二人
夜明け前のナーガスラム。
2つのチームが別々の方角から廃工場に近づいていた。
アギト側——フユ、セナ、カナン、コウの4名。
ナイツバード側——レイ、シリア、シュルト、ロイドの4名。
「合図は工場の外灯が消えたとき。それまでは各々の持ち場で構成員を制圧しながら包囲を絞る。キャブラとテアルらアルバトロスの残党は必ず奥にいる。そこに2チームが合流する手順だ。」
事前の合同ブリーフィングでそう決めていた。
「簡単な話だ。」シュルトが太刀の柄に手をかけながら言う。
「簡単とは言っていない。」リヒトが言い置いた。「テアルの泥人形に注意しろ。制圧には有効打を確実に入れることが条件だ。」
「わかっていますよ。」シュルトが返す。
「シリア。バーサーカーを早い段階で出すな。制圧戦だ。暴走は困る。」
「はい。」シリアが短く答える。
フユはレイと目が合った。レイは小さく頷いた。
互いに何も言わなかったが、十分だった。
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外灯が消えた。
全員が動き出す。
工場の東口からナイツバード組が入る——はずだった。
「……東口ってどっちだ。」
シュルトが立ち止まる。
「右ですよ。」ロイドが言う。
「右というのはこちらから見てか、向こうから見てか。」
「……普通に右です。」
「普通が曖昧だと言っている。」
「こっちですよ!!」ロイドがシュルトの肩を掴んで向かせる。
シリアがすでに東口から入りながら振り返る。「置いていくぞ。」
「待て。俺が先頭を——」
「遅い。」
シリアは行ってしまった。
ロイドがシュルトを引っ張る。「はぐれたらまずいので早く!!」
「俺がはぐれるわけ——」
工場は複数の搬入路が入り組んだ構造だった。
シュルトは3つ目の分岐点で確信を持って左に曲がった。
「こっちだ。」
「……それ、外に繋がってる道ですよ。」
「なぜそれをさっさと言わない。」
「言おうとしてました!!」
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工場の西口からアギト組が突入する。
中に入った瞬間——床が盛り上がった。
「泥人形だ!!」セナが叫ぶ。
一体、二体、三体——どこからともなく現れる。
「テアルはどこだ。」カナンが傀儡化身を起動させながら問う。
「上だ!!」コウが刀を抜く。
工場の2階部分。
テアルが欄干に立ち、眼鏡を上げながら見下ろしていた。
「いらっしゃい。」
指が動く。泥人形がさらに増殖する。
「奥へ行くのを止める気か。」セナが複数の剣を展開する。
「そうです。頭の邪魔はさせません。」
東口からシリアが合流してきた。
「人形の数は。」
「増えてる、14以上。」ダリウスが——いない。今日は留守番だ。弱点の分析ができない。
「問題ない。潰せばいい。」
シリアの目に火がつき始めている。バーサーカーの気配が滲む。
「シリア、まだ出すな!!」セナが叫ぶ。
テアルの泥人形の群れと、アギト・ナイツバードが入り乱れる戦闘が始まった。
その混乱の中——
フユはレイの腕を掴んで走った。
「行くぞ。」
「ああ。」
泥人形の隙間を縫って奥の扉へ向かう。
「どこへ!!」セナが叫ぶ。
「キャブラを止めに!!」
「無茶言うなよ!!!」
扉を蹴破った。
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工場の最奥。
キャブラがソファーに深く腰を沈め、煙草を吸っていた。
扉が開き、フユとレイが入ってきた。
キャブラはゆっくりと顔を上げる。
2人だけだ。
工場の外では戦闘の音が聞こえる。
援護は来ない。
「……2人か。」
キャブラは煙草を床に踏み消した。
「こないだガキと——もう一人は。」
「レイ=ステルファン。」レイが答える。
キャブラは立ち上がり、鎖を手に取った。
じゃらりと音が響く。
「俺の相手に新人2人じゃ足りねえぞ。」
フユは剣を抜いた。
レイは両手を広げ、周囲に水分がないか確認する。工場内に雨水の残滓。配管の滲み。わずかだが、ある。
「足りるかどうかは、やってみないとわからない。」
フユはキャブラを真っ直ぐに見た。
キャブラは——笑った。
「そうだな。」
鎖が宙を舞った。




