第20話「警告、接触」
夜風が吹く。
遠くでコンテナの金属音が響いた。
鳥羽は端末を見る。
ただの機械にしか見えない。
だが。
視界の端で。
ほんの一瞬だけ。
輪郭がブレた気がした。
ノイズみたいに。
鳥羽は目を細める。
「……何だ」
「見え始めたか?」
チーフが小さく呟く。
鳥羽は顔を上げる。
チーフは鳥羽を見ていた。
その目は、少しだけ険しい。
「近づきすぎると、認識がズレ始める」
「永山もそうだった」
鳥羽の背筋へ冷たいものが走る。
チーフは続けた。
「事故を起こすための設計じゃない」
「だが、観測条件が揃いすぎてる」
「今のILSは、誰にも完全制御できない」
港の風が強くなる。
鳥羽は聞く。
「止められないんですか」
チーフは静かに首を振った。
「もう国家案件だ」
「海外も動いてる」
「止まらん」
短い沈黙。
やがてチーフは鳥羽へ端末を投げる。
鳥羽は慌てて受け取った。
ズシリと妙に重い。
黒い画面。
そこへ自分の顔が映る。
だが一瞬。
自分の表情が、ほんの少し遅れて動いた気がした。
鳥羽の呼吸が止まる。
次の瞬間には戻っていた。
気のせい。
そう思うしかない。
チーフは背を向ける。
「これ以上近づくと、本当に消されるぞ」
鳥羽は聞く。
「あなたは?」
チーフは数歩歩いたところで立ち止まる。
港の灯りが、黒いコートを淡く照らしていた。
「……鳥羽」
初めて名前を呼ばれる。
鳥羽の表情がわずかに変わる。
チーフは振り返らないまま言った。
「明日の夜」
「二十二時」
「さっきのバーへ来い」
夜風が吹き抜ける。
「全部渡す」
そのままチーフは港の闇へ消えていった。
鳥羽はしばらく動けなかった。
手の中の黒い端末だけが、異様に冷たかった。




