表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/96

第55話「魔王軍 (偽物)、魔王に追い詰められる」

「どうして私を責めるのですか! 魔王陛下!!」


 羽つき(よろい)の男が(さけ)んだ。

 奴は木の根元に座らされながら、俺を見つめている。


「私は忠実なる魔王陛下のしもべです。黒熊領(こくゆうりょう)を支配するという野望のために、魔王軍の尖兵(せんぺい)となったのです。なのに、どうして私を批難(ひなん)するのです!?」

「俺は魔王軍なんか作ったおぼえはない」

「いいや、あなたはそれを望んでいた!!」


 奴は必死にわめきつづける。


「私は魔王陛下のやるべきことをしただけです。あなたの領地を広げ、無慈悲(むじひ)なる魔王にふさわしい国を作ろうとした。あなたがするであろうことを、私はやろうと──」

「俺のやるべきことを他人が決めるんじゃねぇ!!」


 気づくと、俺は奴を怒鳴りつけていた。


「俺は『人間の味方をする魔王』だと名乗った。だから黒熊領(こくゆうりょう)に調査に来た。その俺がお前を捕まえた時点で、お前の論理は破綻(はたん)してるんだよ!! なんでぶっ壊れたロジックをいつまでも語り続けてるんだ!? 馬鹿馬鹿しい」

「……ぐぬ」

「そもそも、お前が使っているのは王家のマジックアイテムだろうが。そんなものを使ってる時点で、お前が魔王の敵対者だというのはわかってるんだよ!!」

「……なんで、魔王が……人の味方なのだ」


 奴は歯がみしながらつぶやく。


「魔王とは……侵略し、人を支配するものではなかったのか。人間の味方だと? 本気で……そんな魔王が存在すると……本当に?」

「言いたいことがあるならはっきり言え」

「……貴様が悪いのだ」


 羽つき鎧の男は、()()てた。


「私が領民を拉致(らち)したのではない! 貴様がやらせたのだ!! 魔王なんてものが現れなければ、我らがこのような手段を取ることはなかった。悪いのは貴様だ!!」

「どういう意味だ?」

「貴様がいなければ、領民をさらうような真似をしなくて済んだ。我が主君もこれまで通り、心おだやかに過ごすことができたはずだ。貴様のような者がいるのが悪い! 消えろ!! 死ね!! 貴様の存在が間違いだ!! 我々にこのようなことをさせたのは貴様なのだ!!」

「またそれかよ……」


 ……一瞬(いっしゅん)、元の世界の出来事を思い出した。

 父親の配偶者(はいぐうしゃ)が、俺の職場に怒鳴(どな)り込んできたときのことを。


 俺の父親は死の直前に、突然、俺を自分の子どもだと認知(にんち)した。

 遺産を分け与えると言い残した。

 そのせいで、俺はあいつの配偶者に責められることになった。


 ──お前さえいなければ!

 ──お前がいなければ、こんな思いをすることはなかった。消えろ! 死ね!

 ──私を怒らせているのはお前だ!!


 あいつは俺の職場にまで乗り込んできて、そんなことを叫んでいた。

 おかげで俺は仕事を辞めることになった。


 思い出すたびに吐き気がする。

 まあ、二度と父親の配偶者と会うことはないから、いいんだけど。


 羽つき鎧の男が口にしたのは、それと同じ言葉だ。


 ──自分はこんなことをしたのはお前のせい。

 ──お前が悪い。消えろ。

 ──私にこんなことをさせたのはお前だ!


 なんだかなぁ。

 まさか、異世界に来てまで、似たようなことを言われるとは思わなかったんだけど──


「恥ずかしい人なの。あなたは」


 不意に、ティーナが口を開いた。


「あなたは本当に恥ずかしい大人なの。自分のしたことに責任を取ることもできないの。そんなのが今の時代の人間なんて、幻滅(げんめつ)なの」

「小娘になにがわかるか!?」

「あなたが楽しんでいたことは、わかるの」


 ティーナの口調は、氷のようだった。


「あなたは黒熊領(こくゆうりょう)の人たちを閉じ込めて、笑っていたの。高い位置からみんなを見下ろして、楽しんでいたの!」

「ち、違う! 私はそんな人間では──」

「あなたの言葉をティーナは聞いてたの。マスターも、黒熊領の人もみんな聞いているの。あなたはどうしようもなく、人を迫害(はくがい)することを楽しんでいたの!」

「それは魔王軍になりきるためだ!!」

「それはあなたが考えた魔王軍でしかないの!!」

「────!?」

「アリシアさんが言ってたの。灰狼(はいろう)の記録によると、魔王の配下は残酷(ざんこく)容赦(ようしゃ)がなかったって。魔王の配下が人をさらって、ねちねちと人をいじめるなんてことをするわけがないの」

