第六十話「体育祭、魅せるは『指揮官』」
「ついに、皆さまお待ちかねの! 特別競技を始めます――!!」
実況マイクとスピーカーを通して叫ばれた内容に、生徒たちの興奮が高まる。およそ、体育祭における一番の目玉といえばこれだ。
その年の生徒会本部がどれだけ体育祭に力を入れていたかは、この特別競技の出来で評価されると言っても過言ではない。
秘されていた特別競技の内容が公開された時の盛り上がりは凄まじいものだったと、大輔は記憶している。雨で体育祭がどうなるかと危惧されていた朝の発表、まさに雲を貫くほどの歓声が上がったのだ。
その歓声に誇らしさがあり、同時にやりきらなければならないという重責を感じたことも、覚えている。
『今年の特別競技を発表します――』
「改めて、今年の特別競技をここで発表します――」
「『――サバゲー!!』本年は特別競技として、サバゲーを採用します!」
サバゲー、というのは聞こえのインパクトを優先しただけで正式名称ではない。
BB弾では危険があり、ペイントボールでも当たれば十分に痛い。それらを考慮し、今回はペイントボールを投げ合う競技になっている。
厳密に言えば、ペイントボールを用いた雪合戦である。
ここまで内容を緩和して、更にペイントボールは水溶性の染料を溶かした水で作った環境に良いものを使って、しかし大輔は至る所への挨拶回りを強いられた。例えば職員室、例えばPTA、例えば校長室である。
安全性の検証などの関係でこの競技だけはかなり前から準備が進んでおり、各種認可の下りた状況でどうにか開催に漕ぎ着けたのである。
『普段できないことをしたい! させたい!!』
そんな美緒の提案から始まった特別競技サバゲー計画。当然ながら凄まじい苦労があったことはそうだが、しかしこれを選んで良かったと思わせる企画になった。
彼女に端を発する企画であり、実況にも彼女が立候補した。ついでに雪合戦という大規模なチーム戦は俯瞰的に見てみたいと言い出した大輔がその隣に座る。
そして、今回の特別競技の面白いところはまた別にある。それこそが――、
「この競技は二組ごとの合同チームで行います。それでは、各チームの『指揮官』の生徒は準備をしてください」
――特別な役職である『指揮官』。
それが、大輔が駄々をこねてまで追加した特殊ルールだった。『指揮官』は高台から戦場を俯瞰し、チームメンバーに指示を出して効率的な攻略を補助するのだ。
当然、その指揮のためには無線通信機が必要になったり、高台を用意する必要があったりと、その苦労はもう語るまでもないので割愛する。
しかし、この役職にはある重要な意味もあった。
単に大輔がロマンを追求したと言うだけの話ではない。流石の彼も、それだけの理由で駄々はこねない。
「『はらむはみら連合』の『指揮官』――高橋祐介」
「『丼何処どこ組合』の『指揮官』――蒼井拓也」
そう、『指揮官』という役職ならば骨折している祐介も参加できる。
確実にそうさせるつもりで決めた大輔ではなかったが、祐介はあぶれものみたいな顔をしながらも生徒たちから気にかけられているらしい。『指揮官』を選ぶときは祐介が適任だという風潮があった。
そして彼自身――乗り気であった。
「――――」
「……まぁ、お互いに頑張ろか」
呼ばれて姿を表した祐介と拓也。今だけはくるみの付き添いはない。並んで本部テントに向かってくる二人が何やら言葉を交わしていた。
諸々の準備を進めながら、その間隙を見計らって大輔が祐介に問う。
「さっき、蒼井くんになにか言ってた?」
「ん? ああ、『お前をカラーボールまみれにしてやる』ってな」
「『指揮官』はカラーボール受けないと思うけどね」
「正論を言うなよぉ、お兄さん。ちょっとした宣戦布告やんか」
「では高橋『指揮官』、勝利を――取ってきてもらえるんだろうね?」
「任しといて。――てかお兄さんはどの立場なんやそれ」
「ただの観客だよ。傍観者というやつさ」
「自分が上位存在みたいな言い方はやめたほうがいいと思うわ。厨二病っぽいし」
「ついには君までも即死級の範囲攻撃放ちだしたか!!」
――と、そこまでで間隙は埋まった。
すべての準備が整ったという報告が上がってくる。グラウンドには土嚢が積まれた壁が設置され、フィールドを示す白線が引かれている。そして、各フィールドの端にはいわゆる挨拶台、校長先生が立つようなそれが置かれていた。
「では、『指揮官』二人はあの高台に登ってもらって。――あ、この無線って壊したら弁償は生徒会本部からになるから、壊さないでね」
「壊さないよ、そんな。気をつけて使う」
「あ〜、壊しちゃいそうな気がしてきた〜」
「はい、茶番はいいから。行ってきてもらいましょうか、戦場へ――」
「やっぱお兄さん、厨二病の気があるわ」
それだけ言い逃げして、祐介は車椅子を動かす。くるみに手伝ってもらえないタイミングでは自分で動かしているので、そろそろ慣れたものだ。というか、正直に言うと車椅子がなくともどうにかはなる。根拠半分の仮病である。
大輔に背を向けて、二人がそれぞれの高台へと向かう。その瞬間、二人の表情が獰猛な笑みに染まったことを、誰も知らない。




