第14話「解析、残響」
雨だった。
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防衛庁第八地下研究棟。
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地上の音は届かない。
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時間の感覚も薄い。
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あるのは機械音だけだった。
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チーフは無言でモニターを見ている。
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昭和型。
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リアルロボ型。
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恋愛バグ型。
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ライブ型。
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四つの映像が並ぶ。
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どれもノイズだらけ。
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まともな映像は存在しない。
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だが。
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「……同じだな」
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誰に言うでもなく呟く。
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肩部構造。
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骨格生成順。
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接続タイミング。
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全部、微妙に一致している。
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あり得ない。
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まったく別のイベントだ。
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観客層も違う。
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年齢も。
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趣味も。
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なのに。
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“同じ癖”がある。
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分析官が資料を持って近づく。
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「脳波ログ、整理終わりました」
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チーフは受け取る。
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ページをめくる。
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同期率。
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感情波形。
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視覚反応。
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そして。
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「……また上がってるのか」
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恋愛ゲームイベント以降。
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観客側の同期率が異常に高い。
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ライブイベントではさらに増加。
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「搭乗者以外への接続痕が確認されています」
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「範囲は?」
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「地下シェルター全域です」
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チーフは沈黙する。
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最初は“適性者”だけだった。
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永山。
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富野。
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勇希。
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上松さやか。
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選ばれた個人。
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そのはずだった。
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だが今は違う。
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観客側にも微弱リンクが発生している。
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“見る”だけで接続している。
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「……広がってるな」
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分析官が少し声を潜める。
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「上層部は、観測範囲の拡大を提案しています」
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「却下しろ」
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即答だった。
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分析官が固まる。
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チーフは画面から目を離さない。
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「これ以上リンク範囲を広げるな」
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「ですが、ILS200年計画は——」
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「分かってる」
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低い声。
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二百年後。
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人口減少。
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兵士不足。
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高齢化。
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国家防衛維持困難。
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だから。
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誰でも扱える兵器が必要だった。
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脳波接続型兵装。
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ILS。
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理論上は正しい。
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だからチーフも参加した。
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だが。
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「これは兵器じゃない」
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気づけば口に出ていた。
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分析官が沈黙する。
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チーフ自身も、それ以上続けなかった。
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部屋が静かになる。
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モニターのノイズだけが動く。
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そのとき。
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画面が、一瞬だけ止まった。
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昭和型のフレーム。
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巨大な白い人型。
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ノイズの奥。
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顔が、こちらを向く。
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「……っ」
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チーフの指が止まる。
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今。
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見た。
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確かに。
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“目が合った”。
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次の瞬間には通常ノイズへ戻っている。
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分析官は気づいていない。
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「……再生停止」
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チーフが低く言う。
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映像が止まる。
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フレームを戻す。
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何もない。
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ただのノイズ。
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「どうしました?」
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「……いや」
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答えながら、チーフは理解する。
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最初は解析不能だった。
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だが最近。
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“見える”。
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形として。
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意味として。
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認識できてしまう。
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それは理解ではない。
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侵食だった。
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チーフは静かに席を立つ。
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研究棟の廊下。
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無機質な白。
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長い沈黙。
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自販機でコーヒーを買う。
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冷めた缶を持ったまま、壁にもたれる。
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ふと。
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廊下のモニターが点灯する。
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誰も触っていない。
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『ILS待機状態』
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その文字だけが表示される。
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チーフは目を細める。
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次の瞬間。
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表示が乱れる。
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ノイズ。
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そして。
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ほんの一瞬だけ。
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『接続待機中』
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表示が変わる。
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チーフの呼吸が止まる。
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すぐに画面は消えた。
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ただの誤作動。
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そのはずだった。
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だが。
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(……待っている?)
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誰を。
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何のために。
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答えはない。
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地下研究棟には、機械音だけが残っていた。
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続く。




