ラビットさんのオカルトラジオ 1
放課後のハナダ学園の高等部。誰もいない下駄箱で靴を探す。経費削減のためか、午後六時にもなると、明かりがついているのは職員室くらいだ。自習のために図書室に残っていた殊勝な生徒のことなど考えてもいないらしい。あれだけ勉強しろと口うるさいくせに。そんな教師への不満を募らせながら、ある男子高校生―数寄透―は暗がりの中から己の靴を見つけ、履くために地面へと下した。下を向いた拍子に掛けていた眼鏡がカランと軽い音を立てて、地面へと落ちる。
「まじかよ」
辺りは暗く、物を探すには不便だった。手探りで地面を探るもそれらしいものはない。遠くに転がっていったのであろうか。
「どうしたの?」
「わあ!!」
「ごめん、そんなに驚くと思わなかった」
透の背後から話しかけてきたのは、幼馴染で同級生の東雨音だ。彼女は図書室にはいなかったが、自習室でも使っていたのであろうか。
「トオルン、怖がりだもんね。暗かったし、びっくりしたね」
「馬鹿にすんじゃねえよ、さっさと帰れ。女子が暗い道歩くの危険だろ」
雨音はきょとんと瞳を瞬かせた後、ふわりと笑った。
「ありがと、でも何か探し物しているんじゃないの?」
「してない、しっし」
「あ、眼鏡してない。落としたんだ」
「落としてない、帰れ」
「んー、どこだろ。そう遠くにはいってないんじゃないかなぁ」
「話を聞け」
「あ、あったよ!これだ!」
雨音はそういいながら、手を差し出した。暗くてよく見えないが、確かに眼鏡の形をしている。ほこりを払い眼鏡をかけると、視界がよくなった気がした。
「よかったねー、じゃあ帰ろ」
「は?なんで一緒に帰るんだよ」
「えーいいじゃん、家一緒なんだし、暗いんだから二人の方がいいよ」
雨音と俺は同じ施設の出身で、今は同じ学生寮に住んでいる。寮の利用者は少なく、男子と女子で階数が違うだけで、同じ建物だ。寮と言っても学校の敷地外にあり、微妙に遠い。
「嫌だ、俺より成績のいい奴を俺は幼馴染とは認めない」
「またまたー、英語と物理はトオルンの方がいいじゃん」
「てかトオルンていうな」
二人で軽口をたたき合いながら靴を履き、学園を出る。月明かりのおかげで、外の方が下駄箱よりも明るかった。何気なく雨音に視線を向けた、その時であった。
雨音が黒く禍々しい靄に包まれているのが目に入った。そういえば、さっきから雨音の顔を見ていない。暗さのせいかと思っていたが、外のツイ明かりに照らされても、雨音の顔は靄がかって見えないままであった。
「は?雨音、お前それなんだよ」
「あれ、トオルンの眼鏡ってそんなデザインだっけ」
こちらの心配を意にも介さず、雨音は呑気にそう答えた。
いつからこんな靄出てたんだ。というかこれは幻覚なのか?おかしいのは雨音じゃなくて俺なのか?
「おーい、トオルンってば」
「雨音、体調悪いとかないか。なんなんだこれ」
「それより、なんかこのわんちゃん?やばそうじゃない?」
雨音が指さす方へ視線を向けると、クレヨンで塗りつぶしたかのような黒い四足歩行の塊で、大きな一つ目の角がある生命体がいた。それは、こちらに目を向けると、ニタリと切り裂いたように大きな口を開けこちらに向けて走り出した。
俺は咄嗟に雨音の手を掴むと走り出した。
「あんな犬はいない!!」
「わ!トオルン!」
この時俺はまだ知らなかった。雨音の運命のことも、俺の力のことも。ただ、当たり前にずっと一緒に居られると思っていた。




