第22話「再開、同期」
五月。
一年ぶりに、ビッグサイロは営業を再開した。
国内外SNSで騒がれた一連の事故。
動画拡散。
陰謀論。
閉鎖要求。
それらは完全には消えていない。
だが時間は、人の熱を薄めていく。
そして政府は動いた。
“安全宣言”。
“新型監視体制”。
“最新セキュリティ導入”。
さらに。
日本サブカルチャー復興政策。
海外メディア招致。
大型配信契約。
コミックMallは、 「日本復活の象徴」として再始動する。
勇希は、そのニュースをスマホで見ていた。
大学の食堂。
昼休み。
周囲では同じ話題で盛り上がっている。
「マジで行く?」
「海外コスプレイヤー来るらしいぞ」
「限定グッズやばいって」
「去年中止だったしな」
勇希は黙って画面を見る。
コミックMall開催告知。
巨大なビッグサイロ。
派手なLED演出。
笑顔の参加者達。
まるで何も無かったみたいだった。
「……すげぇな」
隣の友人が言う。
「行くんだろ?」
勇希は少し迷う。
去年の事故映像。
あの日の異様な空気。
脳裏をよぎる。
だが。
それ以上に。
“戻ってきた”
という感覚が強かった。
「……まぁ、一応」
友人は笑う。
「お前オタクだもんな」
「うるせぇ」
軽口。
普通の空気。
その時。
スマホ通知が鳴る。
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【コミックMall事前登録完了】
【入場用デバイスは当日配布されます】
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勇希は眉をひそめる。
「デバイス?」
友人が覗き込む。
「あー、あれだろ」
「支払いとか会場連動するやつ」
「海外イベントで最近あるじゃん」
勇希は画面をスクロールする。
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【次世代イベントサポートデバイス】
【混雑緩和・健康管理・キャッシュレス決済対応】
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紹介動画が流れる。
腕時計型端末。
笑顔の来場者。
リアルタイムマップ。
翻訳支援。
迷子検知。
便利機能ばかり並んでいる。
「すげぇ時代」
友人は笑う。
勇希も小さく笑った。
だが。
動画の最後。
ほんの一瞬だけ。
画面へノイズが走った。
ザッ——。
勇希は止まる。
「……ん?」
「どうした?」
「いや」
気のせいだった。
もう一度再生しても、何も起きない。
友人は立ち上がる。
「午後講義やべ」
「あー……」
周囲のざわめき。
椅子の音。
食器の音。
いつもの大学。
勇希はスマホを閉じる。
その時だった。
食堂テレビのニュースが耳へ入る。
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『コミックMall開催まで残り二週間——』
『海外来場者数は過去最大規模になる見通しです——』
『主催側は最新安全システム導入を発表——』
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テレビには、 海外コスプレイヤー達の映像が流れている。
笑顔。
歓声。
色鮮やかな衣装。
周囲の学生達も盛り上がる。
「めっちゃ楽しそうじゃん」
「今年過去一らしいぞ」
「絶対人ヤバいだろ」
勇希はその映像を見る。
確かに楽しそうだった。
去年までの不穏さなんて、 もう誰も覚えていないみたいだった。
その時。
スマホ画面が一瞬だけ暗転した。
黒い画面。
そこへ。
赤い文字。
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> SYNC READY
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「……っ」
勇希は反射的にスマホを落としかける。
だが次の瞬間には戻っていた。
普通のホーム画面。
通知も無い。
「何だ今の……」
誰も見ていない。
周囲は普通だった。
勇希はゆっくりスマホを握る。
妙に冷たかった。
窓の外では、 巨大なビッグサイロが遠くに見えていた。
まるで。
何かを待っているみたいに。




