第33話「起動、巨人」
18:40。
ビッグサイロの右腕が、完全に持ち上がる。
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遅れて。
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東京湾岸全域へ、衝撃波が走った。
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海面が揺れる。
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停泊中の船舶が軋む。
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高層ビルの窓ガラスが震える。
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だが。
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世界中の視線は、空から動かない。
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上空。
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赤黒い巨大存在が降下を続けている。
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雲を裂きながら。
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“敵”として。
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完全に定義された存在。
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一方。
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ビッグサイロ。
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白い外壁が展開を続ける。
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装甲。
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骨格。
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発光ライン。
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都市サイズの構造体が、ゆっくりと人型へ近づいていく。
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その姿は。
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見る者によって違う。
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SNS。
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『勇者ロボだ!!』
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『いや完全に軍用機だろ!!』
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『光の騎士じゃん!!』
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『アイドルステージそのもの!?』
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『変形パターンが毎秒違う!!』
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海外配信。
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「IT KEEPS CHANGING!!」
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「THE SHAPE ISN'T STABLE!!」
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「WHY DOES IT LOOK DIFFERENT!?」
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だが。
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誰も否定できない。
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“人類側”だ。
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その認識だけは、世界規模で一致していた。
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18:41。
会場内部。
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観客達の端末が、一斉に白く点灯する。
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■CO-PILOT CONNECTED
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勇希の顔色が変わる。
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「……は?」
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次の瞬間。
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視界が引き伸ばされる。
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客席。
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通路。
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ステージ。
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全部が遠ざかる。
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違う。
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“上がっている”。
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勇希は理解する。
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視点が。
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ビッグサイロ側へ接続されている。
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観客達が息を呑む。
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誰もが、“見ていた”。
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巨大な腕。
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巨大な肩。
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巨大な空。
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自分達が。
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今。
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あの巨体の内部へ繋がっている。
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地下監視室。
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研究員が叫ぶ。
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「搭乗者、確定できません!!」
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「観客全員が接続されています!!」
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富野が歯を食いしばる。
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「群衆制御なんて無理だぞ……!」
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チーフは静かに画面を見ていた。
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「制御じゃない」
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低い声。
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「“方向”だけ与えられてる」
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モニター中央。
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■PRIMARY INTENT
■PROTECT
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研究員達が凍りつく。
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“守る”。
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その単純な認識だけが。
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数万人規模で共有されていた。
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18:42。
上空。
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赤黒い巨大存在が、初めて口を開く。
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空気が震える。
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言語ではない。
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だが。
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世界中の人間が、“意味”だけ理解した。
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『滅びよ』
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その瞬間。
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巨大存在の周囲へ、黒い輪が出現する。
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空間が捻じ曲がる。
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熱。
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重力。
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光。
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全部が崩れる。
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報道ヘリが一機、制御を失う。
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悲鳴。
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警告音。
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世界中の配信画面がノイズに染まる。
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その時。
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ビッグサイロが、一歩前へ出た。
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轟音。
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湾岸地面が沈む。
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その動きは。
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永山には、“ヒーローの登場”に見えた。
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富野には、“重機動兵器の前進”に見えた。
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さやかには、“ステージ中央へ立つ演者”に見えた。
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勇希には、“選択確定”に見えた。
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だが。
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結果だけは同じだった。
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人類側の巨人が。
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東京を守るため、前へ出る。
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その瞬間。
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会場全体へ、新しい表示が浮かぶ。
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■ENGAGEMENT START
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戦闘が、始まった。
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続く。




