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第90話「神鳥クルトアを解放する(1)」

 ──コーヤ視点──




「まあ、簡単には納得してくれないよな」


 いきなり魔王がやってきて『お前んちのご神体はうちの親戚(しんせき)だ』と言っても通じるわけがない。

 神聖国軍の頭上にいるあの鳥は、うちの身内なんだけど。



『ホーリィ・スピリット』の本名は、神鳥クルトア。

 精霊や竜の親戚(しんせき)で、聖女キュリアによって強引に使い魔にされた生き物だった。



 神鳥クルトアは、生命と守護(しゅご)をつかさどっている。

 自由を愛し、空をあちこち飛び回る習性があるらしい。

 やさしい生き物で、傷ついた人や動物を治療(ちりょう)したり、弱い者を障壁(しょうへき)で守ったりしていたそうだ。


 そして、転生を繰り返す生き物でもある。

 神鳥クルトアは数百年ごとに卵を残して死に、卵の状態で生まれなおす。

 それは『弱い生き物の気持ちを知るため』だそうだ。


「神鳥クルトアは、本当にやさしい生き物なの」

「たぶん、卵になったところを、聖女に狙われたんだと思うわ」


 それが、ティーナとメルティの意見だった。

 聖女は卵から生まれたばかりの神鳥クルトアに魔法をかけたんだろう。

 そうして、使い魔として魔王討伐に利用した。

 魔王が討伐されたあとは用済みだから、地下深くに封印した。


 その神鳥クルトアが今、神聖国に使役(しえき)されている、ってことだ。

 

「神聖国には神鳥クルトアを解放する気はないか……。となると、直接クルトアに呼びかけるしかないな」


 俺はティーナと精霊たちの方を見た。


拡声魔法(かくせいまほう)を頼む。音量は……眠ってる奴をたたき起こせるくらいで」

「はい。マスター」

「「「しょうちなのですー」」」


 ティーナと精霊たちが答える。

 俺は目一杯に息を吸い込み、叫ぶ。



「人に使われるままで良いのか!? 神鳥クルトアよ!!」



 びくん。



 反応があった。

『ホーリィ・スピリット』改め、神鳥クルトアが俺を見た。


 浮遊(ふゆう)する巨大な身体が、(ふる)えている。

 大きな目がうるんでいる。助けを求めてるのが、わかる。


 俺がそう思うのは、神鳥クルトアの背中に『(くい)』が刺さっているからだ。

 あれは、ティーナたちを封印していたものと似ている。

 たぶん、初代王アルカインのマジックアイテムだ。


『杭』には無数の鎖と、アミュレットが(から)みついている。

 神鳥クルトアが震えるたびに、それらがカチカチと音を鳴らす。

 その音が不快なのか、神鳥クルトアが悲鳴のような声をあげる。


 あの『杭』とアミュレットが、神鳥クルトアを支配しているらしい。


「ティーナと精霊たちはあの『杭』とアミュレットを調べてくれ」

「はいなの。マスター!」

「アリシアは例のものを、俺に!」

「承知しました。コーヤさま!!」


 うなずいたアリシアが長細い箱を差し出す。

 箱を開くと──入っていたのは黒い剣。魔王剣ベリオールだ。


「アリシアに確認」

「は、はい!」

「伝説の『ホーリィ・スピリット』は初代王アルカインと聖女を助けた。だけど、魔王とは戦ってないんだよな?」

「そうです。『ホーリィ・スピリット』が行ったのは、あくまでも魔王軍と戦う兵士の支援(しえん)でした。彼らを守る障壁(しょうへき)を張り(めぐ)らせ、傷ついた者の治療(ちりょう)を行ったと言われています」

