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ビッグサイロ・プロトコル  作者: 山田の
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35/37

第35話「決戦、観測者」

18:45。


敵の背後空間が、開く。



---


黒い“観客席”。



---


段々状の闇。



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そこに。



---


無数の赤い眼が浮かんでいた。



---


世界中の配信コメントが止まる。



---


誰も、意味を理解できない。



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だが。



---


“見られている”。



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その感覚だけが、全人類へ共有される。



---


地下監視室。



---


研究員が震える声を漏らす。



---


「観測者です……!」



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「追加同期反応!!」



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モニター数値が跳ね上がる。



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SYNC RATE : 112%



---


富野が顔を上げる。



---


「……百を超えた?」



---


チーフの表情が、初めて歪む。



---


「まずい」



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低い声。



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「あれ、“外側”から見てる」



---


18:46。


会場内部。



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勇希の視界へ、新しい表示が浮かぶ。



---


■YOU ARE BEING OBSERVED



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「……は?」



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観客達が、一斉に空を見る。



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その瞬間。



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敵の巨体が、変質を始める。



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赤黒い装甲が増殖する。



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肩。



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腕。



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顔。



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見るたび形が増えていく。



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王。



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怪獣。



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魔神。



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侵略者。



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悪役。



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“敵役”のイメージが、世界中から流れ込んでいた。



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SNS。



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『ラスボス化してる!!』



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『形が変わった!?』



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『デカくなってない!?』



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『まずい!!』



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人類側の恐怖。



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その認識が。



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敵を、強化していた。



---


地下監視室。



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研究員が叫ぶ。



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「敵側認識増幅!!」



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「世界規模で恐怖同期が始まっています!!」



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富野が歯を食いしばる。



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「なら、人類側も増幅するしかない」



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チーフが画面を見る。



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数秒。



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静かに呟く。



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「……いや」



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全員が振り返る。



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チーフは、上空を見ていた。



---


「勝とうとするな」



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沈黙。



---


「“終わらせろ”」



---


18:47。


その言葉。



---


その認識。



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観客側へ伝播する。



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勇希のUIが変化する。



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■撃破



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違う。



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■終了



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選択肢が、書き換わる。



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さやかが息を呑む。



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永山が、空を見上げる。



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富野が理解する。



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“倒す”じゃない。



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“閉じる”。



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戦争ではない。



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これは。



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認識暴走そのものを終わらせる戦い。



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その瞬間。



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人類側の巨人が、動く。



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一歩。



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また一歩。



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東京湾岸が揺れる。



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敵の巨体が、腕を振り上げる。



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黒い雷。



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空間崩壊。



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だが。



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人類側の巨人は止まらない。



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永山には。



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正義のロボットが必殺技へ入るように見えた。



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富野には。



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全推力を前方へ集中した突撃機動に見えた。



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さやかには。



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ライブのクライマックス演出に見えた。



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勇希には。



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最後の選択確定に見えた。



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全部違う。



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だが。



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意味だけは一致する。



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“終わらせる”。



---


18:48。


人類側の巨人が、敵へ触れる。



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拳じゃない。



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剣じゃない。



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攻撃ですらない。



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“接続”。



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その瞬間。



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世界中の映像が、白く染まった。



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音が消える。



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SNS停止。



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配信停止。



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電波障害。



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誰も声を出せない。



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白。



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ただ白だけが広がる。



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そして。



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敵の巨体が、崩れ始める。



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爆発ではない。



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破壊でもない。



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“定義が解ける”。



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赤が消える。



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黒がほどける。



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王冠が崩れる。



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翼が煙になる。



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怪獣。



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魔王。



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悪役。



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全部の意味が、分離していく。



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最後に残ったのは。



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“形になりきれなかった恐怖”。



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それも。



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ゆっくりと、空へ溶けていった。



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18:49。


静寂。



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東京湾岸。



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風だけが吹いている。



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報道ヘリが、恐る恐る上空を映す。



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何もない。



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空。



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夕焼け。



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それだけだった。



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会場内部。



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観客達が、我に返る。



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泣いている者。



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座り込む者。



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笑っている者。



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誰も、完全には理解できていない。



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だが。



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終わった。



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その感覚だけが残っていた。



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地下監視室。



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モニター数値が、ゼロへ戻っていく。



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SYNC RATE : 0%



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研究員達が崩れ落ちる。



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富野は、静かに息を吐いた。



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「……勝ったのか」



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チーフは、しばらく答えない。



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やがて。



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冷め切った紙コップを見ながら、小さく言う。



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「観測が終わっただけだ」



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その瞬間。



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監視室モニターの片隅で。



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一瞬だけ。



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ノイズが笑った気がした。



---


続く。

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