「……それは」

「だから、あなたが笑っていたのは自分の意思によるものなの。あなたが黒熊領のみんなを見下ろして、楽しんでいたの。あなたはこの仕事を望んでやっていたのに。なのに……マスターのせいにするなんて……」


 ティーナが、俺に身を寄せてくる。


「封印されていたときも、こんな気分にはならなかったの。でも……許せないの。マスターの名前を勝手に使って、マスターを困らせようとして……」

「「「……許せないのですー」」」


 ティーナの肩の上には精霊たち。

 ティーナと一緒に、羽つき鎧の男をにらみつけている。


「マスター! 集団魔法の使用許可が欲しいの!」

「「「欲しいのですー!!」」」

「それは駄目」


 俺はティーナの頭に手を乗せた。


「こいつを処理するのは、俺たちの仕事じゃないよ」

「…………マスター」

「こんな奴のために、ティーナが手を汚す必要はないんだ。俺のエゴだけどな」


 俺はティーナの頭をなでた。


「怒ってくれてありがとう」

「あ、あの。マスター? くすぐった……ううん。やめなくていいの。やめないで。そのまま……うん。もうちょっと」


 照れくさそうにしていたティーナが、おとなしくなる。

 髪をなでられて気持ちよさそうにしてる。

 精霊たちも俺に頭を向けてきたから、空いた手で髪をなでていく。ティーナと精霊たちをなでているうちに、俺の気分も落ち着いていく。


「ティーナのおかげでわかったよ。この男は、俺を怒らせようとしてる」

「────っ」


 羽つき鎧の男が目を()らした。

 正解だったらしい。


「こいつは、俺に自分を殺させようとしてるんだろう。そうすれば証人がいなくなって、自分たちの主君のことがわからなくなる……そう考えてるんだと思う」

「じゃあ、さっきの言葉は、ティーナたちを怒らせるために?」

「いや、あれは本音だと思うけど」

「やっぱり?」

「だけど、それをわざわざ口にしていたのは、俺を挑発(ちょうはつ)するためでもあるんだろうな。魔王を怒らせることで……自分と仲間を殺させて、証拠隠滅(しょうこいんめつ)をするために」


 俺は敵兵のリーダーに視線を向けた。


「だけど、そんなことをしても無駄だ。証拠はそろっている。貴様は王家のマジックアイテムを使っていたからな。貴様が王家の関係者の命令で動いているのは間違いない。そして、王家で俺を敵視している者といえばナタリア王女だ」

「…………」


 羽つき鎧の男が、俺を見た。

 俺は続ける。


「貴様はナタリア王女の部下か?」

「そうだ」

「嘘だな」

「────!?」

「返事が早すぎる。それに、あの王女の配下にしては、貴様のやり方は(ざつ)すぎる」


 ナタリア王女とは正式に書面を交わしている。

 なのに、彼女がこんな手を使ってくるのは不自然だ。


 あの王女は苦手だし、嫌いだ。俺の敵だと思っている。

 だけど知的な敵で、プライドのある敵だ。

 ナタリア王女が、こんな手段を使うことはないだろう。


「わかった。今回の事件には、ナタリア王女と対立する者が関わっているのか」


 俺の言葉に、羽つき鎧の男は応えない。

 ただ、悔しそうに歯がみしただけだ。反応としては十分だけど。


「それと、貴様らは殺さない。そうだな……動きを封じたまま、黒熊領(こくゆうりょう)の城門前に飾ることにするよ。その後の処理は、黒熊領の民に任せる」

「……な、なんだと!?」

「その(よろい)は俺が許可を出すまで動かない。可動部分は固定されたまま。つまり、彫像(ちょうぞう)と同じだ。城門前に飾るにはちょうどいいと思わないか?」

「…………ま、まて、待ってくれ!」

「そうしていれば、いずれあんたの主君が助けに来るかもしれないからな。水と食料は与えるように、カナール将軍に頼んでおくよ」

「ま、待て。待ってくれ! そんな無慈悲(むじひ)な……」

「魔王は無慈悲なものだろう?」

「う、うぅ……」

「それとも、あんたの主君の名前を吐くか?」

「…………」

「まあいい。連行する前に、持ち物検査だけはしておこう」


 俺は羽つき鎧の男に近づいて、その身体に触れた。


「『王位継承権』の名において命じる。胸から胴にかけての装甲(そうこう)をパージしろ」


 羽つき鎧の胸と、腹の部分の装甲が外れた。

 それでも奴は動けない。両肩も腰も、背中も固定されてるからだ。


「これは……財布か。身分証明書はなし……っと。捕まったときのために、身分証は持ってないのか……?」

「服の下に隠しているかもしれないの」


 ふと、思いついたように、ティーナは、


「もしも、この人が殺されるつもりだったのなら……胸の近くに身分の証になるものを隠していると思うの。そうすると胸を刺されたときに身分証が破けて、血で読めなくなるの。そうすることで身分を隠すものもいたって、お父さまは言ってたの」

