王宮女官として復職した日のことなんて思い出したくもない
14歳になられたルーレンディア様は馬車事故撲滅に伴う活動で人々に救済と慈愛を与える女神だと称えられています、このマーサ、元乳母・現教師として鼻高々です。
ですがルーレンディア様、そろそろ私がルーレンディア様のお側を離れる時がきてしまったようです、聖女(パズアドラ様が全面的に悪いと思いますが、ルーレンディア様から婚約者を略奪するような女を「聖女」と呼べるでしょうか?)が発見される前に王宮女官として復職し、ルーレンディア様を王妃に推す仲間を一人でも多く取り込まなければ。
「ルーレンディア様、もうマーサがルーレンディア様に教えなければならないことはございません。7日後、マーサは王宮女官として復職いたします」
「マーサ、そんなこと言わないでください。まだまだマーサに教わるべきことは多い筈です、そうですよね?」
「いいえ、ルーレンディア様はマーサから卒業です。長らくルーレンディア様のお側にいさせていただきマーサはとても幸せでした」
「マーサ……わたッ……わたくしゅもッ、ウンッ、私もマーサと過ごした時間は宝物のように幸せでッ……幸せでしたッ」
ルーレンディア様が涙を耐えながらも返事をしてくださいました、私も寂しさと感動で涙が出そうです。
「マーサッ!」
「ルーレンディア様ッ!王宮でルーレンディア様をお待ちしておりますッ」
私達はお互いを抱きしめ合って別れを惜しみました。
7日間、ルーレンディア様といつもの日常を過ごした私は王宮女官として復職しました。
意気込んで王宮に戻り、私は積極的にルーレンディア様支持派と交流しました。
ですが流石ルーレンディア様です、私が支持者を集めずともフィンチ女官長様を筆頭にルーレンディア様を褒め称える方は王宮の6割の人員を占めていて楽しく会話して任務終了しました。
王宮女官として復職してからは忙しく動き回っていましたが、たまにパズアドラ様がザボン公爵様の従者になられたヴィクター様と話し合う姿をお見かけするようになりました。
「殿下、農作物は接ぎ木をすると強く、育てやすくなるとルーが申しておりましたからカボチャとトナシムとダイコンの苗も必要です」
「ルーが言うなら間違いないな、用意しよう」
「ルーを愛称で呼ぶのはお止めください」
「我は婚約者だ、呼ぶ権利がある」
「ではなぜ本人には「ザボン公爵令嬢」呼びなのですか?」
「そ、それは……その……だな、だが言わなくても分かるだろうッ!」
「そういうところですよ」
繰り返しましょう、パズアドラ様、そういうところですよ。
といった光景も目にしましたが、その後すぐに私は王妃付きの王宮女官となったため、どういった業務をこなしていたのかよく覚えていません。
王妃付きになった敗因は、私がルーレンディア様の乳母から王宮の仕来りを教授する教師になる際にパメラ様に懐かれたせいでした。
私の毎日は出勤から退勤まで常にこのような状態でした。
「マーサ、助けてぇ!」
「マーサ、これはどうすればいいのぉ~?」
「マーサ、お茶は苦いわ~、今度の王家のお茶会でお茶に果物をたくさん入れればどうかしらぁ~」
ワタシ・トテモ・コイツヲ・ヒネリ・ツブシタイッ!
正気に戻った時、私は救護室の白い天井を見上げており、ベッド横にルーレンディア様の護衛騎士のままな夫・トーマス(憎い、私だってルーレンディア様に会いたい、羨ましい、憎い)が座っていました。
「帰宅するたびマーサが窶れていくから心配になって、アズール様に「マーサがパメラ様に好かれている」と告げたら、パメラ様を中心に世界が回っているアズール様から「ゆ~っくり、静養しろ」とのお言葉をいただいた」
「と、いうことはこのまま私が辞めてもパメラ様から引き止められないッ!」
「アズール様はパメラ様がマーサばかり頼るため嫉妬しておられる。マーサが辞めてもパメラ様にはどうにもできないから受理されるだろう」
私はトーマスの言葉が嬉しくて涙ぐんでしまいました。
ですが、そうも言っていられません、私は革命の下準備のために王宮女官として復職したのですから。
「やっぱりッ「マーサが杞憂していた通り聖女は発見された。だがルーレンディア様とパズアドラ様の仲に進展があった。パズアドラ様はルーレンディア様に一応は想いを伝え、男女の恋愛に関して全く免疫のないルーレンディア様が卒倒されたのを機に目も当てられないくらい……個性的な贈り物を持ってザボン公爵家に見舞いに来ている。誰がどう見たってパズアドラ様はルーレンディア様に夢中だ。もう休め」」
私の王宮女官を続ける決意を察したのでしょう。
トーマスが私の言葉を止め、ルーレンディア様の状況を教えてくれました。
(聖女が出現してもパズアドラ様のお気持ちはルーレンディア様にある……革命は様子見しましょう)
パズアドラ様が描いたドレスの仕立て図を思い出すとどういった贈り物なのか安易に想像ができ不安になったものの、ザボン公爵夫人・エレーヌ様の手にかかれば一流品になるだろうと理解できるため私は再び目を閉じました。
王宮女官を辞して静養中は、私が去ってからのルーレンディア様の様子をトーマスから聞き出しました。
私が去っただけではなく、18歳になられたヴィクター様がザボン公爵であるブラック様の従者として王宮に赴くようになり、ルーレンディア様は一人残され落ち込む日々だったそうです。
ですが救いはあるもの、あの最悪な犯罪者(パメラ様が選んだ家庭教師)から「貴族夫人が自ら子供を育てるなど卑しいですこと」と言われたエレーヌ様は、実家の侯爵家でも母親と触れ合う機会が少なかったこともありルーレンディア様と距離を置かれていたのですが、ルーレンディア様のあまりにも痛々しい様子を見兼てお茶に誘われ交流を持つようになったからです。
次第に母と娘は共に刺繍を刺す仲になり、古着を最先端なドレスへと変貌させる仲間になり、共にお茶会にも参加されルーレンディア様も令嬢として優雅な交流をされていたとか。
「それでなマーサ、マーサが倒れて王宮を辞したのを知ったルーレンディア様がザボン公爵家の領地で俺は警備の相談役、マーサは領主代行をしないかとお聞きだ。「コナッティ領ほどの領地ではないが家族揃って田舎で癒されるのはどうだろうか?」と」
「あなたはどうお考えですか?」
「俺は「いい」と思う。子供達は騎士志望だから学ぶ場所を選ばないし、ザボン公爵家は優秀な兵士が揃っているから学校より実践的なことが学べる筈だ」
「14歳と12歳と8歳では騎士見習いはまだ早いですよ」
「分かってる、畑の害獣駆除のことだ」
「凄く実践的ですね。三人で追いかけ回す姿が想像できます」
「それで?」
「それは……」
ルーレンディア様から夫・トーマスに託された伝言に私が飛びついたのは誰しも想像できるでしょう。




