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第69話「王都に到着する」

 今日は2話、更新しています。

 本日はじめてお越しの方は、第68話からお読みください。




 ──コーヤ視点──




 俺たちは王都に向かって進んでいた。

 先頭を歩いているのは灰狼(はいろう)から呼び寄せた『不死兵(イモータル)』10体。

 その後ろを俺とアリシアとティーナがメルティ、馬車に乗って進んでいる。


 上空にはたくさんの精霊たち。

 さらに後方には黒熊領カナール将軍がいる。

 将軍は黒熊侯(こくゆうこう)代行のカリナさんから、全権(ぜんけん)委任(いにん)されている。


 将軍の後ろに続くのは、囚人護送用(しゅうじんごそうよう)檻車(かんしゃ)だ。

 (おり)の中にいるのは『偽魔王軍(にせまおうぐん)』の連中と、金蛇侯爵家(きんだこうしゃくけ)のエディオ。

 その檻車を取り囲むように、黒熊領(こくゆうりょう)の兵団が進んでいる。


 街道を進む俺たちを、黒熊領の人々が見送ってくれる。

 俺たちに手を振り、檻車に入った金蛇(きんだ)の兵士たちをののしってる。

 魔王と灰狼は味方で、金蛇は敵だということが、黒熊領の常識になっているみたいだ。


「アリシアもティーナもメルティも、体調は大丈夫か?」

「は、はい。問題ありません」


 俺の隣で、アリシアがうなずく。

 赤い顔をしているけれど、体調に問題はなさそうだ。


「わたくしは問題ありません。ただ……」

「ただ?」

「わたくしの一部を組み込んだマジックアイテムが、どんな動作をするのか心配になったのです」

「あ、そういうことか」


 俺は前方を進む10体の『不死兵(イモータル)』を見た。

『不死兵』のうち5体にはアリシアと共同で作った魔力結晶を、残りの5体にはティーナと一緒に作った魔力結晶を組み込んである。

 王家の者に管理権限を奪われないようにするためだ。


 魔力結晶は俺の一部だ。

 あれを組み込んだ『不死兵』は、常に俺に触れられているのと同じ状態になる。

 王家の者が触れても、管理権限を奪えなくなる。


 ただ、魔力結晶にはアリシアの魔力と、ティーナの魔力も含まれている。

 それが『不死兵』にどんな効果をもたらすのか、アリシアは心配なんだろう。


「コーヤさまにお願いがございます」

「なにかな?」

「わたくしの魔力結晶を組み込んだ『不死兵』がはしたない行いをしても……それは、わたくしとは無関係だとお考えください!!」

「はしたない『不死兵』って斬新(ざんしん)だな!?」

「お願いいたします!! 灰狼(はいろう)に帰ったらなんでもしますから!!」

「わかった。わかったから」

「……は、はいぃ。お願いいたします」


 アリシアは真っ赤な顔で、うつむいてしまった。

『不死兵』に魔力結晶を組み込むのは初めてだからな。

 魔力を供給したアリシアは不安なんだろう。


「ティーナは『不死兵』のことが気にならないのか?」

「問題ないの」


 馬車の御者席(ぎょしゃへい)に座ったティーナは、落ち着いた表情だ。


「マスターとティーナの魔力が、悪さをするわけがないの」

「まぁ、そりゃそうだろうけど」

「マスターとティーナの魔力を混ぜたものなら、子どものようなものなの」

「……ん?」

「だから『不死兵』がどうなるか楽しみなの。いい実験になるの」


 ティーナは目を輝かせてる。

 彼女は自分の魔力が『不死兵』に与える効果を楽しみにしているみたいだ。


「……あたしだけ、魔力結晶を作ってもらってない」


 ティーナの(となり)に座ったメルティは(ほお)をふくらませてる。


「竜王と『不死兵』の合体技を、コーヤさんに見せる機会だったのにぃ……」

「メルティの魔力結晶作りは、また後でな」

「約束ね」

「ああ。約束するよ」


 王家と話をつければ灰狼領(はいろうりょう)も、お隣の黒熊領(こくゆうりょう)も平和になる。

 俺が灰狼領を出る必要はなくなる。

 と引きこもって魔力の実験や、海の調査なんかもできるだろう。


 事件が落ち着いたら……海で採れる魚や貝を食べてみたいな。

 メルティや竜王にお願いすれば、新鮮なものが取れるはずだ。

 今後のことを考えて、灰狼で漁業(ぎょぎょう)を立ち上げるのもいいな。うん。


