第46話「魔力に満ちた泉を調査する(3)」
数十分後。
「この泉は、俺と接触することで魔力の結晶体を生み出すらしい」
やってきたアリシアとメルティに、俺は説明をはじめた。
『魔力の泉』は、地下深くを流れる濃密な魔力が、地上に現れたものだ。
それは意思や方向性を持たない、ただの力でしかない。
だけどそれは、泉を見つけた王と繋がるという性質を持っている。
それによって王の身体や意思に反応するようになる。
温泉に入ったティーナや精霊たちが『マスターを感じる』といったのはそのせいだ。
そして『魔力の泉』は俺の意思に反応して、魔力結晶を作り出す。
ただし命令するだけでは駄目で、直接、魔力の泉に触れる必要がある。
その接触面が大きければ大きいほど、魔力結晶を生み出しやすくなる。
「というわけで、俺は温泉に入ってるわけだよ」
「……そうだったのですね」
「……コーヤさんのことだから、理由があるとは思ってたわ」
木々の向こうで、アリシアとメルティがうなずくのが見えた。
俺は今、温泉に入った状態で、アリシアたちと話をしている。
アリシアとティーナとメルティは、木々の向こう。
さっきまで、俺がいた場所にいる。
精霊たちは岩場で寝そべったり、温泉の端っこに脚を突っ込んだりしてる。
温泉で火照った身体を冷ましたいらしい。
まあいいか。精霊のすることだし。
「魔力結晶はティーナに渡してあるよ。アリシアもメルティも、確認してみてくれ」
「これが魔力結晶ですか……やわらかいものなのですね」
「父さまはこれをコーヤさんにあげたくて、魔力の泉を探すように言ったのね」
「魔力結晶はマジックアイテムの素材になるはずだ。それについて、アリシアの意見を聞かせてくれ」
「わかりました。ですが、少しお待ちください」
木の向こうで、衣ずれの音がした。
続いて、木の枝に、アリシアのドレスが掛けられる。
「アリシア。なにしてるの?」
「主君であるコーヤさまが素裸でお風呂に入っていらっしゃるのです。臣下であるわたくしが、偉そうに服を着ているわけにはまいりません!」
「着ようよ! 気にしなくていいよ!!」
「侯爵の娘としての誇りがあるのです」
「じゃあ、俺が侯爵家の屋敷で風呂に入ってるときはどうしてるの」
「…………」
なぜ黙る。
「マジックアイテムの素材については、初代王アルカインの伝記に記述があります」
何事もなかったように、アリシアは話し始めた。
とても冷静な口調だった。
「アルカインは魔王を倒す前に、みずからの領地を見いだして、その地の領主となったそうです」
「領主……地方の王ってことか」
「そうですね。そのころはたくさんの王がいましたから、アルカインが地方の王を名乗っても、問題なかったんでしょう」
アリシアは説明を続ける。
「アルカインは、自分が王となったことを宣言する際に、剣で地面を突き刺したと言われています。そうすることで土地の力を呼び覚ましたそうです。おそらくそのとき、魔力の泉を見つけ出したのでしょう」
「アルカインは土地の魔力を利用する方法を知っていたんだろうな」
「おそらくはアルカインも精霊さまたちのように、魔力を探知する能力を持っていたのでしょう」
「だろうな。そうじゃなきゃ、魔力をかき乱すアイテムなんか作れないから」
アルカインが見つけたのは、ここによりも強い『魔力の泉』だったのだろう。
あいつはそこで魔力結晶を作りだし、マジックアイテムの素材にした。
だからこそ、大量のマジックアイテムを作り出すことができたんだと思う。
『王位継承権』を持つ者しかマジックアイテムをあつかえないのは、魔力結晶を作り出したアルカインがそう設定したからだろうな。
「魔力結晶はマジックアイテムの中枢に使われているんだろうな」
「中枢……つまり、核となる部分ですね」
「ああ。それがマジックアイテムを動かしているんだろう」
そんなことを話しているうちに、また、湯の花のようなものが浮かび上がってくる。
魔力結晶だ。
でも、こうしてお湯に浸かっていると……。
「魔力結晶が、王の出汁みたいに思えてくるな」
「出汁……この魔力結晶が、コーヤさまの」
「ああ。こうしてると、魔力結晶は俺の一部だってわかるよ」
「一部……これがコーヤさまの一部。コーヤさまの。わたくしが触れているこれが、コーヤさま……」
「アリシアさまアリシアさま」「落ち着いて、アリシアさん」
……アリシア、なにをしてるんだろう。
「そこでアリシアにお願いがあるんだ」
「は、はいっ! 今すぐそちらにうかがいます!」
「そうじゃなくて、金属加工ができる技術者を紹介して欲しいんだ。その人と『鍛冶の精霊』の力を合わせれば、魔力結晶を加工できるよね?」
「マジックアイテムを作られるのですか!?」
「いつかはそうしたいと思ってる。その前段階として、マジックアイテムを強化するものを作りたいんだ」
マジックアイテム『不死兵』には弱点がある。
それはランドフィア王家の者に触れられたら、管理権限を奪われるということだ。
仮に王家の軍勢が攻め込んできて、俺がそれを『不死兵』で迎え撃ったら……たぶん王家は、なにかのアイテムを使って『不死兵』を足止めするだろう。
その上で王家の者が『不死兵』に触れて、管理権限を奪うはずだ。
それが一番、こっちの戦力を削ぐのに有効な手段だ。俺が王家なら、間違いなくそうする。
「でも、魔力結晶には俺の魔力が宿ってる。それで腕輪を作って『不死兵』に装着したら?」
「……コーヤさまを常に感じることができるアイテムを……」
「……そうすると、マスターの魔力が常に『不死兵』に供給されることになるの」
おそらく、俺が常に『不死兵』に触れている状態になって、管理権限が奪われなくなる。
これは灰狼を守る力になるはずだ。
「というわけだ。アリシア、手配してくれるかな?」
「承知いたしました!」
「ティーナとメルティは、自由にこの温泉を使ってくれ。魔力を補給する役に立つと思う。特にメルティは海から上がってきたばかりだから、こまめな補給が必要だろ?」
「う、うん。そうなんだけど……いいの?」
「もちろん」
「でも……あたし、まだコーヤさんたちの役に立ってないんだけど」
「いやいや、魔力の泉のことを教えてくれただろ。十分助けてもらってるよ」
「そ、そうなんだ……ふーん」
方針は決まった。
まずは魔力結晶を使って、マジックアイテムの強化を図る。
金蛇侯爵領に使者を出す件については、レイソンさんが手配してくれている。
これは任せて大丈夫だろう。
そして、魔力結晶にはもうひとつの使い道がある。
これは実験が必要だけど、とりあえず、設計図くらいは書いておこう。
いつ必要になるかわからないからな。
「そろそろ温泉から出るよ。その後は、魔力結晶を回収して帰ろう」
「は、はい。承知いたしました!」
「ティーナたちも改めて、温泉に入らせてもらうの」
「せ、せっかくだからね。使わせてもらうわね!」
そんなわけで、みんな順番に温泉に入り──
俺たちはたくさんの魔力結晶を回収して、屋敷に帰ったのだった。
次回、第47話は、明日か明後日か明明後日くらいに更新する予定です。




