第23話「配信、熱気」
コミックMall開催一週間前。
湾岸地区は、 異様な熱気に包まれていた。
ビッグサイロ周辺では、 巨大広告の設営が続いている。
海外企業ブース。
大型LED。
配信機材。
仮設ステージ。
工事音。
ライト調整。
スタッフ達が慌ただしく走り回る。
その光景を、 さやかは楽屋モニター越しに見ていた。
「……規模デカすぎでしょ」
隣のメイクスタッフが笑う。
「今年ヤバいですよ」
「海外同接かなり行くらしいです」
「政府案件も入ってるし」
さやかは苦笑する。
一年前。
ここは地獄みたいな空気だった。
炎上。
中止。
スポンサー撤退。
SNSは毎日荒れていた。
だが今は違う。
“復活”。
その言葉が、 どこへ行っても並んでいた。
「さやかさん、台本確認お願いします」
スタッフからタブレットを渡される。
そこには:
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【コミックMall応援特番】
【日本サブカルチャーの未来】
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というタイトル。
さやかは小さく息を吐く。
「未来、ねぇ……」
タブレットをスクロールする。
出演者一覧。
海外配信者。
コスプレイヤー。
評論家。
政治家。
企業代表。
まるで国家イベントだった。
その時。
楽屋テレビからニュース音声が流れる。
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『コミックMall開催まで残り七日——』
『海外配信契約数は過去最大を記録——』
『政府関係者は“日本文化復活の象徴”とコメントしています——』
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スタッフ達は盛り上がっていた。
「これ成功したら歴史変わりますよ」
「日本また勝てるって感じ」
「オタク文化最強っすね」
さやかは曖昧に笑う。
その言葉に、 なぜか少し寒気がした。
楽屋の隅。
未開封の箱が積まれている。
その一つへ、 視線が止まる。
白いケース。
管理ラベル。
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【来場者サポートデバイス】
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さやかは眉をひそめる。
「これ何?」
スタッフが答える。
「あー、今年の新システムです」
「出演者も全員装着らしいですよ」
「健康管理とか導線制御とか」
「海外客向け翻訳もできるみたいで」
便利機能の説明。
だが。
箱を見た瞬間。
さやかの胸が妙にざわついた。
「……開けた?」
「いや、まだです」
「当日スタッフが配るって」
その時だった。
楽屋モニターが一瞬だけ乱れる。
ザザッ——。
ノイズ。
映像が止まる。
誰も気づかない。
さやかだけが顔を上げた。
モニター画面。
一瞬だけ。
黒いフレーム。
赤い文字。
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> SYNC CHECK
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次の瞬間。
普通の番組映像へ戻る。
「……え?」
「どうしました?」
スタッフが振り返る。
「いや……今」
だが誰も反応していない。
空調音。
スタッフの笑い声。
遠くの工事音。
全部普通だった。
さやかは無意識に腕をさする。
寒かった。
その時。
楽屋入口の扉が開く。
スーツ姿の男達。
政府関係者パス。
一瞬だけ空気が変わる。
スタッフ全員が姿勢を正した。
男の一人が笑顔で言う。
「本日はご協力ありがとうございます」
「日本文化の未来を、ぜひ世界へ」
その笑顔だけが、 妙に作り物みたいだった。
さやかは何も言わない。
ただ。
モニター画面の隅へ、 まだ微かに赤い残像が残っている気がした。
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> SYNC CHECK
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消えない。
まるで。
何かが、 開始確認をしているみたいに。




