番外編:ヒーローと悪役令嬢の結婚式
殿下との結婚が決まったのだが、陛下の希望により殿下の戴冠式も重なった。
「殿下は戴冠式と結婚式、どちらを先にしたいですか?」
「俺様としては先にルーと結婚したい」
向かい合わせになっている書類が満載された机越しに聞くと、いつものように殿下が書類の隙間から返事をしてきた。
「……その返事は私を殺そうとしているとしか思えません」
悶え死にそうになりながらも相変わらず表情が「無」な私である。
「可愛い顔をするな、ルーこそ俺様を殺そうとしているではないか。ところでルーの結婚式のドレスだが、このような物はどうだろうか。」
私の机に積み重なる書類の上に殿下が紙を置いた。
見なくても分かる、そこには殿下と同じ瞳の色である薄い青いシルク生地の激重ゴテゴテ・ダサドレスが描かれている筈だ。
「結婚式用のドレスは王妃様にご確認いただきましたので既に発注済です。ソチラは燃やしておいてくださいませ」
「母上が確認……いいだろう、コレは別の機会に保管しておく。ルーのドレスは当日を楽しみにしよう」
殿下が凄く分かりやすく拗ねて無言で仕事をしだした。
だが平凡な私は過去の資料と現在の状況を確認してから作業なのだが、殿下はそれらが全て頭に入っているので私の悶えポイントを刺激するように目の前の書類をドンドン減らしている。
(仕事のできる男ってス・テ・キ♡)
ニマニマしながら仕事を続ける私は殿下と結婚できるし、幸せである。
だが結婚式を前に私が大問題を克服できていないのは変わりない、悪役令嬢の「ヒーローに対して体を使って誘惑」のお陰でベッドやソファに横たわる(ソファは座ると駄目ですが何か?)と意識を保っていられるのだが乙女の「殿下・好き過ぎ♡気絶病」は一向に症状改善しない。
(何年かかるのやら……ッ、じゃないじゃない、今すぐ何とかしなきゃッ)
結婚当日は、式では「誓いのキス」・パレード後には「バルコニーで国民の前でキス」・祝賀パーティーでは「ダンス後にキス」・「会場がほどよく盛り上がった頃にキス」・「退場前にキス」と国家行事的にキスを求められる。
一番の良案が「殿下は陛下と同じ顔だから入れ替わる」くらいしかないのだが、致命的な欠点として殿下は若く陛下は若く見えるだけで40代なことだ。
「どこが良案なのだ、最悪だろう」
向かいの殿下から思わぬ返事がきた、私はどうやら知らず知らずのうちに声に出してしまっていたらしい。
「申し訳ございません、私が浅はかで短慮でございました。そこで殿下に提案がございます」
「「きす」とやらが口接けであるならば、なくさないし、唇以外の場所もお断りだ。良からぬ憶測は潰しておきたい。国王夫妻が睦まじいと周知させておく方が外聞が良いのだし……実際、「良い」のだから知られてもいいではないかッ」
これからの遣り取りは繰り返しになるので割愛です。
結婚式当日、お兄様と入場している私に、これ以上ない幸せが訪れている♡
ちなみになぜお兄様と入場しているのかと言いますと、常に仕事を優先してきたお父様より11歳から共に悪役令嬢の運命と戦ってきたお兄様の方が相応しいとかではなく、私がブラコンでお兄様がシスコンだからである。
そんな説明はどうでもよくて、王太子の婚約者でも一般人だった私だが「殿下と結婚する相手」に昇格したため「聖女・ユニ」ちゃんが結婚式と戴冠式を進める大神官様と一緒に並んでくれているし、ユニちゃんの夫な「アビス」もユニちゃんの後方で護衛をしているし、「陛下」や「王妃様」だけではなく、愛読書では出現しなかった激レアな「前王様」と「王太后様」も見守ってくれているし、何より「殿下」が進む先で待っているという私にとって結婚式に大スターが勢揃いな状況なのである。
何より祭壇に到着したので殿下が私に手を差し伸べてくれている尊い光景。
「ルーの幸せを常に祈っている、(悪役令嬢なのに頑張ったな)ッ……おめでとう」
「お兄様、ありがとうございます」
私の事情を知っているお兄様からの言葉に感動しながら手を離した筈だった。
「義兄上、ルーは我が幸せにするから手を離すのだ」
「まだ誓約も署名もしていないのですから義兄呼びは止めてください」
最後までお兄様はお兄様のままだが手は離してくれた。
殿下に手を取られ、共に大神官の前に立ったのだが、これから私にとって試練の連続になる。
それにしても今日の殿下は駄目だ。
着飾っているだけではなく、いつもそのままなサラサラ髪を整えて男の色気すら醸し出している。
王族らしく装った殿下の姿は絵本の中の王子様より王子様している。私は結婚式でお互いを見つめ合わなければならないような現代の式ではなくて本当によかったと思いながら正面を向いて大神官様の言葉を聞いている。
原作のような白髪のおじいちゃん大神官ではなくゴマシオ頭な少し若い大神官は以前から評判のいい人物で最近、大神官に就任したばかりだ。
「お二人に聖女ユニから祝福を」
「ご結婚おめでとうございますッ、心からの祝福を二人に」
ユニちゃんが手の平を上に向けると、手の平から光が溢れて花火のように上がったかと思うと静かに弾けて降ってきた。
その光が体に当たると綺麗な音をたてて弾けて消えていく、光は早い物とゆっくり落ちてくるのがあるので美しい音がずっと続いている。
(ウワーッ、ウワーッ!ユニちゃん、スッゴーイッ!)
