第8話「選択、開始」
少女が笑う。
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その笑顔は、戦闘の前兆というより“会話の続き”みたいだった。
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「どうして、選ばないの?」
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火が吐き出される。
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だが今度は、直撃ではない。
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空間をなぞるように、線になる。
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(来る……!)
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五十嵐勇希の思考が跳ねる。
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「いやいやいや、待て待て……これ戦闘だろ普通に!」
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声が裏返る。
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ビッグサイロの腕部が反応する。
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だが、動きが一瞬遅い。
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遅いというより、“迷っている”。
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視界に浮かぶ選択肢。
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・回避する
・受け入れる
・対話する
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「対話ってなんだよ!!」
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叫ぶ。
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だが選択肢は消えない。
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少女が一歩踏み込む。
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機械の脚部が地面を割る。
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空間が軋む。
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「選んで」
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その声が、近い。
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耳元で聞こえるような距離。
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(まずい、距離感おかしい!)
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勇希は息を吸う。
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「違う、これ物理戦じゃない……!」
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頭が追いつかない。
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知識はある。
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こういう“恋愛イベント型ボス”は、序盤の選択がすべてだ。
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でも今は違う。
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選択そのものが攻撃になっている。
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少女の口が再び開く。
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火。
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今度は逃げ場がない。
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ビッグサイロが反応する。
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腕を上げる。
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だが、その動きの途中で止まる。
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(なんで止まる!?)
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理由が分からない。
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視界の選択肢が増える。
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・彼女を守る
・彼女を否定する
・彼女を理解する
・選ばない
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「増やすなぁぁぁ!!」
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勇希が叫ぶ。
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だが同時に理解する。
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(これ……俺の思考そのものか?)
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ビッグサイロは“操作装置”ではない。
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思考の反映だ。
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少女が微笑む。
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「ほら、見てる」
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「あなたが選んだ世界だよ」
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火が迫る。
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ビッグサイロの輪郭が揺れる。
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(違う……これは俺の世界じゃない)
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勇希は強く息を吐く。
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「……選ばない」
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静かに言う。
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その瞬間。
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空間が“ひび割れる”。
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少女の動きが止まる。
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火が消える。
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だが、消えたのは攻撃じゃない。
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“強制力”だった。
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少女がわずかに目を細める。
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「……また、それ?」
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声が少しだけ揺れる。
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ビッグサイロの腕が持ち上がる。
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今度は迷わない。
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形が安定している。
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(慣れた……?)
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勇希は気づく。
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このシステムは、学習している。
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少女も、ビッグサイロも。
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互いに。
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少女がゆっくりと距離を取る。
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火は止んでいる。
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だが、戦いが終わったわけじゃない。
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むしろ。
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始まったばかりだった。
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