第7話「降下、恋愛機竜」
空が、裂けた。
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最初にそれを認識したのは、五十嵐勇希ではなかった。
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地下空間そのものが、わずかに“軋む”。
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空気の密度が変わる。
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(……来る)
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理由ではない。
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感覚だった。
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ビッグサイロの視界が上空へ引き上げられる。
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そこに、“落ちてくるもの”があった。
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それは、機竜だった。
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だが、いつもと違う。
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上半身は少女。
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制服のような残像を残しながら、しかし顔は明確に“人間のそれではない”。
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笑っている。
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下半身は機械竜。
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鋼の骨格がねじれながら、空を裂いて降下してくる。
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まるで“上から生成される存在”だった。
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地面に触れた瞬間。
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空間が一段階、沈む。
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轟音ではない。
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“確定音”。
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存在が確定したような、嫌な重さ。
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少女がゆっくりと顔を上げる。
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「……見つけた」
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声は甘い。
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だが、温度がない。
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次の瞬間。
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口が開く。
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炎が吐き出された。
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赤い。
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しかし単なる火ではない。
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空間そのものが“焼き直される”ような光。
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「っ……!」
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勇希の反射が遅れる。
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ビッグサイロが自動で受ける。
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装甲が歪む。
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だが破壊ではない。
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“状態変化”。
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(何だこれ……火じゃない)
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思考が追いつかない。
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少女が一歩踏み出す。
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機械の脚部が地面を砕く。
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そして同時に。
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視界に“文字”が浮かぶ。
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・一緒にいる
・拒否する
・助ける
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「は……?」
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勇希の声が裏返る。
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「いや、待て、戦闘中だろこれ……!」
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選択肢は消えない。
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むしろ、濃くなる。
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少女が笑う。
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「どうして、選ばないの?」
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再び火。
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今度は広範囲。
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ビッグサイロが揺れる。
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だが勇希は理解する。
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(これ、攻撃じゃない)
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(強制だ)
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ビッグサイロの内部に、新しい選択肢が追加される。
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・彼女を受け入れる
・彼女を否定する
・彼女を理解する
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「ふざけんな……!」
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叫びながらも、指が止まる。
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(どれが正解だ……?)
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思考が割れる。
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戦闘なのに、戦闘じゃない。
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ロジックが通じない。
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少女がさらに距離を詰める。
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火が再び吐かれる。
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空間が歪む。
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ビッグサイロの輪郭が揺れる。
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(選べ……選べ……!)
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勇希は息を吸う。
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「……違う」
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小さく、言う。
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「これ、選ぶゲームじゃない」
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少女が一瞬止まる。
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その瞬間。
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ビッグサイロが応答する。
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選択肢が書き換わる。
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・選ばない
・拒否する
・進行する
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「……これだ」
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勇希は迷わない。
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「選ばない」
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空間がひび割れる。
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少女の動きが一瞬、止まる。
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火が消える。
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だが消えたのは攻撃ではない。
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“強制力”だった。
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少女が小さく息を吐く。
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「……また、壊すの?」
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声が、わずかに揺れた。
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ビッグサイロの腕が持ち上がる。
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戦闘の形を取りながら。
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しかし、その実態はまだ“未確定”。
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勇希は呟く。
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「……これ、戦いって言っていいのかよ」
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