「では……パズアドラ・フォン・ゼノビア・シウダード・ボアル、貴殿はザボン公爵家・ルーレンディア嬢を妻に迎え、生涯の愛と貞節と献身を誓うか?」
「誓おう」
「ザボン公爵家・ルーレンディア嬢、貴殿はパズアドラ・フォン・ゼノビア・シウダード・ボアルを夫に迎え、生涯の愛と貞節と献身を誓うか?」
「誓います」
「では、結婚指輪と署名を」
この時点で殿下と向かい合うがまだ大丈夫だ。
私はベールをしているし、指輪は殿下の手を見ていればいいし、署名は紙を見ていればいいから。
「では、誓いの口接けを」
(ッ、きたッ!!)
私は凄く不安だ。
殿下にベールを上げられた。
そこにいるのはいつもの見目麗しい中身小学生ではなく色気オバケになった殿下だった、私は迷わず目を閉じた。
(気絶は避けたいッ、気絶は避けたいッ!)
「愛している、ルーレンディア」
(気絶させにきたッ?!)
至近距離で発せられる色気のある低音ボイスが私の意識を奪いつつあるのに、唇に軽く触れてすぐ離れてくれればいいのに、私の顎を持った殿下は唇を強く押し当てて長いキスをしている。
ユニちゃんの光の音楽が奏でられているのでファーストキスよりロマンティックであるが今はいけない。
気絶した筈の私だったが、意識が戻ると殿下からディープキスされている最中だった。
「ん♡……でんッ」
「ルー♡気付いたか、では行くぞッ」
フワッと殿下にお姫様抱っこされた。
続けて戴冠式なので殿下はそのまま控え室に移動する気でいるらしい。
「(この体勢は致命的な欠陥があります、私の精神と心臓に負担が大きいので今すぐ)」
殿下に小声で訴えたが聞き入れられなかったので二度目の意識喪失である。
控え室で再び殿下からのディープキスで私は目覚めた。
「ん♡……でんッ」
「ルー♡気付いたか」
控え室なのでソファに横たわっている私は気絶していない。
誓いのキスの最中、私の異変に一早く気付いたユニちゃんは殿下に気付け薬を渡してきたそうだ。
殿下から見せられたのは医療用の使い捨てガラス容器「アンプル」だった。
「これで今日を乗り越えられそうだな」
殿下の悪い笑顔と共に私は殿下からディープキスされた……ソファに横になっているので安心である、が……。
(殿下、これから戴冠式なんですからそんな暇ないですよッ!)
「ルーレンディアッ!」
「ピュアッ、ピュアじゃないですかー。でもタイヘーン。ハイ、どうぞー、気付け薬デース。」
「これは?」
「パキッと折って中身を飲ませるんです、聖女印だからガラスに見えて無害なので気にしなくていいですよ」
「感謝する」
「あ、殿下、(どう飲ませるかはお好きなようにしてください)」
「聖女殿?!」←大神官(聞こえた)
「……もう数本、必要なのだが」
「殿下?!」←大神官
「モチですッ」
「……」←大神官
オマケ「世界が輝いた日」:マーサ
現在、ザボン公爵家の領地で領主代行をしているマーサでございますが、私はルーレンディア様の結婚式に出席するため久し振りに家族と共に王都に戻っています。
神殿の聖堂には既に貴族達が大勢、集まっています。プロスタン宰相は公爵位、女官長フィンチ様はドウェイン侯爵夫人でもあられるので前方にお座りです。私が見知った顔も夫の元同僚で爵位の高い方も我がコナッティ伯爵家を継いだ兄も見ました。この後、城で開かれる即位・結婚祝賀パーティーでの挨拶回りが楽しみでなりません。
王家の方々は祭壇脇の王家の席に、今日はザボン公爵夫妻も王家の席に座ることが許されています。
ですが少々、違和感が……。
「ブラック様はルーレンディア様と共に入場ではないのか?」
夫のトーマスが呟いていますが、ヴィクター様と共にルーレンディア様の最高機密を知る私は納得です、お二人で運命と戦っていたのですから。
ルーレンディア様はやはりヴィクター様と共に入場しています。
ルーレンディア様の姿に目を見開いたパズアドラ様が少しだけ難しい顔をしていますからヴィクター様に嫉妬しているのかもしれません。
ルーレンディア様は首元が詰まった白いプリンセスラインのドレスですが袖がない代わりに白い長い手袋と長いベールいう姿で入場しました。裾部分の上品にあしらわれた青い宝石が光を受けて輝いていますし、ベールに金糸で施されている王家の紋章も眩しいです。
(完璧な美しさです、ルーレンディア様ッ!)
パズアドラ様の意向が入っていない衣装はルーレンディア様の美しさを邪魔しておりませんから、これから挙式を考えている方々はこぞって真似するでしょう。
祭壇に二人で並んだ後のパズアドラ様は、前しか見ていないルーレンディア様の方を向き目を細められていますからご機嫌は直ったようです。
何より聖女様の祝福は素晴らしく、聖堂は光で輝き美しい音で溢れています。
(あぁ……私はこの日を一生忘れません。ルーレンディア様、お幸せに!)
一つだけ追記しておきましょう、ルーレンディア様は「世界一、純真な花嫁」という評価を得られました。




