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翌日、俺は夏休み真っ只中の学校に来ていた。
岩本高校という県内でも有数の進学校だ。
今日は部活動があったので僕がここにいる。
白いシャツに、藍色のズボンでいつもの制服で俺が向かった部室は蒸し暑い。
夏休み三日目で、朝でも気温が三十度を超えていた。
クーラーがないので扇風機を二台稼働させて、パソコンに向かっていた。
ヘッドホンをつけて俺はパソコンに向かいながら、マウスを動かしていた。
(これを……こうして)
頭に中には曲が流れていて、歌詞をつけていた。
今、俺はパソコンで曲を作っていた。
結構手間がかかる作業で、狭い部屋に三台のパソコンが動いていた。
ここは『パソコン音楽部』、文字通りパソコンで音楽を作る部活だ。部員は五人しかいないけど。
「光輝、どうだ?」
そういながら俺の肩に手を乗せた。
俺の後ろに見えたのは背が高く眼鏡をかけた男。
ぼさぼさの髪でこけた頬は、気の優しいオタク風な顔。
彼は『伊勢ケ崎 佳正』、パソコン音楽部の部長だ。
勉強系の能力が高いが、運動系と社交系は極めて低そうなオタ系能力値を誇る。
特にボイカロイトの知識パラメーターは、推定96だろうか。
「伊勢ケ崎部長、だいぶ進みましたよ。これなら岩本祭に間に合いそうです」
「そうか、振りつけは?」
「ダンスは去年作ったのを使うから、今回は一部だけを変更しようと思います」
そう言いながらマウスを操作した。
パソコン画面にはCGの美少女が、愛嬌ふりまいて元気に動いていた。
ショートカットで薄緑色の美少女は、歌いながらダンスもしていた。
これは『ボイカロイト』という、音楽制作ソフト。
ソフト内のCGキャラが、やはり声優が吹き込んだ声を機械的に繋いで曲を作るというソフト。
今、俺が作っているキャラは『KUNI』というキャラだ。
「しかし……KUNIとはやっぱりオーソドックスだな。
まるで、例の彼女にそっくりじゃないのか?」
「ええっ、違いますよ。純花は変わり者で乱暴で……」
伊勢ケ崎部長に言われて、俺は少し困惑していた。
ショートカットで元気娘、確かに純花に似ていなくもないが。
「宿坊がどうしたって?」
そう言いながら、反対側のパソコンにいたのが太った工藤先輩。
野太い声で体をこっちに向けてきた。
「工藤先輩も来ていたんですか」
「びっくりしたよ、まさか本当に菅原が宿坊とつき合っていたとは。
あの噂は本当だったんだな」
「えと……俺も正直驚いています。純花は不思議なやつですよ」
「そうそう、入学式の時にいきなり体育館で歌いだしたんだろ」
「なんかすごいかわり者って聞いたからな」
純花の武勇伝は学校内では有名だ。
とにかく目立ちたがり屋で派手好きなのが純花の特徴だ。
常に前に出てくる純花は、体育館で入学式の挨拶に立候補した。
元は入試の成績優秀者がやるルールだったのだが、純花が強引に立候補するのも異例だし。
しかも、そこでいきなり純花は歌いだした。
歌声はなかなか良かったのだけど……でも純花は『変わり者』と言われるようになった。
そこから彼女に対して、周りが距離をとるようになったわけだ。
まあ俺は唯一絡まれたわけで、ある意味俺が唯一の親友ってことだ。
純花はどういうわけかリア充を目指しているみたいだが。
「いや、僕は宿坊に用があったからな」
「……そういえば夏祭りの時に、純花と何を話したんですか?」
「知りたいか?リア充仲間の彼氏だもんなぁ」
「いえ、彼氏って勝手にアイツが決めたっていうか、あいつが教えてもくれないから」
「知りたいよな、光輝。すっごく気になるよな、光輝」
「ええ、教えてもらえますか?」
「ヤダ」
あっさり拒否された、工藤先輩の掛け合いで大体予想できたが。
そこで根負けしたような顔を見せると、なんだかつまらないのであえて俺は、
「じゃあ、いいですよ。俺はあとで純花に聞いてみます。
純花のことを徹底的に問い詰めますよ。俺はこう見えても純花のリア充仲間ですから」
「ああ、いいぞ。宿坊にはプライバシーに関わることだから絶対話さないと思うが」
「プライバシー?なるほど」
俺は一つのヒントが聞けて、ニヤリと笑う。
しまったという顔の工藤先輩は、これ以上ボロを出さないようにと俺から顔をそむけた。
「まあ、純花の話はそれぐらいにして、俺にはKUNIや薄野ハロがいるからな。
リアル女より、結局は二次元だって!二次元は裏切らない」
ふてくされた工藤先輩はパソコンへと戻っていった。
「リア充はいいよな、ああいうのでも彼女になるからな」
「純花に言ったらヘッドロックモノですよ。そういう部長だって、完全無欠の妹好きでしょ」
俺の指摘に、伊勢ケ崎部長は気まずそうな顔を見せていた。
「おう、妹はいいぞ。最強ヒロインだ、俺の妹は単純にかわいい」
「俺も部長の妹さんのことは正直いいと思います」
「伊勢ヶ崎、そんなリア充野郎と話すより俺たちにはボイカロイトが待っていますよ」
工藤先輩に言われて、伊勢ヶ崎部長はパソコンの方に向かっていく。
「ああ、ハロ派の工藤」
「ハロもいいけどKOIZOも捨てがたい」
「ホモ趣味か……」
よくわからないところで、二人はボイカロイト談義をしているみたいだ。
先輩たちが話し合っている最中、俺はそばに置いたカバンからDSPを取り出した。
(純花のプライベート……か)
DSPを見ながら、俺は物思いにふけっていた。




