第六章 正義に勝ってほしい子供
カミラはジャスティスマックスについての話をよくするけれど、私の家族が帰ってこないことは一度も話題にしない。もしかしたら、カミラは私の両親が死没なりしているものと誤解しているのかもしれない。まさか、ジャスティスマックスに殺されたとまでは思っていないだろうけれど。
両親は私が幼い頃、カジノで多額の借金を抱えた。借金を返すために私を置いてどこかへ行った。それだけの話。悪いのは両親。悪い事をしたのなら、罰を受けなければいけない。両親がどこで何をしているのかは知らないけれど、私と共に放置された銀行口座にはカジノから毎月ある程度のお金が振り込まれている。両親に支払われている給料の一部が、両親の希望で私の口座に置かれているとカジノの人に聞かされた。
だから私は国のお世話にならず、こうして生活できている。そしてその生涯を、ヒーローに殺されるというかたちで終えようとしている。……つまらない前置きが長くなってしまった。今日の舞台は病院。攻撃手段はカッターナイフ。病院は怪我や病気で体を動かすことも難しい人が多いだろうから、カッターでも十分な脅しになると考えた。変に気取らないで玄関から入るのもいいけれど、一階に窓が開いている場所を見つけたから、奇襲することにした。勢いよく入ると、そこが小児科であることがわかった。
「助けて! ジャスティスマックス!」
ちょうど先生は不在だった。診察中らしい男の子は、どこか嬉々とした表情でジャスティスマックスを呼んだ。この男の子、どこかで前に見た気がする。近くにいたのか、ジャスティスマックスは空からではなくドアをガラガラと開けて登場した。
「また君……アニカ・ベッカーか。俺には目的がわからない。教えてくれ、どうしてこんなことをするんだ!」
わからないままで結構。さっさと私だけを葬り去ってくれればいいの。カッターを逆手に持って振りかざす。
「いけージャスティスマックス! 悪い奴をやっつけろー!」
ただ、今日は外野がうるさい。確かに私は悪事をしているけれど、カミラより小さな子から悪者扱いされるのは鼻につく。正義の味方の行動は全て正しいと盲信しているような、幼い愚かな子供。その子供の発言が正しいだなんて、私には信じられない。でも、その状況を作ったのは私自身。
「どうした? 来ないのか?」
「お姉さん?」
カミラが私の顔を見上げる。カミラだって、騙されていることに気づかず、ジャスティスマックスを悪者だと信じている。
「今日はやる気なくした」
捨て台詞を吐き、カッターを地面に叩きつけ、窓から逃げ出した。




