第28話「拡散、観測」
会場が、脈打った。
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低い振動。
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だが。
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床は揺れていない。
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揺れているのは、“認識”だった。
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観客達が、一斉に息を呑む。
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誰も説明できない。
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なのに。
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全員が同じものを感じていた。
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巨大な操縦席。
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巨大な意思。
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そして。
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“接続されている”感覚。
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勇希は周囲を見る。
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観客達の目。
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焦点が、少しずつ合わなくなっていた。
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ライブへ熱狂している。
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なのに。
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どこか別のものも見ている。
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腕の端末が、熱い。
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SYNC RATE : 74%
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「……まだ上がるのかよ」
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その瞬間。
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ステージ中央の光が、膨張する。
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光の柱。
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だが。
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今度は違った。
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“形”が安定し始めている。
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少女。
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騎士。
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怪物。
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ロボット。
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切り替わっていた輪郭が、ゆっくり収束していく。
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観客達の認識が、揃い始めていた。
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地下監視室。
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研究員が叫ぶ。
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「未定義存在、固定化開始!」
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「観客側の認識一致率が急上昇しています!」
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富野がモニターを見る。
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波形。
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数万人分。
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いや。
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海外配信側まで含めた、膨大な認識データ。
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それが一つへ収束していく。
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「……まずい」
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富野の声は低い。
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「“敵”が決まる」
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チーフは黙ったまま画面を見る。
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その横顔に、余裕はなかった。
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「チーフ!」
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研究員が振り返る。
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「外部ネットワーク側で映像拡散が始まっています!」
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別モニター。
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SNS。
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動画サイト。
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海外掲示板。
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無数の画面。
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そこへ、同時多発的にライブ映像が投稿されている。
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だが。
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映像内容が一致しない。
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「巨大アイドルだ!」
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「違う、怪獣だろ!」
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「ロボットがいた!」
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「編集映像じゃないのか!?」
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コメント欄が混線する。
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認識が、世界規模で分裂していく。
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富野が小さく呟く。
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「……鳥羽か」
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チーフが頷く。
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「データは渡してある」
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低い声。
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「消される前にな」
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会場外周。
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鳥羽宏は、人混みの外からビッグサイロを見上げていた。
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スマホ画面。
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編集ソフト。
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リアルタイムで流れ込む投稿映像。
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会場内部。
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海外配信。
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観客の撮影データ。
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全部、違う。
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だが。
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共通して映っているものがある。
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“巨大な何か”。
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鳥羽の指が止まる。
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「……本当に出たのか」
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その瞬間。
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スマホ画面へ、新しいファイルが追加される。
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【SILO_PROTOCOL_LOG】
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鳥羽の目が細くなる。
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「……追加ログ?」
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地下監視室。
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富野が振り返る。
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「今、送ったんですか」
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チーフは冷めたコーヒーへ視線を落とす。
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「映像だけじゃ、また編集扱いされる」
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小さく言う。
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「観測ログごと残さないと意味がない」
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数秒の沈黙。
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そして。
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会場全体の照明が落ちる。
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暗転。
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悲鳴。
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いや。
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歓声だった。
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誰も恐れていない。
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むしろ。
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期待している。
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巨大スクリーン。
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真っ黒な画面。
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そこへ。
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ゆっくりと、“目”が開く。
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巨大な瞳。
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会場全体を見下ろしている。
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観客達が、同時に息を呑む。
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その認識。
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その感情。
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その瞬間。
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未定義存在の輪郭が、完全に固定される。
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地下監視室。
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警告表示。
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■COGNITIVE ENTITY : DEFINED
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研究員の顔色が消える。
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富野が、呟く。
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「……定義された」
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監視室から、音が消える。
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誰も動かない。
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モニター中央。
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固定された“何か”。
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もう、揺れていない。
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チーフはそれを見つめたまま、小さく息を吐く。
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「……最悪だ」
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低い声。
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「観測だけで終わらなかった」
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富野が振り返る。
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チーフは画面から目を離さない。
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「認識が、“現実側へ固定された”」
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誰かが、小さく呟く。
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「じゃあ、あれは……」
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チーフは答える。
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「もう、“見えているだけ”じゃない」
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沈黙。
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その瞬間。
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会場全体が、もう一度脈打った。
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続く。




