第八章 誰かに知られたい少女
「お姉さん」
最近、カミラの口数が少ない。それはそれで大人しめの少女として好まれるのかもしれないけれど、私は以前のような活発なカミラのほうが好きだった。
「どうしたの?」
「晩ご飯、作ってみました。よかったら食べてください」
ソーセージをフライパンで焼いたくらいの、簡素で粗末なもの。
彼女なりの恩返しのつもりらしい。私がカミラを追い出したら、もう彼女は生きていくことができない。料理をはじめとした家事一切を手伝おうとしてくれるのは、それが彼女が生きていくために残された唯一の方法だから。彼女は自分を騙していた相手に恩返しをしないといけない。
「ありがとう。黄色いソーセージなんて珍しいね」
「いえ、マスタードをたっぷり塗ったんです。おいしいかと思って」
……料理に関しては、もう少しがんばってほしいところ。
夜が明けて、私は久しぶりに学校の玄関に入った。真面目に学校へ行く気になった? まさか。今日の狙いが私の高校なだけ。アメリカなんかでは地味な男の子が学校で銃を撃つ事件を起こしているけれど、ヴァレンシュタインでは生徒は学校に銃を持ち込めない。「生徒が銃を持っていれば撃たれることはなかった」なんて主張は、この国では受け入れてもらえない。不自由な国だこと。
で、私が銃のひとつでも持っていればよかったんだけれど、残念ながら私のリボルバーはとっくに壊された。というわけで、河原で取ってきた大きめの石で代用する。例によってカミラは石いっぱいのバケツを持つ係。重たそうにヨタヨタと私の後ろをついてくる。
「お姉さん、あの人は呼べば来るって言ってたのに、それでも事件を起こすんですか?」
ジャスティスマックスへの復讐ではない。個人的な自殺に利用するだけ。なのにどうして他人を巻き込むのか。カミラの質問から、私はこのような意図を読み取った。
「だって、一人で死んだら誰にも覚えてもらえないでしょ」
また嘘をついた。でも、どうせカミラは私の言うことを微塵も疑わない。
「……そうですよね。一人は寂しいですよね」
肯定はしてくれたけど、それでもまだ何か引っかかっているようだった。ちょっと意外。
授業が始まれば、みんな教室に入ってしまう。朝のざわざわした時間に、事を起こしてしまおう。
「うちの教材にそんな石は採用されてないはずだぜ、お嬢ちゃん」
後ろから悪魔の声がした。反射的に振り返ると、うちの新しい生徒会長がいた。
「やっと会えて嬉しいです、アニカ先輩」
「その声……あなたが!」
カミラが指差す。私も驚いた。まさか、私とジャスティスマックスの母校が同じだったなんて。しかも私のほうが年上だったなんて。
「何の用事? デートの誘いにも、クラブの勧誘にも乗らないわよ」
生徒会長は私のジョークを無視した。ジャスティスマックスのときとは性格が違うらしい。
「あなたを助けたいんです」
「私のこと何も知らないくせに」
「そうです。先輩のことを、僕はまだ充分に理解できていない。だからどうすれば先輩の支えになれるのかもわからない。教えてください、先輩に何が起きたのかを」
こんなこと、今まで誰からも言われなかった。
「……お姉さん」
カミラがジャケットの裾を引いたので、しゃがんで耳を貸した。
「もう、こんなことやめましょう。白い悪魔さんだって、話せばわかってもらえますよ」
「え?」
驚いた。カミラがこんなことを言うなんて、思いもしなかった。
「あの人なら、きっとどんなお願いも聞いてくれますよ。素直にお願いしてみましょう」
「……そんなこと、できるわけない! カミラのバカ! もう知らない!」
手を出さないで言葉だけに抑えたのは褒めてほしい。ただ、それでもカミラは泣き出す寸前の顔になってしまっていた。
いつの間にか、カミラは成長していた。私と違って。自我を確立させて、彼女なりの論理と正義を持って、それに沿った行動をしようとし始めた。きっと、そうやって人はだんだんかわいくなくなっていくんだろうな。
「カミラなんて、ミュンヘンに帰っちゃえばいいんだ!」
私は唯一の部下に見切りをつけて、学校を飛び出した。




