悪役令嬢を返上した筈なのですが、悪役令嬢のポテンシャルが謎です
聖女様からの伝言を受け取り、何の障害もなく殿下と結婚することが決まった私だが「殿下が好き過ぎ」病を抱えているため愛する殿下との過度な接触は命に関わる。
「ガンバレ、ルーレンディア!」
殿下によって王城に拉致されて同居をし始めたので婚約者同士の触れ合い時間も持てるようになった。
王族にプライバシーはないため殿下との仲睦まじさを公務で見せなければならない私は、殿下に慣れるためにお茶の時間に殿下から両手で両手を握られて訓練しているのだが、そろそろ意識喪失が近い。
「殿下、手をお放し下さいまし」
「ヨシ!今日は俺様の美貌に30秒も耐えられたではないか」
殿下から手は離されたが笑顔で褒められてしまった。
この後の記憶がないので殿下の私だけに向けられた至近距離での笑顔に耐えられなかったらしい、一ヶ月後に結婚が決まっているのに医者が匙を投げる系の不治の病は治療不可能。
「嗚呼、好きです殿下。こんな幸せを無課金で味わってもいいのでしょうか、今すぐにでも殿下の子供が欲しい」
「ベッドで言うな!」
意識喪失後なのでベッドに寝かされていた私は現在の幸せを実感して目を閉じて幸せに浸りつつ痛いことを呟いていたのだが返事がきた。
返事の前にドサドサッと書類の落ちる音がしたので恐らく私を心配して付き添っていた殿下だと思われる。
(それ以前に声からして確実に殿下よ、殿下ッ)
自分に自分でツッコミを入れた後は恥ずかしいので殿下の声がした方向ではなく反対側に寝返りを打つ。
「一緒に暮らし始めて7年も経つうえ一ヶ月後には結婚なのに何だ、その可愛らしい反応は。俺様から手を出されることを期待しているのか?ならば俺様がルーレンディアに荒療治をしてやってもいいんだぞ」
反対側から殿下に不穏なことを言われつつ覆い被されてしまった。
「胸がドキドキしますので、お止め下しゃい」
全く機能しない頭で何とか言葉を紡ぎ出し、殿下の下でできるだけ小さくなって目をギュッと瞑った。
殿下とイヤラシイことなどできる気がしない、その前に物理的に昇天してしまう。
「……ルー」
殿下から呼ばれた後は強引に顎をグイッと上に向かされ、唇にフニッと柔らかい感触がした。
「(ファーストキス!心の準備も雰囲気もなくファーストキス!)殿下ッ、王宮内は花が咲いている所だらけですし、噴水もありますし、バルコニーには王都を見渡せる景色がありますし、晴れた夜には星空がありますよね、ロマンティックはいかがされました?」
起き上がって、私に背中を向けてベッドに座っている殿下に抗議する。
14+22歳のファーストキスはこんなモンではいけない、デートして景色のいい所でイイ雰囲気の中で甘く見つめ合い、お互いが惹かれ合うように唇を重ねなければ納得いかない、抗議と呆れは受け付けない。
「「ろまんてぃっく」なるものが何か分からんが、ベッドで俺様の子を産みたいと口説かれたうえ、可愛い姿を見せ付けてきた結婚間近な婚約者に襲いかからずに口接けだけにしてやったんだ、感謝しろ」
赤い顔で振り向くなり私の方に距離を詰めてきた殿下から息がかかるくらいの近さで喋られている。
殿下の息は無臭、流石ヒーローだ。
「(現実逃避で感心している場合かッ!)情緒もなく口接けはお止め下さいまし」
「口接けする雰囲気はあっただろう、ルーレンディアはベッドの上で顔を赤らめつつ俺様から組み伏せられていたんだからな。第一、そのような場所ではルーレンディアの唇に触れる前に確実に気絶するだろう、結婚式でみっともなく意識喪失して一生に一度の思い出を台無しにしたくなければ俺様に慣れろ」
香水もつけていないくせに殿下から漂う匂いが爽やかで、惚れた弱みもあり殿下の言葉が単に下半身の要求に流された行為を肯定した最低発言でも拒絶できない。
「ふぁいぃぃ」
殿下に弱いせいで普通にイチャイチャすることすらできない自分の不甲斐なさに泣きそうだ。
「だから……そういう顔をルーレンディアに心底、惚れている男の前でするな」
ベッドなことと殿下がお盛んなお年頃なことを忘れていた私は、殿下から再び押し倒されてディープキスをされているだけではなく、防御力の低い寝着で寝かされていたため殿下の右手で胸をお触りされている。
(ウッ、無理……殿下の手♡気持ちい、アリ?殿下とイヤラシイことができている?!)
