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第89話「神聖国軍、魔王に遭遇する」

 ──同時刻、神聖国軍の陣地で──




「なんなのだ、あの船は!!」


 ここは、神聖国軍の本陣。

 将軍たちを指揮する神官……その頂点に立つ大神官は、やってきた船を呆然(ぼうぜん)と見つめていた。


 神聖国は聖女をあがめる国だ。

 かつて初代王アルカインと共に魔王を討伐したという聖女キュリア。

 その弟子たちの子孫によって、民は導かれている。


 彼らの教義(きょうぎ)は次の通りだ。



『初代王アルカインによって、聖女キュリアの功績(こうせき)(うば)われた』

『アルカインは、聖女から豊かな土地を奪い取り、ランドフィア王国を打ち立てた』

『そのランドフィア王国は強大な軍事力で周辺国を圧迫(あっぱく)する、悪逆非道(あくぎゃくひどう)の国である』


『聖女は、ランドフィア王国を滅ぼすことを望んでいるはず』



 ──と。


 ランドフィア王国は強い。

 彼らは多数の兵とマジックアイテムを所有している。

 その上、異世界人を召喚(しょうかん)して、その力を利用しているという。


 対する神聖国は小国だ。領土も狭く、土地も()せている。

 人口もランドフィア王国にはおよばない。


 だから、魔法の研究をひたすらに続けてきた。

 目的は初代王アルカインのマジックアイテムを超えることだ。


 ──たとえば、人間を強化することで。

 ──たとえば、アイテムを作り出すことで。

 ──たとえば、アルカインのマジックアイテムを研究することで。


 そうやって神聖国は、技術力を高めてきた。


 もっとも力を注いだのは、『ホーリィ・スピリット』の封印を解くことだった。

 200年前、神聖国の者たちは、国境近くの山で初代王アルカインのアイテムを発見した。

 地下に隠されていたものが、山崩(やまくず)れで姿を現したのだ。



 発見されたのは(にぶ)い光を放つ『杭』だった。



 神聖国は180年の歳月(さいげつ)をかけて、『杭』の分析と研究を続けた。

『杭』の下に、巨大な生き物が封印されていることに気づくまでに100年。

 封印を一部解除するまでに、さらに80年。

 その生き物をコントロールできる人間を作り出すのに、20年の歳月が必要だった。


 そうして生み出されたのが、操作可能な『ホーリィ・スピリット』

 そして『ホーリィ・スピリット』を操る力を持つ人間──神聖王だった。


 神聖王は歴代の神官や聖女を掛け合わせて作り出された少女だ。

 強大な魔力と、魔法の力を兼ね備えている。

 もちろん、大神官の血も引いている。


 彼女が作り出されるまでの間に、100人以上の失敗作ができたが、それも過去のことだ。

 ほとんどの者は処分(しょぶん)された。

 生き残った者は、兵士として前線に投入されているはずだ。


 神聖王は完成した。

『ホーリィ・スピリット』の使役(しえき)にも成功した。

 神聖国側に侵攻の準備が整った直後……国境の(とりで)に、文書をたずされた鳥が飛んできた。


 書状は、カザネと名乗る人物が書いたものだった。

 彼女はランドフィア王国に召喚された聖女だという。


 その書状を受け取ったとき、神聖国は大騒(おおさわ)ぎになった。

 聖女の書状には、次のようなことが書かれていたからだ。




『ランドフィア国王は病床(びょうしょう)についております』

『王都の北にある灰狼領(はいろうりょう)には邪悪な魔王がおり、王都を(ねら)っております』

『どうか、私を助けてください』

『魔王が王都を(おそ)ったときには、私の逃げ場となってください』

『そうしていただければ、私は神聖国にすべての情報をお伝えしましょう』

『代わりに……いつか魔王を討伐(とうばつ)してくださると、お約束ください』




 神聖国はランドフィア王国に、数多くの諜報員(ちょうほういん)を送り込んでいる。

 情報は伝わってくる。

 国王が最近、人前に姿を現さないことも聞いている。


 神聖国にとっては、侵攻(しんこう)の好機だった。


 口実はシンプルだ。『聖女に助けを求められた』。それだけ。

 神聖国は聖女を崇拝(すうはい)している。

 不当に召喚された聖女が助けを求めているという口実ならば、出兵できる。



 そう考えた大神官は、軍と『ホーリィ・スピリット』を動かしたのだった。



『ホーリィ・スピリット』は強力だった。


 球体障壁(きゅうたいしょうへき)はランドフィア王国の『不死兵(イモータル)』と、マジックアイテムを無力化した。

