第54話「魔王軍 (偽物)、魔王に捕らえられる」
──コーヤ視点──
「……まずは一人目を捕獲、と」
作戦は成功した。
誘拐事件の主犯は羽つき鎧を着ている連中だ。
最優先するべきは、奴らを捕らえること。
だから俺は、自分を餌にしたんだ。
まずは竜身になったメルティを下流に移動させて、川で音を立ててもらう。
敵が川に注意を向けている間に、領民を解放。
精霊たちに柵を壊してもらって、領民を逃がす。
その後で『フォグ (濃霧)』の魔法で敵の視界をさえぎり、俺は逃げる領民の列に紛れ込んだ。
目立つように、最後尾を走った。
そして、俺を捕えようとした羽つき鎧の男に触れて、鎧の管理権限を奪ったんだ。
鎧には『動くな』と命じた。
だから鎧の可動部分は完全に固定されてる。首も肩も肘も手首も。膝も足首も。背中も。
鎧の男が動けなくなったのはそのせいだ。
羽つき鎧の男は残りは2人。ひとりは空中で動きを止めている。
予想外の事態にパニックになったらしい。チャンスだ。
「ティーナ! 2人目のところへ!」
「了解なの!!」
俺とティーナは飛行魔法『アルティメット・フライ』で高速移動。
2人目の背後に回り込む。
「まさか……魔王!? こんなに早く!?」
「管理権限を掌握。『動くな』」
俺は鎧の背中についた羽に触れる。
『王位継承権』で管理権限を奪い、『動くな』と命令。
「あ、あああああああ──────っ」
2人目の男も地面に落ちていく。
マジックアイテムの鎧は丈夫だ。大怪我はしないだろ。
「マスター! 最後のひとりが!!」
俺の腕の中でティーナが声をあげた。
羽つき鎧の3人目が、逃げ出していた。
兜に角がついてる奴だ。部隊のリーダーだろう。
奴は仲間を助けることもなく、南に向かって飛んでいく。
「ああ! 魔王陛下は錯乱された!!」
男は、地上に向かって叫んだ。
「どうされたというのですか!? 黒熊領を制圧せよと命じられたのは、魔王陛下ではありませんか!! この土地を魔王軍のものにするのではなかったのですか!? お願いです魔王陛下、正気に戻ってください!!」
「お前……いい加減にしろよ!!」
「私は魔王陛下を信じております。ですが……今はおさらばです!!」
3人目は言い捨てて、さらに速度を上げる。
「あいつ……最悪だな」
俺に罪をなすりつけて、そのまま逃げる気だ。
しかも、あいつは仲間を見捨てている。
地上の兵士は逃げずに戦っているってのに。
奴らは領民を見張っていた、粗末な鎧を着た連中だ。
カナール将軍は『傭兵でしょう』と言っていた。
傭兵の数は十数人。
今はカナール将軍と精霊たちが相手をしている。
逃げずに戦っているのは、前金をもらっているからだろう。
だけど、浮き足立ってる。あと一押しでくずれると思う。
そろそろ、川の方から攻撃が来るはずだからな。
「くらいなさいっ!!『竜王の水撃』!!」
──と、思った直後だった。
川から飛んで来た巨大な水球が、傭兵たちを吹き飛ばした。
河原に、メルティが立っていた。
細い腕を頭上に掲げている。手のひらの先にあるのは、大型車くらいのサイズの水の球だ。
メルティが着ているのは、アリシアのお古の白ビキニ。
その上に俺のスーツの上を羽織っている。
ボタンをしっかりと留めて、長い裾で、膝下までを隠してる。
「地上の兵士は任せて! 動きを止めるくらいはできるんだから!!」
メルティは「えーい!」と気合いを入れて水球を放り投げる。
水を操る竜姫の力で撃ち出された水球が、傭兵たちを襲う。
前方には精霊たちとカナール将軍。背後には巨大な水球を掲げたメルティ。
挟み撃ちにされた傭兵たちは、もう、完全にパニック状態だ。
「魔王さん、ここは任せて! あなたは敵のボスを捕まえて!」
「「「やっつけてですーっ!!」」」
「「了解!!」」
メルティと精霊たちの声を聞きながら、俺たちは飛行速度を上げた。
『アルティメット・フライ』でさらに加速。敵のリーダーの後を追う。
スピードは『アルティメット・フライ』の方が速い。
このまま行けば追いつけるけど……奴がどこまで行くのかが問題だ。
仮に、王都や別の侯爵領に入られたら、追えなくなる。その前に手を打とう。
「ティーナ。例の作戦を使おう。『感覚共有』を」
「はいなの。マスター」
ティーナが背後から俺を抱きしめる。
すると、視界にディスプレイのようなものが浮かび上がる。
俺はティーナをサーバー代わりにして、精霊たちの視界を借りることができるんだ。
