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ビッグサイロ・プロトコル  作者: 山田の
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第16話「接触、外側」

防衛庁中央庁舎。


地下会議室。


時計の音だけが、やけに響いていた。


チーフは席に座っている。


長机の端。


発言権が強い位置ではない。


向かい側には、防衛庁幹部。


内閣危機管理室。


情報統制部門。


見慣れないスーツ姿もいる。


誰も笑っていない。


モニターには、断片映像。


ぼやけた巨大影。


空の裂け目。


発光。


すべて数秒。


だが、それで十分だった。


「海外側が観測を開始しています」


淡々とした声。


「……どこまで漏れてます」


チーフが聞く。


だが返答した男は、チーフを見ない。


「現時点では限定的です」


「ただし、複数事案の関連性について分析が始まっています」


映像が切り替わる。


昭和ロボ型。


量産機型。


少女型。


全部、別事件。


別処理。


別報告。


そのはずだった。


「削除は?」


「国内は概ね完了しています」


「問題は海外です」


別の男が口を開く。


「ミラーサイト」


「動画保存文化」


「SNS拡散」


「考察コミュニティ」


「完全削除は不可能です」


チーフは黙る。


“考察”。


その言葉が嫌だった。


今のILSにとって、それは単なる噂ではない。


入力だ。


蓄積だ。


誰かがモニターを切り替える。


海外掲示板。


翻訳投稿。


解析動画。


そこには。


『Japanese Reality Weapon』


『Collective Consciousness System』


『Living Kaiju』


そんな文字が並んでいた。


「米国側から問い合わせが来ています」


「欧州側も動き始めています」


「情報機関経由です」


沈黙。


やがて、正面中央の男が口を開いた。


「結論を言います」


空気が固まる。


「東都ビッグサイロで予定されている全イベントを、当面凍結します」


チーフの視線がわずかに動く。


だが何も言わない。


「理由は施設点検」


「安全基準再確認」


「対外説明はこちらで処理します」


「ILS研究については?」


チーフが聞く。


その瞬間だけ。


何人かの視線がこちらを向いた。


「継続です」


即答だった。


「研究区画を地下へ完全移行」


「アクセス権限も再編します」


つまり。


表は閉じる。


裏だけ残す。


チーフは理解する。


(切り分け始めたな)


もし何か起きたとき。


施設運営と研究を分離しておけば。


責任も分離できる。


「以上です」


会議は終わる。


誰も雑談しない。


椅子の音だけが響く。


チーフは最後に席を立った。



---


夜。


雨。


防衛庁を出たあとも、頭の奥に会議室の空気が残っていた。


車を降りる。


裏通り。


古いバー。


看板も小さい。


知らなければ通り過ぎる店。


最後に来たのは何年前か。


もう覚えていない。


扉を開ける。


小さなベル。


ジャズ。


暗い照明。


わずかに酒の匂い。


地下とは違う空気だった。


マスターが目を上げる。


「珍しいですね」


「……そうだな」


短く返す。


カウンター端へ座る。


ウイスキーを頼む。


氷の音だけが静かに響く。


やっと少しだけ、呼吸できた気がした。


グラスへ手を伸ばした、そのとき。


「お久しぶりです」


声。


チーフの動きが止まる。


隣。


男が座っていた。


五十前後。


ラフなジャケット。


穏やかな顔。


だが目だけが鋭い。


チーフは視線だけ向ける。


「……誰だ」


男は少し笑う。


名刺を置く。


『鳥羽宏

ジャーナリスト/映像ディレクター』


嫌な記憶が引っかかる。


鳥羽は静かに言う。


「昔、一度だけ取材を断られました」


チーフは答えない。


鳥羽は続ける。


「安心してください」


「今日は記事を書きに来たわけじゃない」


「じゃあ何だ」


鳥羽は小さなUSBメモリをカウンターへ置く。


「消された映像です」


沈黙。


チーフは触れない。


鳥羽が言う。


「昭和ロボット展」


「リアルロボ展示会」


「恋愛ゲームイベント」


「2.5次元ライブ」


「全部、別件処理でした」


「でも私は、同じものだと思ってる」


ジャズだけが流れている。


チーフは低く返す。


「……オカルト番組でも作る気か」


鳥羽は首を振る。


「私は陰謀論が嫌いです」


「ただ」


少しだけ目が鋭くなる。


「“消された映像”には興味がある」


沈黙。


チーフはグラスを持つ。


氷が小さく鳴る。


鳥羽はそこで初めて、本題を口にした。


「あなた達、何を見てるんです?」


チーフは答えない。


答えられない。


まだ自分でも、 完全には理解できていないからだ。


長い沈黙。


やがて。


チーフが小さく息を吐く。


「……やめとけ」


鳥羽が視線を向ける。


「忠告ですか?」


「警告だ」


初めて、感情が混じる。


チーフは低く続けた。


「これ以上近づくと、消されるぞ」


静寂。


ジャズだけが流れている。


鳥羽は少しだけ笑った。


「誰に?」


チーフは答えない。


答えられなかった。


政府か。


海外か。


ILSそのものか。


もう境界が分からなくなっていた。


ただ一つだけ。


確かなことがある。


“あれ”は、 もう誰か一人が管理できる段階を過ぎていた。

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