「ありがとう。よくわかった」


 俺は魔王剣ベリオールの刀身を伸ばしていく。


 神鳥クルトアが生み出す球体障壁(きゅうたいしょうへき)が、こちらに押し寄せてくる。

 神聖国は、あの中に俺たちを閉じ込めるつもりなんだろう。


 視界の(はし)に見えてるからな。

 球体障壁の中でもがいている大量の『不死兵(イモータル)』が。


 神聖国は王家のマジックアイテムへの対策として、神鳥クルトアを持ち出したんだろう。

 だけど、あいにくだったな。

 この魔王剣ベリオールは、初代王のマジックアイテムじゃないんだ。


「切り裂け! 魔王剣ベリオール!!」


 押し寄せる球体障壁に向かって、俺は魔王剣を振った。

 黒い刀身がしゃぼん玉のような障壁に触れる。食い込む。両断して──通り抜ける。


 ぱちん、と音がして、球体障壁が(はじ)けて、消えた。


「────な、なに!?」


 ああ。大神官、拡声魔法を使ったままおどろいてるな。

 気持ちはわかるけど。

 あいつらは魔王剣を見るのもはじめてだろうから。


 アリシアは言ってた。『ホーリィ・スピリット』は魔王とは戦っていない、と。

 だけど、普通に考えたらおかしい。

 障壁と回復能力なんて、ラスボス戦には絶対に必要なものなんだから。


 アルカインと魔王が戦ったのは、天井のない場所だったと聞いている。

 そんな場所なら、神鳥クルトアの航空支援が十分に得られたはず。


 なのに『ホーリィ・スピリット』を魔王戦に使わなかったということは……あの障壁(しょうへき)では、魔王剣を防げない可能性が高い。

 だから初代王アルカインと聖女は、魔王戦に『ホーリィ・スピリット』を連れて行かなかったんだろう。


 障壁が通じないなら、巨大な鳥は魔王剣のいい的だ。

 だったら魔王軍と戦う兵士たちの支援をさせた方がいいからな。


 そう思って魔王剣を使ってみたんだが、正解だったみたいだ。


「えい。とぅ。よっと」


 魔王剣を振り回すと、面白いように障壁が消えていく。

 だけど、楽しんでばかりはいられない。

『ホーリィ・スピリット』──もとい、神鳥クルトアのところに行かないと。


「ティーナ。精霊たち。飛行魔法を頼む」


 俺は精霊王モードにチェンジする。


「船の守りはアリシアに任せるよ。灰狼から連れてきた『不死兵(イモータル)』を、好きに使ってくれ」

「え? でも『不死兵』では球体障壁を破れないのですが……」

「破る必要はないよ。アリシアが『不死兵』を好きなように使えば、捕まることはないんだから」

「あ……はい。わかりました! ところで……」

「なんだよ」

「コーヤさまのおっしゃる『好きなように』というのは、『不死兵』を好きなように操ってもいいという意味ですよね? 『不死兵』を、わたくしの好む姿にするという意味では──」

「それじゃティーナ。行こうか」

「はーい。マスター」

「あ、あの!? コーヤさま! お答えをいただいておりません。そ、そんなぁ……」


 あわてるアリシアを残して、俺とティーナと精霊たちは飛び上がる。

 使うのは集団魔法の『アルティメット・フライ』。

 高速の飛行魔法で、俺たちはまっすぐ、神鳥クルトアに向かっていく。


 振り返ると船の上にいる『不死兵』が装甲(そうこう)をパージするのが見えた。

 アリシアの魔力結晶を宿した『不死兵』の力だ。

 そのまま『不死兵』たちは船を飛び降りて、アリシアたちの守りに入る。


 すでに神聖国は、兵力の一部を船の方に差し向けてる。

 兵士たちは船に近づいて来るけれど、すぐに『不死兵』に倒されてる。

 すぱーん、すぽーんと、投げられたり蹴飛(けと)ばされたりしてる。


『不死兵』には敵兵を殺さないように言ってある。

 魔王の配下が人間を殺すと……人間たちと、魔王を含めた異種族との対立になってしまうからなぁ。

 下手をするとランドフィア王国と神聖国を団結させかねない。それは避けたい。

 このあたりのさじ加減が難しいところだけど。


「────魔王の『不死兵』を止めてください。神聖王さま!!」

「────我が国は正しき道を。『ホーリィ・スピリット』よ。作られし兵士たちを封じたまえ」


 大量の球体障壁が、灰狼の『不死兵』めがけて押し寄せる。

 けれど──



「こ、こいつら……速い!?」

「球体障壁が当たらないだと!?」

「どうすればいいのですか!? 大神官さま!!」



 ──高速移動する『不死兵』は、あっさりと球体障壁をかわしていく。

 もはや球体障壁は、神聖国の兵士にとっての障害でしかない。


 球体障壁は神聖国の兵士を弾いてしまう。

 たぶん、自軍の兵士は中に入れない設定になってるんだろうな。


 その球体障壁のせいで、神聖国の兵士は動きが制限されてる。

 そんな状態の敵兵に、高速移動型の『不死兵』の攻撃を避けるすべはない。

 次々に投げられ、倒され、無力化されている。

 

「「「こ、こんな『不死兵』……どうすればいいのですか」」」


「なにもしなければよいのですよ」

「「「じっとしてればいいのですー」」」


 兵士たちの問いに、アリシアと精霊たちが答える。


「わたくしたちはナタリア殿下に借りた船を返しに来ただけ。それと、精霊や竜の知り合いを訪ねてきただけなのです。それを邪魔しなければ、なにもしません」


 その言葉を聞いた神聖国の兵士たちの動きが、止まる。

 突如現れた魔王と、高速移動型の『不死兵(イモータル)』。

 それらの存在が、神聖国の兵士の士気をどん底まで下げたらしい。


 もともと『ホーリィ・スピリット』──神鳥クルトアを当てにしての戦争だったんだろうな。

 それが通じないんだから、戦意を失っても仕方ないよな。


 よし。地上の方はこれで大丈夫だ。

 あとは神鳥クルトアに近づけば──



「──殺せ! 魔王を殺すのです!! 『ホーリィ・スピリット』よ!!」

「───我が国は正しき道を! 『(とり)(くちばし)は邪悪を砕く』!!」



『ヴゥオオオオオオオオオッ!!』



 神鳥クルトアが俺たちに向かってくる。


「聞け! 神鳥クルトア!! 俺はこれからお前に刺さった呪縛(じゅばく)()く!!」

「もう少しだけ我慢して欲しいの!!」

「「「あとちょっとなのですっ!!」」」


 すでにティーナと精霊たちは『杭』とアミュレットを調べつくしている。

『杭』は初代王アルカインのマジックアイテムで間違いない。

 アミュレットは神聖国側が追加したものだろう。


『杭』は対象の魔力を固定化する力を持っている。

 神聖国はアミュレットを使って、その一部を解除したらしい。

 たぶん解除したのは、神鳥クルトアの意識以外のすべて。


 そうすることで、神聖国は神鳥クルトアの身体と能力のみを支配しているんだろう。

 ……最悪のやり口だけどな!



「精霊王と竜王と魔王の名において命じる! 神鳥クルトアよ、少しの間でいい! 俺たちを信じろ!!」

『──────ガ』



 神鳥クルトアが停止した。

 その隙に、俺たちは神鳥クルトアの背中へと回り込む。


 そして──



「『王位継承権』スキルを発動。初代王アルカインのマジックアイテムに干渉する」



 俺の手が、マジックアイテムの『杭』に届いたのだった。





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