ヒーローへの色仕掛けも躊躇わない悪役令嬢としてのポテンシャルを発揮してイヤラシイ吐息を発している場合ではないが、この展開は婚前交渉への道まっしぐら。
私は殿下の背中をバンバン叩いた。
「俺様の荒療治は気に入ったようだな」
殿下が勝ち誇ったようにフフンと嗤って、また唇が触れるだけのキスをしてきたが次の段階に進みたいという若者らしい盛り上がりはあっても、いつもの暗転がない。
「確かに慣れたようです」
「明日のお茶の時間は膝だな」
そんな程度の触れ合いはもう余裕だと高を括っていたのだが、翌日のお茶の時間に殿下から腕を引かれて膝に着席した途端、意識喪失した。
「ベッド以外の場所でも俺様に慣れさせておく必要がありそうだな」
これは私の覚醒後に発せられた殿下の溜め息交じりの言葉である。
不思議なことに殿下の膝枕で目覚めたのに私はソファなのに気絶しなかった、返上した筈の悪役令嬢の体はどうなっているのだろうか、私にも謎だ。
国王となった殿下と結婚した私は聖女ではないので午前中に起きられない、溺愛されるというのは兎にも角にも体力がいることが判明した。
殿下との交流は殿下の意向により絶たれていたのだが、殿下が私に告白し囲われて以降は復活したので王家の行事や神殿の催事に全て参加していたのだが、王族ではなく王太子の婚約者だけな地位だったので偉大な聖女様であるラブリー・ユニちゃんとは言葉を交わすこともなく可憐な姿を貴賓席から見つめるだけだった。
物語で私とヒロイン様の接点はヒロイン様が王宮に乗り込んで来てからの設定だから私が排除されるのは当然なのだろうが、物語はヒロイン様とヒーローによって破綻して私が王妃になったのでやっとヒロイン様なユニちゃんに正式に会ってお喋りすることができる。
私は神殿に陛下と共に訪問して聖女様専用の応接間に通され対面した。
「結婚式で気絶してしまい、聖女様にお手間をかけ申し訳ありませんでした」
「我も感謝する。聖女殿のお陰で結婚式と戴冠式を恙なく終えられた」
「お二人共、そんなこと気にしないで下さい。でもお二人の結婚式では話があまりできませんでしたから残念でした」
まず御礼だと話しかけたのだが、ユニちゃんから聖女様らしい言葉をもらってしまった。
「聖女様、ありがとうございます」
「また御礼、それはいいですから。それより座ってお喋りしましょう」
ユニちゃんからソファを勧められたので移動していたのだが、ユニちゃんが私達に宣言してきた。
「まず言っておきますね、私は元日本人な前世持ちなのでココが小説の世界だと知っています、ですからアビたんとのラブラブは手放しませんよ」
「私もッ、私も元日本人です!」
王妃になったのにユニちゃんの宣言に嬉しくなってしまい、すぐに右手を上げながら返事をしてしまった。
「やっぱりそうでしたか!仲良くしましょう王妃様、ユニと呼んで下さい。ところで「ルーちゃん」って呼んでもいいですか?」
「モチロン!」
「ルーちゃん♡」
「ユニちゃん♡」
「ルーレンディアッ!」「ユニッ!」
ユニちゃんと両手を恋人繋ぎで握り合ってキャー、キャーしていると陛下とアビスに引き離された。
