三十一話「水族館はラブコメの宝庫、奇しくも……ないか」
明日より、モ虐の新作小説「これは人生の仮タイトル」の連載が始まります。
毎週木曜日の夜7時に投稿予定ですのでそちらもぜひよろしくお願いします
「自分を深海生物に例えたら?」という診断テストを終えて、場の盛り上がりもそのままに一行は美ら海水族館を進んでいく。
一階は全員で回る、ということだったので絶妙な大所帯で巡行だ。はぐれないよう大輔や祐介、里奈が主に美穂を監視。薄暗い中でも頑張って目を光らせていたわけである。
そして、ここからは二階層―――。
何か相談したわけでも、裏で何か仕込みをしたわけでもなく、ごくごく自然な形でグループは分かれた。
王道カップル(推定)である健太と美穂のペア。
理知の権化たる二人、大輔と里奈のペア。
沖縄に通ずるペア+保護者、祐介とくるみ、おばぁのグループ。
三つのグループに分かれ、ここからは別行動だ。
「では、見終わったら受付あたりで集合ってことで、解散ッ!!」
集合場所も決めて、早速グループは分かれ、別々の道を―――行くわけもなかった。最初こそペアやグループメンバーと相談してそれぞれ別の場所へと向かおうとしていた五人は、健太と美穂が先を進みだしたのを確認してから合流した。
示し合わせたかのような動きだった。最初は不自然に合流することなく、しっかりと別方向へ歩みだしたかのように見せて、実際には背後で合流しておく。こういうところでは急に統率が取れる、不思議な集団だった。
「まぁ、グループ分けってつまりはあいつら二人をくっつけるための口実やしな」
「当然、我々はあの二人を追いかけることにはなりますよね」
「最初に私が伏線はっといたから、見つかっても言い訳できるしな」
事情を知る三人がニヤリと悪い笑みを浮かべる横で、事情を知らぬくるみとおばぁは首を傾げていた。そのことに気づいた祐介が二人の耳元に寄ってこそっと事情を説明する。
一瞬でおばぁは「アガヨー」と口を手で覆い、くるみは「あー」と事情を理解して納得の笑みを浮かべた。こうして、五人全員が事情を知った状況で二人を尾行することになる。
「ま、薄暗い中やからそう簡単にはバレへんやろ」
「バレたとして、すぐに会うわけでもなければ偶然を装えますし」
そうは言いつつも、全員無意識に忍び足になってしまうもので。
人混みの奥の方に頭二つが見えているだけなのだし、恐らくすぐにばれる、ということはないだろう、ということくらいは全員が理解している。距離だってしっかり離れているし、二人の世界に入っている健太と美穂がこちらに気づくとも思えない。
まあ、だからと言って「よし、堂々と行こう」なんてことにもならない。
「やっぱ、こういうのはドキドキするよな……」
「…………」
「いつもなら元気な議長がこういう時は一番静かになりますよね……」
大輔がそんなことを指摘するが、それでもやはり里奈は頷いたり首を傾げたりするだけで言葉を返すことはない。
やはりこういう時には静かになるんだな……と大輔は苦笑を浮かべた。
*
「―――今更やけど、グループで別れて良かったんかな……」
「―――? なんで?」
グループごとに別れ、展示を見ながら少し歩いてきたところで、健太がふと呟く。それに美穂は小さく首を傾げながら尋ねる。
健太は、失言したか、と気づいて小さく苦笑いを零した。まさか、自分もしっかり順路を理解していない水族館で方向音痴の美穂と一緒に歩いていては二人一緒に迷うのではないか、と懸念していたなどとは言えない。
「いや……何というか、全員で来たんやし、そのまま全員で回った方が良いんかな、と」
「そう―――? けど……」
美穂の言葉は、突然上がった周りの観客の歓声に掻き消された。
ふと周りに視線を向けてみれば、少し広いところに来ていたのだと気づく。椅子が並べられていて、天井には水槽が浮かんでいる。
