第1話「起動、ビッグサイロ」
この物語は「認識改変」をテーマにしたSFです。
日常が少しずつ狂っていく過程を、じっくり描いています。
急展開が好きな方には向かないかもしれません。
また、軽い暴力描写・精神的な違和感描写があります。
苦手な方はご注意ください。
それでは、どうぞお楽しみください。
空が、割れていた。
正確には、空というものの“定義”が崩れていた。
東都ビッグサイロの上空だけ、世界の密度が変わっている。
ノイズの走った空撮映像の奥に、“線”が現れる。
方向ではない。
意味だけを持った軌跡。
現実が、後から追いついてくる。
“形”が先に存在し、そこへ世界が合わせにいく。
巨大な骨格が、組み上がっていく。
未完成のはずなのに、完成したものとして扱われている。
■数分前
「昭和スーパーロボット展」の会場は、穏やかな熱気に包まれていた。
永山豪太(55)は、紙袋を片手にレジ待ちをしていた。
大手メーカーの部長。
今日は“視察”という名目で来ているが、実際は半分以上が趣味だ。
(こういうの、つい買っちまうんだよな……)
復刻されたプラモデル。
懐かしい冊子。
隣では子どもが巨大ロボのフィギュアを見上げている。
ありふれた光景。
その日常が、音もなく崩れた。
館内アナウンスがノイズに飲み込まれる。
「――緊急。全来場者は地下へ避難してください」
ざわめきが広がる。
理解できない不安。
その瞬間。
イメージリンクシステム(ILS)が、微かに反応した。
“何かが来る”
理由のない確信。
外で、空が割れた。
■機竜
それは、すでに“そこにあった”。
機械の骨格。
恐竜の輪郭。
“全部盛り”の記号で構成された、異様な存在。
誰かが呟く。
「……恐竜だ」
その言葉が、現実になる。
骨格に意味が宿る。
“恐竜”という概念が、構造として成立する。
機竜。
それはゆっくりと地面に接続される。
そして――動く。
機竜が前脚で地面を押す。
コンクリートが砕ける。
機竜の後脚が踏み込む。
“重いことになった”結果として、大地が割れる。
上体が持ち上がる。
その動きは、生物のものではない。
どこかで見た、“巨大ロボットの立ち上がり”。
胸部が不自然に張り出す。
頭部は爬虫類と人型ロボットの記号を併せ持つ。
機竜の眼が光る。
そして、こちらを見る。
そこには、明確な“意思”があった。
機竜が咆哮する。
「恐怖せよ……我ら悪魔軍団が……」
歪んだ声が、会場全体に響き渡る。
■逆行
人々が悲鳴を上げ、地下へと殺到する。
だが――
永山豪太だけが、逆方向へ歩き出していた。
通路の奥。
そこに扉がある。
『操縦室』
「……なんだこれ」
だが分かる。
ここだ、と。
■起動
扉を開ける。
中央に一脚のシート。
簡易マニュアル。
■基本操作
・本機は搭乗者の思考により制御される
(雑だな……)
苦笑した、その瞬間。
全身が熱い波に包まれる。
意識が引き伸ばされる。
思考が、建物へと流れ込む。
ビッグサイロ全体が反応する。
外壁が分割される。
内部から巨大なフレームがせり上がる。
腕部が形成される。
直線的な装甲。
見せるための関節。
脚部が接地する。
胸部が、過剰なほどに張り出す。
肩にスパイク。
両腕に射出機構。
頭部が形成される。
それは――
“理想のスーパーロボット”。
少年時代に夢見た、あのシルエット。
合理性ではない。
格好良さで構成された存在。
機体が、完全に直立する。
――静止。
一拍。
まるで“見せつけるための間”。
ゆっくりと、首が動く。
視線の先には、機竜。
■理解
全てが繋がる。
見えるのではない。
理解する。
機体の構造。
敵の構造。
そして――
「……切れる」
理由は分からない。
だが、それが最適解だと理解していた。
■必殺
機竜が、巨大な右腕を振りかぶる。
その影が、ビッグサイロを覆う。
次の瞬間。
永山は叫んでいた。
「ミサイルチョォォォォップ!!」
ビッグサイロの腕部が射出される。
炎の尾を引き、一直線に走る。
軌道ではない。
結果が先に成立する。
機竜の胴体に、一本の線が走る。
遅れて音。
遅れて、崩壊。
半身が、ずれる。
「……終わったのか?」
数秒の静止。
そして機竜は、崩れ落ちた。
■エピローグ
事件は「施設の設備不具合」として処理された。
動画は削除された。
記録も曖昧に処理された。
だが、噂は消えない。
「あの日、空から何かが降りてきた」
ネット上では断片的な証言が拡散される。
「ビッグサイロは国防ロボットだった」
公式は否定する。
「最新の安全システムにより被害はゼロ」
そして――
“日本一安全な施設”として宣伝を始めた。
二ヶ月後。
次のイベントの準備が進められている。
一方、無機質な監視室。
低い声が響く。
「……また“適性者”か」
わずかな沈黙。
「記録しろ」
「今回のプロトコルは――」
「“昭和型ヒーロー”だ」
続く。
第1話をお読みいただきありがとうございます!
この作品は「違和感」がゆっくり積み重なっていくタイプの話です。
最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
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