達の元に戻る。
「(アト族は卑怯な手を使うんだな)」
そんな小さな声が「スゴーイ」とか「カッコイイ」って褒めてくれている中で聞こえた。
声のした方に視線をやると、薄汚れて枯れ枝のようなヤツが冷たい視線を私に向けていた。
(……誰?)
その日はそれで終わりだった。
でも三ヶ月くらい経った頃、あの言葉を発したのがアビスだと気付いた。
(あんなんじゃアビスだって分かんないよッ)
頬を膨らませて練習場所に行くと、体が回復して元の美貌を少しだけ取り戻したアビスが鍛錬に来ていた。
アビスの噂は知っている。
聖女の出現に立ち会って聖騎士見習いになったこと。
汚れを落としたアビスを見た神官が天からの使いと思うほど際立った美貌を持っていたこと。
元遊牧民の部族長の息子だったけど部族長が戦死したからアビスは部族の王として戦ったこと。
遊牧民の中で一番強くてボアルの貴族とも信頼関係を築いていたエト族を邪魔に思っていたシューシャ族が隣国・テネシスの騎士団を騙して徹底的にエト族を排除しようと虐殺を行ったこと。
テネシスの神殿が仲介に入るまでエト族は……。
アビスが保護されたのはテネシスの神殿だったけど逃げ出してボアルに来たこと。
これは噂ではなく事実だが、私と再会するためにアビスはボアルに来たのだ。
だって私達は遊牧民だった頃からお互いを知っている幼馴染だし、アト族とエト族が滅亡しなければ結婚する筈だったんだもん!
それから私はずっとアビスと一緒にいた。
「モ~、待ってよアビス、速いって!」
私がどんなに速く歩いてもアビスとは足の長さが違うので置いていかれてばかりだったけどさ。
食事も毎回、一緒。
「ネ~、ネ~、アビス、今度の休みに一緒に街に行かない?」
「行かない。」
「じゃあ俺と行こうぜ、バニー」
私が神官様に保護されて入れてもらった神殿の孤児院にいて、私の兄気取りでお節介なレッドが誘ってきた。
「モ~、レッドと一緒に行っちゃうよ~」
アビスを嫉妬させようとして言っただけなのに食事を終えたアビスは食器を戻しに行っちゃった。
「拗ねちゃって、カ~ワイイ♡」
「アレはバニーに興味ないだけだろー」
私達のことを何も分かっていないレッドが笑いながら言ったので殴っておいたよ、フンッ。
「モ~、まだ鍛錬するの~?」
何度、聞いてもアビスは鍛錬を止めない。
アビスは少し細い女の子くらいの腕で、私より筋肉がなかったのがイヤだったって分かるけど、鍛錬だけじゃなくて私とイチャイチャする時間を作ってくれてもいいと思うんだよね~。
アビスは私を放ってばかりだけど安心していいよ、私って浮気するような女じゃないんだ♡
°︵‿︵࿔.♡.࿔︵‿︵°
私とアビスは修行中だから一緒にいられない。
なのにアビスはいつもツインテールの女の子を周りに置いている。
ヒーローの王太子の周りに女の子がいるのは当たり前だけど、サブヒーローなアビスの周りに女の子がいる必要なんてなくない?
私は爆睡中のアビスをゆすって起こした。
「せ、せ、せ聖女様ッ?!なぜ、こちらに?」
「夢に決まってるでしょ、アビたん」
アビスは見習いだから大部屋だ。
だから私は周囲で寝ている人が起きないように魔法を使っているし、二人きりがいいから防御のための結界の応用なだけだけどアビスのベッドの周りを白い膜で囲って防音魔法も使っているからアビスは信じてくれるだろう。
「そう……だよな」
「それよりッ!なんでいつも女の子と一緒にいるの?ヒドイよッ、この浮気者ッ!」
私はアビスの胸をポカポカ叩きながら言った。
「女?そんなの……いたか?」
「しらばっくれる気!こういう髪の!」
私の髪はボブの長さだけど、両手で髪を纏めてツインテールを作って見せた。
これでアビスも誰のことか分かるだろう。
「その髪型も可愛い」
「そっ、そんなので誤魔化されないもんッ。」
唇を尖らせてアビスに抗議すると、アビスがキスしてきた。
その後はずっとアビスとキスしていたのでツインテ女のことを聞くのをスッカリ忘れていた。
もうッ!いいもん、自分で調べるからッ。