 そんなことを考えながら進んでいると──


「──王都の近くに、使者っぽい人が出てきてるです!」

「──灰色の髪の男性と、魔法使いの老人なのです!」

「──見たことのない人と、前に見たことのある魔法使いなのです!!」



「「「どうしますかー! 魔王さま────っ!!」」」



 ──偵察(ていさつ)に出ていた精霊たちが、そんな報告をしてくれた。


「俺たちが先行する。カナール将軍たちは、少し離れてついてきてくれ」


 俺は振り返り、カナール将軍に声をかけた。


「まずは俺たちが相手と接触する。なにかあったときのために、黒熊領の人たちは離れていたほうがいい」

「承知いたしました! ですが、魔王さまは大丈夫なのですか?」

「『不死兵(イモータル)』を連れて行く。いざというときは壁にする。問題ないよ」


 王都から来た連中の姿が見える。

 先頭にいる男性ふたりの背後に、十数人の兵士たちがいる。

 たぶん彼らは、交渉のために出てきたんだと思う。


 戦うつもりなら『不死兵』を連れてくるだろう。

『不死兵』の管理権限を奪われたときのために、王家の人間も一緒にいるはず。

 どちらもいないということは、向こうに戦うつもりはない。


 そう判断した俺たちは、馬車を前に進めた。


「魔王どのに申し上げる!!」


 王都側の男性ふたりが、声をあげた。


「自分はランドフィア王家より宰相(さいしょう)の任を授けられている者で、エドガーと申す! こちらにいるのは魔法使いのダルサールである!!」


 敵意がないことを示すように、宰相とダルサールは両手を挙げた。


「王家より命を受け、魔王コーヤ=アヤガキどのとの会談のために参上した! ここにナタリア=ランドフィア殿下およびジュリアン=ランドフィア殿下の署名(しょめい)が入った委任状(いにんじょう)もある!!」


 宰相を名乗る人物が、書状を広げた。

 俺たちは馬車を降りて、ふたりに近づく。


 書状の内容がわかる距離まで来ると、アリシアがささやく。

「間違いなく、ナタリア=ランドフィアとジュリアン=ランドフィアという署名(しょめい)があります。ランドフィアの玉璽(ぎょくじ)()されているようです」と。


「わかった。会談に応じる!!」


 俺は魔法で声を増幅(ぞうふく)して、宰相(さいしょう)と魔法使いに答える。


「こちらは魔王を含めた4名が、会談に参加する。そちらはどうする?」

「宰相エドガーと、魔法使いダルサールが同席いたします!」

「わかった。では、こちらに来るがいい!!」


 俺は手を振って、精霊たちと『不死兵(イモータル)』に合図する。

 空中にいた精霊たちは『不死兵』の肩の上に移動する。


『不死兵』には精霊たちの指示に従うように命じてある。

 俺が殺されたり拘束(こうそく)されたりしたときは、精霊たちがそれぞれの意思で『不死兵(イモータル)』を操り、行動することになっている。

 宰相たちの前で精霊と『不死兵』を合体させたのは、そのことをを彼らに示すためだ。


 やがて宰相エドガーと魔法使いダルサールが、俺たちの前にやってくる。

 魔法使いダルサールは以前と変わっていない。

 ただ、少し(つか)れた様子だ。国王が病になったからだろうか。


 宰相エドガーとは初対面だ。

 灰色の髪をした小柄な男性だ。()せていて、顔色も悪い。

 宰相といえば文官のトップだからな。苦労してるんだろう。

 魔王との交渉が終われば、仕事も楽になるんだろうけど。


「最初に伝えておく。俺は灰狼侯(はいろうこう)レイソン=グレイウルフと、黒熊侯代行(こくゆうこうだいこう)カリナ=リトルベアから委任状(いにんじょう)を預かっている」


 俺は2通の書状を、宰相たちに示した。


「ここで俺が話すことは灰狼領と黒熊領の意思でもある。そう考えてもらいたい」

「……承知いたしました」


 頭を下げたのは宰相エドガーだった。


「俺はもう、王家に関わるつもりはなかった」


 宰相と魔法使いの反応を見てから、俺は話を続ける。


「それが、こうして王都にやってきたのは、黒熊領からの救援要請(きゅうえんようせい)を受けたからだ。領民が突然、姿を消している、とな。調べたら、黒熊領の領民を誘拐(ゆうかい)している者がいたのだ。犯人は、金蛇侯爵家の者だった」