「さすがジーグレットさま」


 あの人は長いこと人間と付き合っていたそうだからな。

 そういう知識もあるんだろう。


 なるほど。となると鎧下(よろいした)になにかあるかもしれないな。

 探してみると──


「……あった。これは……書状か?」

「…………あ」


 敵兵のリーダーが目を見開く。

 奴は観念(かんねん)したように、がっくりと肩を落とした。


「書かれているのは図形……いや、紋章か?」

「枝に絡みついているこれは……蛇なの」


 紋章の下には数字が書かれている。

 なんだろうな。これは。


「将軍のところに戻ろう。ティーナ」

「はい。マスター」


 俺たちは敵兵のリーダーを連れて、将軍とカリナさん。メルティのところに戻った。

 戦闘はとっくに終わっていた。

 メルティと精霊たちの攻撃を受けてすぐに、傭兵たちは武器を捨てたそうだ。


「ご無事でしたか。コーヤ=アヤガキどの」

「将軍もお疲れさまです。すみませんが、これを見てください」


 俺は敵兵から取り上げた書状を、カナール将軍に見せた。

 メルティとカリナさんも同じように、書状をのぞき込む。


「金色の枝に蛇。これは……金蛇侯爵家(きんだこうしゃくけ)紋章(もんしょう)です!」

「これを敵兵が持っていたのですか!? 魔王さま!?」


 カナール将軍とカリナさんが目を見開く。


「趣味が悪い紋章ね。蛇に角くらいつければいいのに」


 メルティは(ほお)(ふく)らませながら、俺に肩を寄せてくる。

 働いて疲れたらしい。


「紋章の下に書かれている数字は、何代目の侯爵(こうしゃく)かを表すものでしょう。紋章の中には侯爵のサインが埋め込まれております。金蛇侯爵が書いたもので間違いありません!」

「さすが将軍です。詳しいですね」

「汚れ仕事を任された者には、このような書状が渡されるのだと……聞いたことがあります」


 カナール将軍は、苦々しい口調で、


侯爵(こうしゃく)の命令で行うのだと証明するためと、正当な報酬(ほうしゅう)を与えると約束するためです。汚れ仕事を引き受ける者と、その家族に渡されることが多いですな」

「つまり、奴らは金蛇侯爵家の者ということですか」

「おそらくは」

「でも、金蛇侯爵家の者が、どうして王家マジックアイテムを?」

「父上に聞いたことがあります。金蛇侯爵家は……王子殿下の母君の実家だと」


 そう言ったのはカリナさんだった。


「ランドフィア王家にはふたりの王位継承者(おういけいしょうしゃ)がいるのです。ナタリア王女殿下と、その弟君のジュリアン=ランドフィア殿下です。でも、王子殿下がこんなことをするなんて……」

「わかりました。あとで、その人のことを詳しく教えてください」


 今は、領民を元の場所に帰してあげないと。

 人手がいる。

 黒熊領(こくゆうりょう)の領都から人を連れて来よう。


「カリナさま。領都で人を集めていただけますか?」


 カナール将軍は短剣を取り出し、カリナさんに渡した。


「これは私の代理であることを示すものです。この短剣とカリナさまのお名前があれば、兵士たちを動かすことができましょう。事情を伝えて、食料や衣服を用意してもらってください」

「承知しました。すぐに取りかかります」

「コーヤ=アヤガキさまにはご迷惑をおかけしますが……」

「わかってます。カリナさんを領都に運べばいいんですね?」

「申し訳ありません。民を助けるためには、あなたさまの力が必要なのです」

「言いましたよ。俺は『人間の味方をする魔王』だと」


 今は、それでいい。

 わかってくれる味方が増えれば、それで。


「ありがとうございました。魔王さま」


 カリナさんは俺に向かって、深々と頭を下げた。


「このご恩は忘れません。黒熊侯の娘の名において、魔王さまが人間の味方であることを、領民に伝えます。あなたを疑うような者が二度と出てこないようにしますから」

「ありがとうございます」

「敵兵は彫像(ちょうぞう)として、屋敷の前に(かざ)ることにいたしましょう」


 ふと、カリナさんが言った。

 天使のようなほほえみを浮かべながら。


 いや……俺も同じこと言ったけどさ。

 あれは敵兵をおびえさせて、情報を引き出すためだったんだ。

 だけど、カリナさんは100パーセント本気の顔に見えるんだけど……。


「重要な証人ですからね。それなりにあつかった方が」

「わかりました。魔王さまがそうおっしゃるなら」


 カリナさんは、ぱん、と手をたたいて、


「彫像にするのは、彼らからすべての情報を引き出してからにしましょう」


 敵兵の運命が決まった瞬間だった。


 こうして、黒熊領(こくゆうりょう)での誘拐事件(ゆうかいじけん)は解決して──

 俺たちは後処理のために、黒熊領の領都に向かったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