第5話「接続、制圧未完」
崩れた一機の残骸が、ゆっくりと地面に沈む。
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完全に破壊したわけではない。
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だが、“戦える状態”ではない。
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(壊せる……)
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その事実だけが、はっきりと残る。
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残り四機。
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動きが変わる。
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わずかに間を取る。
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さっきまでの無機質な連携とは違う。
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“様子を見ている”。
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(……学習してるのか?)
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嫌な予感がよぎる。
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だが、止まる理由にはならない。
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一機が動く。
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距離を詰める。
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正面。
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(来る)
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今度は、分かる。
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タイミング。
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踏み込み。
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攻撃の起点。
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“読める”。
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(ここだ)
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右腕を向ける。
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細長い形が安定する。
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今度は、揺れない。
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撃つ。
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光の線が、一直線に伸びる。
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頭部。
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貫通。
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一瞬、遅れて。
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機体が止まる。
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そして、崩れ落ちる。
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「……っ!」
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二機目。
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確実に、仕留めた。
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残り三機。
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今度は、同時に来る。
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左右。
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そして、背後。
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(挟む気か……)
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だが。
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“分かっている”。
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一歩、前に出る。
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あえて、間に入る。
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二機が、同時に振りかぶる。
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タイミングは同じ。
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狙いも同じ。
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(だから――)
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回避。
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最小限の動きで、外す。
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一瞬。
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空いた空間に。
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互いの攻撃が、交差する。
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衝突。
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鈍い音。
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装甲同士がぶつかり合う。
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関節が歪む。
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二機が、そのままもつれる。
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倒れる。
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動かない。
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「……よし」
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三機目。
四機目。
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無力化。
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残り一機。
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距離を取っている。
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動かない。
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攻めてこない。
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(……来ない?)
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視線だけが、こちらに向いている。
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監視するように。
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観察するように。
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数秒。
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静止。
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そのとき。
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機体の輪郭が、揺らぐ。
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装甲の端から、崩れていく。
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粒子ではない。
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光でもない。
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“情報”のようなノイズ。
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現実から、ほどけていく。
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(……なんだ、それ)
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機体が、ゆっくりと上昇する。
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飛んでいるわけではない。
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“戻っている”。
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来た場所へ。
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空へ。
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やがて。
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完全に、消える。
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何もなかったかのように。
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静寂。
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敵影、なし。
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戦闘、終了。
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「……終わった、のか」
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ビッグサイロの巨体が、わずかに揺れる。
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緊張が、抜ける。
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だが。
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違和感が残る。
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(……少なすぎる)
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破壊したはずの残骸。
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ほとんど残っていない。
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センサーにも、反応はない。
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記録にも、残りきっていない。
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まるで――
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最初から存在しなかったかのように。
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「……なんなんだよ、これ」
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思考が、追いつかない。
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戦ったはずだ。
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確かに。
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だが。
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(壊したんじゃない……)
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浮かぶ疑問。
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(解除、された……?)
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確証はない。
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だが、その感覚だけが残る。
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“兵器”ではない。
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“現象”だ。
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そのとき。
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視界が、揺らぐ。
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接続が、切れる。
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世界が戻る。
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操縦室。
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静寂。
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何もない。
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ただの部屋。
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「……はは」
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乾いた笑いが漏れる。
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現実感が、ない。
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だが。
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体だけが、覚えている。
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確かに、戦っていた。
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巨大な何かと。
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そして。
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それは、消えた。
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(……戦っていたのは)
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思考が止まる。
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言葉にできない。
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だが、一つだけ。
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確かな疑問が残る。
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(――戦っていたのは、“現実”だったのか?)
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ビッグサイロの外では、すでに人のざわめきが戻り始めていた。
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イベントは“中断”扱い。
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被害は、軽微。
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すべては、“管理されたトラブル”として処理される。
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だが。
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何も終わってはいなかった。
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“次”の準備が、すでに始まっている。
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続く。




