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ビッグサイロ・プロトコル  作者: 山田の
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第17話「追跡、最初の搭乗者」

雨は止んでいた。


だが、空気は重いままだった。


バーの片隅。


鳥羽宏は、黙ったままUSBの映像を見返している。


ノイズ。


揺れる画面。


断片的な悲鳴。


そして。


巨大な“何か”。


停止。


巻き戻し。


拡大。


何度見ても、形が安定しない。


「……なんなんだよ、これ」


独り言のように呟く。


そこへ。


グラスが置かれる。


チーフだった。


「まだいたのか」


「あなたが帰らなかったので」


鳥羽は少し笑う。


チーフは答えない。


短い沈黙。


やがて鳥羽が口を開く。


「この研究、危険なんじゃないですか」


チーフの手が止まる。


鳥羽は続ける。


「現象は拡大してる」


「映像は消えてる」


「観測だけが増えてる」


「なのに、あなた達は止めてない」


静かな声だった。


責める口調ではない。


だからこそ重い。


チーフはグラスを見たまま言う。


「……止められる段階じゃない」


その一言だけで。


空気が変わる。


鳥羽の視線が鋭くなる。


「やっぱり、“起きてる”んですね」


沈黙。


ジャズだけが流れている。


チーフはゆっくり息を吐く。


「俺は現場責任者だ」


「だが、全部を知ってるわけじゃない」


「適合者情報も、監視記録も、別管理だ」


「情報管理課……?」


チーフは答えない。


だが否定もしない。


鳥羽は確信する。


“搭乗者”がいる。


あれを動かした人間が。


「会わせてください」


即答だった。


「無理だ」


「なぜ」


「お前が思ってるより、ずっと深い」


チーフの声は低い。


「名前も住所も、俺には開示されてない」


「じゃあ、あなたは何を管理してるんです?」


その言葉に。


チーフは少しだけ笑った。


乾いた笑いだった。


「……現象だよ」


沈黙。


鳥羽はそこで初めて理解する。


この男もまた。


“外側”にいるわけじゃない。


中に飲まれている。


長い沈黙のあと。


チーフがポケットから紙片を取り出す。


折り畳まれた、古い出力ログ。


カウンターへ置く。


鳥羽は視線を落とす。


そこには断片だけが残っていた。


『昭和スーパーロボット展』


『来場企業一覧』


『双葉重工』


『来場者ログ:NAGAYAMA GOTA』


鳥羽が顔を上げる。


チーフは言う。


「最初のケースだ」


「当時は隠蔽手順も完成してなかった」


「消しきれなかった」


「……適合者?」


チーフは少しだけ黙る。


やがて。


「そう呼んでる」


初めて認めた。


鳥羽の鼓動が少しだけ速くなる。


ついに、“人”へ繋がった。


だが。


チーフの視線は重いままだった。


「勘違いするな」


「そいつは被験者じゃない」


「被害者だ」


静寂。


ジャズだけが流れている。


チーフはグラスを空ける。


そして、低く続けた。


「……未だに監視下かもしれない」


鳥羽の表情が止まる。


「何があっても、俺は責任を取れないぞ」


その言葉は脅しじゃなかった。


本気だった。


国家なのか。


情報管理課なのか。


それとも、もっと別の何かなのか。


チーフ自身にも、もう分からなくなっていた。


ただ一つだけ。


確かなことがある。


“あれ”に関わった人間は。


誰一人として、完全には日常へ戻れていない。

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