「私どもも……それは、存じております」


 宰相エドガーは苦々しい口調で、


「元黒熊侯のゼネルスどのが……金蛇侯爵家に、黒熊領の情報を伝えて……それで」

「金蛇侯爵家はジュリアン王子の外戚(がいせき)と聞いているが?」

「それは……」

「金蛇の兵士の中にはマジックアイテムを使っている者もいた。あれを金蛇に与えられるのはランドフィア王家だけだ。おそらくは、ジュリアン王子のしたことだろう」


 俺は宰相とダルサールを見据(みす)えたまま、続ける。


「マジックアイテムの使い手は偽の魔王軍を名乗っていた。そして、偽の魔王軍を討伐(とうばつ)するという名目で、金蛇の兵団が黒熊領に侵攻しようとした。それにはジュリアン王子が関わっている。たぶん、金蛇に派遣されたという、聖女も」

「……わかっております。わかっては、いるのです」

「俺は王家のナタリア王女から書状をもらっている」


 俺は(ふところ)から書状を取り出した。

 これが、切り札のひとつだ。


 ナタリア王女は黒熊領(こくゆうりょう)に書状を送っていた。

 国王が病に倒れたことを伝える書状だった。


 あの人のことだから、たぶん、灰狼にも送っていると思った。

 レイソンさんに確認したら、確かに届いていた。内容はシンプルだった。


『ナタリア=ランドフィアは、魔王コーヤ=アヤガキに敵対しない』

『そのことについては、すでに前回の会談で表明済みである』

『他の王子や王女がこれに反した場合、当事者が魔王と会談を行い、和解を試みるものとする』


『ナタリア=ランドフィアは、対象となる王子や王女と魔王の会談に協力する。また、王家の高官も、対象の王子・王女と魔王との会談に助力すべきである』


 ──以上だ。


 短くまとめると『ナタリア=ランドフィアは魔王に敵対しない』『他の王子王女が魔王と敵対した場合は、個別に話をするべき』『ナタリアはそれに協力する』『王都の高官たちに、王子や王女と魔王の会談に協力するように命じる』──ということだ。


 重要なのは『王都の高官たちに、王子や王女と、魔王の会談に協力するように命じる』という一文だ。

 これはナタリア王女から、王家の高官への命令書でもある。

 だから──


「俺はジュリアン王子と直接、話をしたい」


 俺は宰相エドガーに向かって、告げた。

 魔法使いダルサールはうなずいている。


 この人はナタリア王女の側近だ。

 彼女が出した書状の内容を知っていたのだろう。


宰相(さいしょう)どのには、その仲介役(ちゅうかいやく)をお願いしたい」

「そ、それは……しかし……」

「間違えてもらっては困る。今回の事件は、ジュリアン王子と金蛇侯爵家が仕掛けたものだ。魔王や灰狼がなにかをしたわけじゃない」

「…………う」

「魔王コーヤ=アヤガキは、これ以上のトラブルを望まない」


 俺の目的は灰狼を豊かにすることと、そこでのんびり暮らすことなんだ。

 面倒なことは、一度で終わらせておきたい。


「宰相どのは王都に戻り、ジュリアン王子と話をするがいい。俺はここで待っている。結果が出たら教えてくれ。話はここで終わらせておきたい。魔王が何度も王都に来たら、そっちも迷惑だろう?」

「…………確かに、魔王どのがおっしゃることが、正しいようです」


 宰相エドガーは観念したように、がっくりと肩を落とした。

 それから、俺に深々と頭を下げて、


「自分はこれから王宮に戻り、ジュリアン殿下と話をさせていただきます。ナタリア殿下にも口添えをお願いいたします。そうすればジュリアン殿下も(いな)とは言いますまい。ですが……魔王どの」

「なんだ?」

「それまで、王都を攻撃せぬと約束していただけますか?」

「承知した」


 即答(そくとう)した。

 別に王都を攻撃したいわけじゃないからな。


 俺は人間の味方の魔王をやるって決めてるんだから。


「ありがとうございます」


 宰相エドガーは、再び頭を下げた。


「それでは、一度失礼を──」


 そう言って、宰相エドガーが(きびす)を返した瞬間──




 王都の門が開き──数十体の『不死兵(イモータル)』が姿を現したのだった。




 次回、第70話は、次の週末の更新を予定しています。


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