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次の日、俺は学校の教室にいた。
普段と変わらずに学校に行って授業を受けた。そして休み時間になった。
解放的になった教室の空気、俺が購買部に行くのに席に立とうとしたとき純花が目の前にいた。
包帯を頭に巻いたまま、制服姿で授業を受けた俺は純花という頭痛の種と対峙していた。
その純花はなぜかピンクの包みを持っていた。
「純花、なんだ?」
「ミツノマル、あたしの弁当食べなさい」
「は?」
いきなり押しかけ彼女は、途方もないことを言ってきた。
いやいや、純花なりの俺に対する心配ということだろうか。
「ミツノマルはケガをしたんでしょ、あたしの弁当を食べて元気になりなさい」
「相変わらず上から来るな」
「違うわ、あたしなりに考えたのよ。リア充彼女であるべき行動を」
そのわりには、見舞いに来なかったが。
それでも自信たっぷりと笑顔を見せてきた純花。
(そう言えば純花の手料理は、民宿の天ぷらそばとかだったからな。
セレスタイトで見た純花の料理パラメーターは、あっ……まさか)
純花がお弁当の包みを開くと、そこには見た目は普通の弁当が出てきた。
「普通だ」
「なによ、毒なんか入っていないわ」
「これが料理50の弁当か」
「50って、何?あたしの弁当の点数?」
「まあ、そんなところだ」
「ふーん、さっさと食べなさい」
憮然とした顔で純花は、玉子焼きをフォークで指して俺の口に入れてきた。
よく噛んで味を確かめていた。
「やっぱり50だ」
「なんか超不愉快なんだけど」
流し目で純花が俺を見てきた、睨んでいるようにも見えた。
一体何がいけないんだ。悪いとかマズイとか決して言っていないのに。
「ねえ、不良に絡まれたってヒバリンの事?」
純花はなぜか俺の妹をヒバリンという。相変わらず変なあだ名をつけるのが好きだな。
「あれ、戸破のこと話したっけ?」
「ミツノマルの妹でしょ、彼女のあたしが知らないはずはないわ」
「そっか」
「言いたくないけど、ヒバリンを駅で見たのよ」
「戸破を?」
「あれはかなりまずいわよ。『羅射蝶』って不良グループだし」
「今なんて言った?」
「『羅射蝶』このあたりじゃあ有名な不良グループよ。
バイトの子も絡まれて大けがしたことがあるわ」
「純花……それを知っているのか?」
純花は苦そうな顔を見せていた。そう言いながらも俺の口にミートボールを押し込んでくる。
咀嚼をしながら、純花の方を見ていた。
相変わらず感情の変化が激しい純花だな。
そんな時、俺はクラスで一人の少女が近づいてくるのが見えた。
それは闇の中で聞こえた天使の甘い声だ。
「菅原く~ん」
甘い声でやってきたのは、伊勢ヶ崎さんだ。
ミドルヘアーにたれ目、なんといっても美少女だ。
少し童顔で小柄、雰囲気はまるでセレスタイトみたいに可憐だ。
「い、伊勢ヶ崎さん」
「は~い、もう大丈夫ですか?」
「大丈夫……です」
「な、なによあんた?」
「私は伊勢ヶ崎 佳乃っていいます。よろしくお願いしますね、宿坊さん」
「な、なんであたしの名を?」
ひるんだ純花に佳乃は穏やかな空気で対応した。なんて丁寧な対応なんだ。
彼女のことはこのクラスで知らないものはいない。
クラスのアイドルと呼ばれているが頷けるほどに低姿勢だ。
俺が不良で絡まれているところに警察を連れて助けに来てくれたのが、この佳乃だった。
そんな佳乃は純花の方を微笑ましく見ていた。
「いえ、彼女さんですね。羨ましいです」
「そうよ、あたしは彼女なんだから。ちゃんとお手製弁当……」
「けがも治ってよかったです、何かあったら言ってくださいね」
「お……おう」
佳乃は純花を無視して俺のことを心配していた。
俺は驚いた顔で佳乃を見ていた。
佳乃の出す雰囲気はまるで母親の様に穏やかだ。
だけどなんというか、少し浮世離れしたそんな少女だ。
「それじゃあ体に気をつけてくださいね」
佳乃は笑顔で俺に手をふった、俺の目尻は思わず下がっていた。
そのまま離れようとしたとき、クラスの男の視線が冷たく刺さってきた。
だけどそんなものが俺は気にならなかった。
それよりも目の前の存在が、黒い炎のようなオーラを出していた。
「何やっているのよ、ミツノマル?」
純花がなぜか俺の腕をとってきた。すぐさまアームロックだ。
「イタタッ、やめろ、純花!俺はけが人……」
「ふん、腕はけがしていないんでしょうが!」
ふてくされた純花は俺の右腕にしばらく間接技を決めていた。




