第24話「開幕、同期」
午前八時。
湾岸地区は、 既に異常な熱気に包まれていた。
巨大駐車場。
列を作る来場者。
海外観光客。
コスプレイヤー。
配信者。
警備ドローン。
上空を飛ぶ報道ヘリ。
そして。
巨大なビッグサイロ。
その白い外壁には、 無数のLED広告が流れている。
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【ComicMall 2026】
【RESTART JAPAN CULTURE】
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歓声。
音楽。
電子音。
一年間止まっていた空気が、 一気に動き始めていた。
勇希は列へ並びながら、 思わず見上げる。
「……デカ」
周囲では外国語が飛び交っている。
「日本ヤバい!」
「最高!」
「配信始めるぞ!」
スマホカメラ。
ライブ配信。
笑顔。
まるで祭りだった。
入口ゲートでは、 スタッフ達が来場者へ白い端末を配布している。
腕時計型。
シンプルなデザイン。
「入場時はこちらを装着してください」
「会場内決済にも対応しております」
「体調異常時は自動通知されます」
流れるような説明。
勇希も受け取る。
妙に軽い。
だが。
腕へ装着した瞬間。
微かな振動が走った。
ブルッ——。
「……?」
画面は黒いまま。
すぐ通常表示へ変わる。
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WELCOME
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「最新型らしいっすよ」
隣のスタッフが笑う。
勇希も曖昧に笑い返した。
その時。
会場全体の大型モニターが一斉に点灯する。
爆音。
LED演出。
観客の歓声。
ステージ中央へ、 司会者達が登場した。
その中には、 さやかの姿もある。
「コミックMall2026——!」
「開幕です!!」
歓声が爆発する。
勇希も思わず笑っていた。
去年までの重苦しい空気が、 嘘みたいだった。
ステージ裏。
さやかは笑顔を作ったまま、 観客を見る。
凄まじい人数。
光。
歓声。
熱気。
耳が痛くなるほどだった。
スタッフが耳打ちする。
「同接数、過去最高更新です!」
「海外トレンド一位入ってます!」
「政府広報もかなり満足してます!」
さやかは頷く。
だが。
違和感が消えない。
観客達の動き。
歓声。
拍手。
何かが妙に揃いすぎていた。
その時だった。
ステージモニターの隅。
ほんの一瞬。
赤い文字。
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SYNC RATE : 12%
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さやかの表情が止まる。
だが次の瞬間には消えていた。
誰も気づいていない。
「さやかさん?」
「……え?」
「次コメントお願いします!」
反射的に笑顔を作る。
ライトが眩しい。
観客達が、 同じタイミングでスマホを掲げる。
その光景に、 なぜか背筋が寒くなる。
同時刻。
ビッグサイロ地下。
関係者以外立入禁止区域。
暗い通路。
サーバールーム。
無数のモニター。
白髪のチーフは、 無言で監視画面を見ていた。
数値が上がっていく。
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SYNC RATE : 15%
18%
21%
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隣の政府職員が言う。
「非常に安定しています」
「問題ありません」
チーフは答えない。
画面を見続ける。
そこには会場全体の生体データが表示されていた。
脈拍。
視線。
感情波形。
同期率。
膨大な数値。
まるで、 会場そのものが巨大な一つの脳になっていくみたいだった。
その時。
別モニターが点滅する。
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EXTERNAL ACCESS DETECTED
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チーフの目が細くなる。
「……鳥羽か」
地下の空気が静かに冷えていく。
一方。
会場外周。
黒い帽子を深く被った男が、 ビッグサイロを見上げていた。
鳥羽宏。
肩には小型カメラバッグ。
イヤホン。
スマホ画面。
そこには、 編集途中の動画ファイル。
タイトル未設定。
鳥羽は呟く。
「始まったな……」
その瞬間だった。
会場全域の大型モニターが、 一瞬だけノイズを走らせる。
ザザッ——。
観客達がざわつく。
だがすぐ復旧。
司会者達は進行を続ける。
誰も気にしていない。
だが。
勇希の端末だけが、 微かに震えていた。
画面には、 通常表示とは別に。
赤い小さな文字。
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SYNC RATE : 24%
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数値は、 ゆっくり上がり続けていた。




