13
八月になって、俺はすぐに車に乗っていた。
窓から見えるのは自然豊かな山や高原が見えた。
夏でも長そでのシャツを着た俺は、後ろ座席でゲームをしていた。
やっていたのは『ジュエル☆プリンセス♡スクール』。
丁度八月になって新しいキャラを始めていた。
純花の前でセレスタイトのいる『ジュエル☆クイーン♡スクーリング』はなんとなくやりにくい。
目の前でセレスタイトに照れている俺を、純花の前でやるにはいろいろまずい。
ゲーム画面に純花そっくりの美少女に出ているのを見つかると、純花のサソリ固めがきそうだ。
そんな純花は相変わらず、不機嫌な顔で俺の隣に座っていた。
いつも通りの私服だけど、長いジーンズに長そでのシャツだ。
「相変わらずそのゲーム……飽きないわね」
「Jプリは神ゲーだからな」
「ふーん、端から見るとただの怪しいロリコン高校生だけど」
純花の悪態もいつものことで慣れた。
俺が今育てているのは、ボーイッシュな『トパーズ』と言う美少女。
例のごとくボクっ娘なのだが、トパーズにも恋愛感情はあまり抱かない。
「それでも俺は純粋なパラメーター上げがいいんだ」
「変なの」
純花も俺いじりに飽きたのか、反対側の窓から景色を見ていた。
晴れた空に山々と木々が見えていた。クネクネの山道で車が右に左に曲がっていく。
「今日は悪いね……菅原君」
すると前の運転席から声がした。
年老いた初老のおじさんが、運転しながらふと俺に声をかけてきた。
さすがに俺は顔を上げて前を見上げた。
「いえ、俺も夏休み暇ですから」
「パパ、たっぷりこき使ってもいいわよ」
「ははっ、純花の彼氏だからね。父さん嬉しいよ」
「違うわ。ミツノマルは単にあたしに惚れているだけよ!」
(よく言うよ)などと思いながらも純花はすこし笑顔が戻っていた。
もちろん前で運転しているのが純花の父だ。『純花パパ』と俺は呼んでいる。
「これだけ純花のことを大事に思ってくれるなら、父さんとも裸のつきあいをしないとね」
「ええ……まあ」
「純花のことを頼むよ」
「はい分かりました。純花の暴走を止められるのは俺ぐらいですから」
「ちょっと、どういう意味よ?」
純花は流し目で俺を見てきた。その視線で窓を見ることで無視することにしよう。
「そろそろ近づいてきたな」と前の純花パパ。
「何がですか?」
「何言っているのよ、奈月と言えばあれでしょ。ほら、こっち来なさい!」
純花は強引に俺のことを自分の窓側に引っ張った。
引っ張られた俺は素直に純花の窓側を見ていた。
見えるのは山の連なりだが、だけど純花は下の方を指さしていた。
「そうね……あれじゃない、『阿弥野ケ原樹海』」
純花が車の窓から身を乗り出したのは、崖の下に見える樹海。
純花の声を聞いてか、自然と車がゆっくりになった。
山頂付近から樹海が見えて、ところどころに大きな水たまりが見えた。
S字カーブの切れ間から何百何千もの木の群れは、自然の雄大さを物語っていた。
「すごいですね」
「そうだな、阿弥野ケ原樹海は山岳特有の濃霧が発生しやすい場所だからな。
晴れていないと、なかなか樹海を上から見ることはできないよ」
「今回三回目ですけど、初めて見られましたよ」
俺は初めての景色に感動していた。
正直、毎回この道を車で移動するときに濃霧だった覚えしかないから。
見えた緑は色鮮やかで、目にもよさそうだ。
「このあたりには、高原植物や珍しい動物もいるよ。
自然で人の手が全く入らないから、ここはとてもきれいだ」
「そうですね、感動です」
「早く行きましょ、お客さんがそろそろ戻ってくるでしょ」
と俺の腕を組んで純花が急かしてきた。
「おお、そうだったな……じゃあ飛ばすぞ」
「全く……パパはいつもすぐそうなんだから」
「ははっ、ごめんよ純花」
純花は怒って、逆に純花パパは素直に笑顔で謝っていた。
ふてくされたように純花は深いため息をついていた。
そんな純花の横顔を隣にいた俺はじっと見ていた。
「何?ミツノマルあたしの顔に何かついている?」
「いや……そんなはずないよな」
「そう?あたしの顔がかわいいからって見とれていたんでしょ。
少しはリア充体験を味わえた?」
「いや……純花は何か悩みはないのか?」
「何もないわよ……電車乗って疲れただけ」
純花はやっぱり俺に対して、当然のごとく冷たかった。
「お前には似合わないよ。元気なのが純花っぽい」
「……そうよ。悪かったわ」
声を明るく返すも、やっぱり元気がないようにも見えた。
そんな純花は、俺から視線をそらすように携帯電話をいじり始めた。