「聖女殿、我は政教一体にする気はないので我が妻とあからさまな交流は控えていただけるとありがたい。ルーレンディアを陥れようとする輩は常に隙を窺っているからな」
説明が必要だろう、陛下は昔から私と会話する時の一人称は「俺様」なのだが対外的には王族として威厳を保つため常に「我」を使用している、私は正直に言うと特別感があって片想い当時から密かに(「俺様」キターッ♡)と悶えていた。
「要は「ルーちゃんに馴れ馴れしくすんな」ってことですね、イヤです」
「ユニ、自分はユニが自分以外と仲を深めることを好みません」
アビスがそんなことをしたら刺すぞ的にユニちゃんに訴えているがヒロインらしくエヘヘと笑ったユニちゃんはアビスを座らせてアビスの膝に座った。
懐柔されたアビスがユニちゃんの匂いを嗅いでいるのでユニちゃんの対処は正解らしい。
私とユニちゃんの仲についてが有耶無耶になったのでユニちゃんの主張は覆っていない、どうやら私は立場を気にしなくていい友達を無事に確保できたようだ。
私は普通に陛下の横に座った。
陛下の私への溺愛っぷりを見たユニちゃんはキョトン顔をしている、ヒロイン様なのであざとい顔すら可愛い。
「ルーちゃんは陛下の膝に座らないの?座っても「不敬だ」なんて言って怒らないからいいんだよ」
「……諸事情がありまして」
「ルーレンディアは我を愛するが故に意識を保っておける限界があるらしく、残念ながら我の膝に座れない」
「アハハハハハハッ、何ソレ、可愛すぎでしょう」
「話の分かる聖女だな」
流石にヒロインとヒーローは気が合うようだ。
「本題に入るとしよう、今回は聖女殿に建国祭での祭司役をお願いに来た」
「りょ!恩恵も祝福もマシマシで派手にぶちかませばいいんですね」
「聖女殿、言っている言葉が理解できないが?」
「式典はお任せ下さい。あ、私、ルーちゃんに渡す物がありました」
ユニちゃんがテーブルの下から小さめの木箱に入った小瓶と、手の平に収まる大きさの、まん丸い水晶を私に差し出してきた、小瓶は蓋の部分がリボンの形になっていてカワイイ。
「コレは聖女印の体力回復薬です。言って下さればルーちゃんのためにいつでも用意しますよ」
「ありがとうございます」
「コレは通信の水晶ですからいつでも連絡して下さい、呼び掛けて下さればイチャラブ中以外なら応答します」
ユニちゃんが水晶を指差して説明してくれたので試してみると水晶の中に現在の体勢で小人ユニちゃんが出現した。
「スゴッ、ユニちゃん神なの?」
「チート持ちですッ」
ユニちゃんにテヘペロ裏ピースを見せられた。
それより独占欲と執着の塊であるアビスがユニちゃんの後ろからガッチリお腹に腕を回したので私と陛下に嫉妬中らしいのだがソレはいいのだろうか。
目でユニちゃんに訴えかけるとウインクがきた。
ユニちゃんは、わざとそうしているらしい。
聖女印の体力回復薬を寄越してくるだけの経験はあったのだなと理解して陛下と共に帰宅した。
空気の読めない王族なんて最低だから。
そして陛下同伴の時にユニちゃんから聖女印の体力回復薬をもらったので翌日に早速、聖女印の体力回復薬を使う羽目になった。
これで安心だから子宝祈願をしに頻繁に神殿に通っていいだろうか……いや、アビスに殺されそうだから止めておこう。