敵のリーダーに一番近い位置にいるのは──
「火属性の精霊たち! 20秒後に敵が接近する! 火炎魔法を!!」
「「「承知ですー! 『フレイム・ランス』!!」」」
敵が逃げることは予想していた。
だから俺は精霊たちをいくつかの部隊に分けて、周辺に配置しておいた。
敵は火属性の精霊がいる場所に近づいている。
この位置なら外さない。
精霊が放った炎の槍は、羽つき鎧の男に激突して──
──即座に、消滅した。
「…………はは! ははは! 魔王陛下はやはり錯乱されたようだ! この鎧の力をお忘れとは!」
忘れてねぇよ。
さっき、羽つき鎧に触れた『フォグ (濃霧)』が消えるのを見たからな。
火属性の精霊たちに攻撃させたのは、敵が魔法を避けるかどうか確認するためだ。
避けないなら、予定通りの攻撃ができるからな。
「次の攻撃だ。風属性の精霊たち。頼む」
「「「はーい!!」」」
次に動いたのは風属性の精霊たち。
たぶん、攻撃するチャンスはこれが最後だ。
ここを突破されたら、奴はこのまま南へと飛んでいくだろう。
あとは『アルティメット・フライ』でひたすら追跡するしかない。
追いつけるとは思うが……自爆して証拠隠滅とかされても困るからな。
確実に、撃ち落とそう。
「いきますよー!」
「やりますよー!」
「かくごしろー! わるものー!」
風属性の精霊たちの視界に、羽つき鎧の姿が映る。
「「「くらえわるものー! 『ウインド・スマーッシュ』!!」」」
そして──魔法が生み出した暴風が、羽つき鎧の男に向かっていく。
「ああ! 通じぬ魔法を何度も使うとは!! この鎧に魔法が通じぬことはご存じのはず! 精霊どもが使う魔法など、避けるまでもないのですよ!!」
『ウインド・スマッシュ』が、羽つき鎧に当たって消滅する。
そうなるだろうと思った。
最初から魔法で撃墜するつもりはなかったからだ。
鎧の男を止めるには、マジックアイテムの管理権限を奪うしかない。
管理権限を奪うためにはマジックアイテムに触れて、魔力を注ぐ必要がある。
だけど、重要なのは触れることじゃない。
俺が自分の魔力を注ぐことさえできれば、触れなくてもいい。
たとえば……俺の代わりに魔力を注いでくれるものをぶつけるだけでもいいんだ。
そして俺は『魔力の泉』で、自分の代わりになるものを見つけている。
濃密な、魔力の結晶体を。
『ウインド・スマッシュ』が飛ばしたのがそれだ。
ふたつの魔力結晶を鎖で結んで、絡まりやすくしてある。
いわゆる鎖分銅。あるいはボーラ。
捕獲用のアイテムだ。
精霊たちはそれを風の魔法で飛ばしてくれた。
敵は魔法を無効化したけれど、飛んできた鎖分銅には気づかなかった。
鎖が奴の身体に絡みつき、魔力結晶は鎧に触れた。
俺の魔力を宿した、魔力の結晶体が。
だから俺は羽つき鎧を見据えながら、宣言する。
「『王位継承権』の名において命じる。動くな!」
「────がっ!?」
羽つき鎧の男が、空中で急停止した。
よし。成功だ。
魔力の泉で魔力結晶を見つけたとき、思った。
これは王家が攻撃してきたときの切り札になると。
ひとつめの使い道は、『不死兵』に仕込んでおくこと。
魔力結晶は俺の分身だ。
それがくっついているということは、俺が常に『不死兵』に触れ、魔力を注いでいるのと同じことになる。
その『不死兵』にナタリア王女が触れても、管理権限を奪うことはできない。
常に注がれている俺の魔力が優先されるからだ。
ふたつめの使い道は、魔力結晶を、離れたところにあるマジックアイテムに接触させること。
それで魔力を注ぐことができれば、俺がマジックアイテムに触れたのと同じあつかいになる。
マジックアイテムの管理権限を奪える。
もちろん、どちらも仮説だ。
実際にできるかどうかを確かめたわけじゃない。
だからぶっつけ本番でやるしかなかったんだけど……うまくいったようだ。
これも『魔力の泉』のことを教えてくれたメルティのおかげだ。
本当に彼女には、借りが増えていくな……。
「鎧よ。そのまま地上に降りろ。ゆっくりと。降りたあとは一切動くな」
「ぐ、ぐぬ。ぐぬああああああっ!!」
羽つき鎧の男が叫ぶ。
けれど、意味はない。
鎧は俺の指示通りに、ゆっくりと地上へと降りていく。
「俺たちも降りよう。ティーナ」
「はいなの。マスター」
そうして俺たちは奴を尋問するために、地上へと向かったのだった。