「―――うっわぁぁあ……」
丁度通った小魚の大軍を前に、健太は童心のままに声を漏らした。周りの観客からも感嘆の声がぽつぽつと聞こえてくる。
薄暗い水族館の中では、水槽から漏れ入ってくる碧い光が殆どだ。
天井から降り注いでくる水のフィルター。それを通して差し込んでくる陽光。言葉にしてみれば単純なそれだけだが、実際にそれを目で見て、体で受け止めてみれば、それは神秘に違いなかった。
「ちょっと座っていこ」
「うん」
据え置かれた椅子に、美穂が座って健太を誘う。
健太は、どのくらいの距離感で座ればいいのか、とふと悩んでから無難に拳二つくらいの距離を開けて美穂の横に座る。美穂はその空いた空白に、鞄を置いた。
人が集まってはまた次へと進んでいく。そんな人の流れに反して、健太と美穂を包む空気は進まず、静かに止まっていた。
「―――なんか、面白い話して?」
「え゛……そうやなぁ……」
ふとした時に言われて困る言葉ランキング、恐らくは堂々の一位――健太調べ――であるその言葉を受けて、健太は素で変な声が出た。
何か、言える話があっただろうか、と思いつつ記憶を探る。同時に、美穂から試すような視線が向いているようにも感じて、健太は焦りながら思考を回す。
「言うても、魚のこととかあんまり知らへんし……」
「―――なんて、冗談よ。しんとしてたから、なんか言った方がいいかと思って」
そうなんや、とは返すが、健太としても美穂のその返しは何というか、負けた気分になって悔しかった。
と言っても、面白い話をノータイムで繰り出せるようなスキルを神から授かった記憶もないし、美穂の言葉は確かに天から差し出された救いの手だったのかもしれない。悔しいことには変わらないが。
―――逆に、面白い話してよ。
もし、そう言ったら美穂はどんな答えを返してくるのだろう。
そんなことを、健太は思う。
美穂は健太に面白い話を求めながらも、自分はその面白い話とやらを持ち合わせているのだろうか。いや、恐らくだけれど、美穂はそんな話を用意しているわけではないと思う。
ならここで、美穂にもその面白い話を求めてみれば負けた悔しさはまぎれるのかも。そう思ってから、いや、と自分の思考をいさめる。
「―――あっ、あれ、サメちゃうの!?」
そう言って興奮に頬を少し紅潮させる美穂を前にして、勝ちだ負けだ、喜び悔しさだ、なんて無粋なことは言えない。
そんなことを宣うくらいなら、もっとするべきがあるような気がした。それこそ―――
*
「―――うわぁ、ばっちし逸れたなぁ……」
「二人っきりだねっ」
「ここまで楽観的なのはすごいよな……まぁ、連絡は取れるだろうし、そこまで問題もないかもしれないけど……」
「あ、お祖母ちゃんとも連絡とれたよー。一旦は別行動ってことになったー」
「まぁ、大波は去ったとはいえまだ人多いし、再集合っていうのも難しいか。―――うん、大輔とも連絡は取れたし、もうこっからは完全別行動で」
「ってことはー? やったぁぁぁ! お兄ちゃんと二人っきりぃ!」
「はぁ……人多いんだから変なことするなよ……?」
「大丈夫だって、私のことなんだと思ってるの、お兄ちゃんは」
「その質問には質問で返す。今さっき大声で叫んだ自称俺の妹に信用があるとでも思ってるのか?」
「まぁまぁ、お兄ちゃんったら、ツンデレぇ」
「はぁ、ま、美穂と二人っきりとかよりは断然ましか。それを知った健太からどんな視線向けられるか怖いし」
「んじゃ、行きましょーっう!」
【おばぁ】いいはず〜青春だからよ〜
【くるみ】ねぇねぇおばあちゃん!メガネ教授はあの二人のことしか言って無かったけどさ、メガネ教授とぎちょーさんもなかなかお似合いじゃない?あ、声デカかった?聞こえてないよね!?
【おばぁ】だまれー。バレいねーやなーやし