 治癒能力(ちゆのうりょく)覚醒能力(かくせいのうりょく)は、兵たちを休みなく戦わせることを可能にした。

 その力に、ランドフィア王国の兵士は恐怖し、敵軍は崩壊(ほうかい)しはじめた。


 あと一歩で、勝てるはずだった。


「なのに……どうして魔王が出てくるのだ!! 魔王はランドフィア王国を(にく)んでいるのではなかったのか!?」

「わ、わかりません。使者メーレンはなにをやっているのか……」

「とにかく、魔王に接触するのだ! 今、奴に介入(かいにゅう)されたら──」


 敗北することはないと思う。

『ホーリィ・スピリット』は絶対の防御能力を持っているのだ。

 それを操る神聖国が敗れるとは考えにくい。


 だが、被害は出るだろう。

『ホーリィ・スピリット』がランドフィア王国軍に対応している間に、魔王に本陣を狙われたらまずい。

 かといって、魔王に『ホーリィ・スピリット』を差し向けるのも危険だ。

 その(すき)に本陣が、ランドフィア王国軍の攻撃を受けるかもしれない。


「魔王め! こちらは(れい)()くしたというのに……しょせん、奴は邪悪な異世界人か!!」

拡声魔法(かくせいまほう)の用意ができました」

「よし!」


 大神官は魔王がいる船を見た。


「魔王コーヤ・アヤガキどの。こちらは神聖王国軍を預かる大神官、ローガス・マキアである!!」


 大神官は声をあげた。


「神聖国は貴公と争うつもりはない! それどころか、和平の使者を送ったはずだ!! なのになぜ、戦に介入しようとなさるのか!!」

「戦に介入するつもりはないと言っている」


 魔王の答えが返って来る。

 船上にいる彼の姿が見える。

 頭に(つた)のような(かんむり)()けている。

 身にまとっているのは、薄緑色(うすみどりいろ)のローブだ。手しているのは、巨大な杖。


 神秘的な姿だったが、あれが魔王であることに間違いはない。

 魔王以外の誰が、船ごと戦場に乱入できるというのだろう。



「俺はナタリア殿下に船を返しに来た」



 その魔王は神聖国の者たちを見据(みす)えたまま、叫んだ。


「それと、精霊や竜の親戚(しんせき)がいるようなので、確認に来たんだ」

「精霊や竜の親戚ですと!?」

「ああ。あんたたちは『ホーリィ・スピリット』と呼んでいるらしいが」

「────!?」

「それは聖女が勝手につけた名前だ。俺の仲間によると、本名は『神鳥クルトア』と言うらしい。200年前、卵から生まれたところを、聖女キュリアに拾われたとか。それで聖女の味方をしていたという話を聞いたが?」

「…………な、なんだと」


 神聖国にそのような伝説は残っていない。

 あの鳥は『ホーリィ・スピリット』──防御と治癒(ちゆ)をつかさどる使い魔。

 それだけのはずだ。


「神鳥は竜や精霊の仲間だ。なかでも位は高く、亜神(あしん)や大精霊と呼ばれているらしい。そして、俺は精霊王であり、竜王でもある。仲間が強引に操られているのを見過ごすことはできない。だから、神鳥を解放してもらえるように交渉に来た」

「…………魔王を(だま)らせろ!」


 即座に大神官は指示を出す。

 魔王の言葉は、神聖国の教義(きょうぎ)に反している。

 そんなものを認めるわけにはいかない。

 今すぐ、魔王の口を封じるべきだろう。


 あの銀色の鳥は『ホーリィ・スピリット』なのだ。

 聖女キュリアの使い魔であり、神聖国があがめる存在だ。

 それを『亜神(あしん)』『大精霊』と言い張る魔王は、存在してはいけない。


「お願いします。神聖王さま」


 大神官はかたわらにいる女性に声をかけた。


「『ホーリィ・スピリット』の力で、今すぐ魔王を、障壁のなかに封印してください。『邪悪は開かぬ壁の中へ』『邪悪は見えないところへ』!!」

「────受諾(じゅだく)


 フードをかぶった女性が、杖を掲げた。

 彼女こそが200年にわたる研究の結果として生まれた人間──神聖王だった。


 あらゆる聖女と神官を掛け合わせて生まれた最強の存在。

『ホーリィ・スピリット』を操作するためだけに作られたもの。

 それゆえに『神聖王』と名付けられている。


『ホーリィ・スピリット』を操作できるのは、神聖王のみ。

 その神聖王は杖を掲げて、つぶやく。


「我が国は正しき道を。聖女の功績を取り返す。『ホーリィ・スピリット』よ。邪悪なるものを封じたまえ」

『ォオオオオオオオォァアァァァァ』


 巨大な鳥が、震えた。

 そして──無数の球体障壁(きゅうたいしょうへき)が、魔王めがけて押し寄せたのだった。




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