第2話「降下、リアルロボ」
空は、何もなかった。
少なくとも、誰の目にも。
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東都ビッグサイロの上空は、あの日と同じ青さを保っている。
だが、それが逆に不自然だった。
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「……データは?」
「異常なしです。すべて正常値の範囲内」
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モニターに並ぶ数値は、どれも“安全”を示している。
だが、その“完璧さ”が現場の空気と噛み合っていなかった。
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二ヶ月前。
この場所で“何か”が起きた。
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だが公式記録には残っていない。
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残っているのは、削除しきれなかった断片的な噂だけだ。
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「空から何かが降りてきた」
「建物が動いた」
「ロボットが……戦った」
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どれも現実味がない。
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だが――
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“何もなかった”と言い切るには、無理がある。
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「……あり得ない、はずなんですけどね」
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男はそう呟きながら、キーボードを叩く。
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富野光。29歳。
システムエンジニア。
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本来はただの保守要員だった。
だが“あの事件”以降、この施設へ呼び戻された。
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理由は知らされていない。
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ただ一つ分かっているのは、
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この施設には“何か”がある、ということだけだ。
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通称“ILS”と呼ばれているシステム。
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詳しい仕様は開示されていない。
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だが、扱っているデータだけは異常だった。
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(バカげてる)
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そう思いながらも、ログを追う手は止まらない。
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プラモデル展示会。
リアル志向の機体設計をテーマにした、技術寄りのイベント。
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(……今日、行きたかったな)
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本来なら、客として来るはずだった。
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図面や構造を眺めて、ああでもないこうでもないと考える。
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フレーム構造。重量バランス。推力配置。
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“現実に動くロボット”を考える、あの感覚。
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それが、たまらなく好きだった。
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(推力比が合わない……いや、重心位置か)
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無意識に、機体構造を分解して考えている。
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そのとき。
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画面が、一瞬だけ歪んだ。
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数値が揺れる。
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あり得ない変動。
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「……は?」
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次の瞬間。
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“何もない空間”に、線が走った。
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「……なんだ、これ」
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ログには記録されていない。
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センサーにも反応がない。
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だが、確かに“見えている”。
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線が、増える。
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収束する。
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一点へ。
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そして。
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“それ”は落ちてきた。
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上空で空気が焼ける。
白い軌跡が幾本も引かれる。
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落下ではない。
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“制御された降下”。
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複数。
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(……編隊?)
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それぞれが軌道を調整し、間隔を保っている。
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(姿勢制御してる……?この速度で?)
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あり得ない。
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だが、現実に“やっている”。
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外殻が赤く染まる。
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それでも崩れない。
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“耐える設計”。
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最初の一機が減速する。
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脚部が展開される。
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関節がロックされる。
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ドン――!!
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地面が沈む。
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続いて、二機、三機。
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合計五機。
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すべて同じ規格。
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無駄がない。
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装飾がない。
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機能だけで構成された存在。
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(……量産機)
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五機が、同時にこちらを向く。
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狙いが、合う。
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「……最悪だな」




