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夕方、俺は路面電車の車内にいた。
この富山市には市街地中心に路面電車が走っていた。
帰り道、俺はいつも通り帰ろうと路面電車のつり革につかまっていた。
電車内ではイヤホンつけてDSPはやっているが、セレスタイトの教育をこなしていた。
路面電車が三つ目の駅に停車して、乗り込んで来た乗客。
そこに俺の方へ近づいてくる一人の女がいた。
「あれ?ミツノマルじゃない」
純花だ、赤い色のボーダーシャツとデニムパンツをはいていた。
無邪気な笑顔浮かべて俺の方に近づく。
夏らしい純花の私服は、夏休み何度か見ていて珍しいものではない。
純花の登場に、左耳のイヤホンを外してDSPを閉じた。
「おう、セレス……純花か」
「セレスって?まあいいわ。学校の帰り?」
「ああ、部活の帰り」
「そう……相も変わらず怪しい部活しているのね」
「へえ、しれっとばかにするんだ俺の部活」
純花は俺のいるパソコン音楽部をあまりよく思っていない。
オタク色の強い部活だから、リア充押しつけ彼女の純花がよく思わないのも納得だ。
なんだか気まずそうな顔をあからさまに見せてきた純花。
隣に来た純花は、ちょっといつもより元気がないようにも見えた。
「純花は何していたんだ?寮はこっちじゃないだろ」
「ん~、来週帰るでしょ。だからいろいろ買い物して行こうかって」
「春には帰ったんだっけ?奈月温泉郷」
「春休みは帰っていないわ、前に帰ったのは冬休みかな。
今年の春休みは、絶対に負けられない戦いがあったからね」
「ああ……あったな。学校で銅像を撤去するって騒いでいた時期だっけ」
「そうよ、あんな邪魔な銅像いらないでしょ」
不機嫌な顔で純花は言っていた。
三学期も終わりに差しかかる頃、学校で記念碑の銅像を作ることになった。
はっきり言って、ほぼ百パーセント学校側が決めた自己満足で迷惑極まりない銅像。
『学問の神様像』だったかな、そんなタイトルの像を置くことで話が進んでいた。
学校では決定事項だったのだけど、それに対抗したのは純花だった。
中庭の花壇を取り壊して作ることに反対した純花は、学校と徹底的に言い争う。
そこに俺も駆り出されたわけだが。
職員室にまで行って抵抗した、一年生の春休み。
ほとんど決まった学校の決定を覆すのは難しい。
花壇のそばで俺も純花に言われて見張りもさせられたっけ。
それだけに、春休みは俺が毎日のように学校に行くことになったわけだが。
「あの時は大変だったわね、大体なんであそこに銅像?憩いの場を壊して建てる物じゃないわ」
「そうだけど、結局学校の方が強行して建て始めたんだよな。銅像の除幕式は行ってないよな」
「当然じゃない!」
純花はさも不満そうだ。
あの中庭での学校側との戦いは、ある意味純花のプライドが垣間見られた。
純花はかなり頑固なところかがあるからな。
「あそこには珍しい花があるわけでもないし、あまり人もいないわ」
「一部花壇の花は結局植え替えられただろう、結果的に問題ないだろう?」
「おおありよ、その中で何本かの花が死んじゃったんだし」
純花は本当に悔しそうな顔を見せていた、今にも泣きだしそうだ。
おいおい、これじゃあ俺が純花を泣かせているみたいじゃないか。
路面電車の客の視線が、微妙に俺に冷たく突き刺さるし。話題を変えよう。
「今回は二週間だよな。奈月温泉」
「そうね、お盆のころが特に忙しいからね」
泣き出しそうな顔がいつも通りの表情に戻った。
「純花、おじさんは元気しているか?」
「えと……そうね。パパは元気しているわよ」
「ならよかった」
「ねえ、ミツノマル」
「なんだ?」
純花が少しためらったような顔で俺を見てきた。
さっきまでの泣き出しそうな顔が、逆に頬を赤らめた顔に変わっていく。
珍しく見せるいじらしい顔が、ゲーム内のセレスタイトと重なった。
「今日はゲームしていないのね」
「たまたま……だ」
俺は窓を見たまま、自宅の最寄り駅に路面電車は到着していた。




