表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
STAR RAIN  作者: bagswife
8/30

左大臣

夜明け前のリンドウェル。


ナイツバードの兵舎に静寂が満ちていた。

いつもは整然と並ぶ団員たちの気配が、7つ欠けている。


「……犯人の特定は。」

リヒトは静かに尋ねる。


「痕跡を確認しました。」

団員が地図を広げ、奇襲されたポイントを指し示す。

「現場に泥の残滓が残っていました。攻撃を受けた団員の縛傷の形も——泥に近い素材で作られた刃物か、あるいは爪と思われます。」


泥。


リヒトは目を閉じた。

「アルバトロスの中にそんな能力を使うやつがいたな。」

「ほぼ間違いないかと。」


「なるほど。」

リヒトは静かに立ち上がり、上着を掴む。


「どちらへ。」

「本部だ。これは単なる抗争じゃない。神栄団への組織的な奇襲攻撃。国家反逆と見なしていい。動くには許可が要る。」


団員は頷く。

リヒトは夜明け前の闇の中、一人で歩き出した。


====================


神栄団本部、フローゼル。


「リチャード左大臣に面会を。ナイツバード団長、リヒトだ。」


夜明けにもかかわらず受付を叩くと、小走りで職員が奥に消え、しばらくして戻ってきた。


「どうぞ。ただし——」

職員は少し困り顔で付け加えた。

「いつものご様子で、ございます。」


リヒトは小さく息をついた。わかっている。


====================


大臣執務室の扉を開けると、豪奢な椅子に深く腰を沈め、右手に書類、左手に酒瓶を持った男がいた。


リチャード=フルフェンリル。

かつてのナイツバード団長にして、現在のバークエン左大臣。

書類には目を通しているのか通していないのか判然とせず、足を机の端に乗せ、完全に脱力した姿勢で座っている。


「あー、リヒトか。こんな時間に珍しいな。」

リチャードは書類から目も上げない。

「何かあったんか?ったく仕事が増えることばっか起きよるな最近。あ、そこの棚にウィスキーあるから好きに飲んでぜ。」


「いらねえよ。」


「硬えなあ。昔っからそうだよな、お前は。まあいいや、で?」


リヒトは端的に報告した。

夜間奇襲。7名戦闘不能。痕跡からアルバトロスの仕業と判断。国家反逆に相当すると。


報告が終わると、リチャードはようやく足を机から下ろし、酒瓶を置いた。


「7名か。」

声のトーンが変わった。


「全員生きてるんだろうな。」

「命に別状はない。ただし全員しばらく戦線復帰は無理な状態だ。」

「そうか。」


リチャードはしばらく黙っていた。

書類をゆっくりと机に置き、組んだ手の上に顎を乗せる。


「アルバトロスか。元ホークアイの連中が首謀だったか。」

「そうだ。直接対峙した情報も過去1年にある。封印のイグナイトチェーン間違いなくキャブラ本人が動いている。」


リチャードの眉がわずかに上がった。


「優秀な野郎だったなあ。あいつは……許可は出す。動いていい。ただし——」


扉がノックされた。


「失礼します。アギト団長、ムサシが緊急面会を——」


「通せ。」リチャードは即座に答えた。


扉が開く。

ムサシが入ってきて、正面のリチャードを見た。

そして隣のリヒトを見た。


一瞬だけ、沈黙があった。


「……先を越されたか。」

ムサシが静かに言う。


「アルバトロスの件か。」リヒトが返す。

「そうだ。この一件はアギトに——」

「ナイツバードが7名やられた。うちの案件だ。」

「関係ない。我々も直接交戦している。」

「だからこそうちが——」


「はいはいストップ。」

リチャードが片手を上げた。

2人が同時に黙る。


リチャードはゆっくりと立ち上がり、2人を交互に見て、それから——少し笑った。


「お前ら、俺が団長だった頃から何も変わらんな。」


「……リチャードさん。」ムサシが言う。

「ずっとこれだよ。お前ら二人が同じ部屋にいると空気が張り詰めるんだよなあ、昔から。」


リヒトが口を開く。「懐古はいらない。許可を——」

「両方に出す。」


リチャードは静かに、しかし確かに言い切った。


「ただし条件がある。」

2人が黙って聞く姿勢になる。


「ムサシ、リヒト——お前ら2人は前線に出るな。」


「……っ。」ムサシが一歩前に出る。「それは。」

「俺の言葉がわからなかったか?」リチャードの目が変わる。


普段の気の抜けた表情は、どこにもなかった。

立大臣として、かつてナイツバードを率いた男として——その目がムサシを見ていた。


「お前らが動けば確かに早く片付く。だが早く片付けることが目的じゃない。

アルバトロスを検挙するのはナイツバードとアギト——それぞれの団員たちだ。

お前らはその判断を支える。それがお前らの仕事だ。わかったか。」


ムサシとリヒトは、しばらく黙っていた。


「……わかりました。」

ムサシが答えた。

リヒトも続けて頷く。


「よし。」

リチャードはあっさりと表情を戻し、また酒瓶を手に取った。

「で、細かい作戦はお前らで立てろ。俺に押し付けるなよ。書類だけで死にそうなんだから。」


「……あんたは左大臣だろ。」リヒトが言う。

「そうだよ。だから書類が多いんだよ。嫌になるよな。」

「自分で選んだ道だからな。」

「そうとも言う。」リチャードは笑う。


ムサシは小さく息をついた。

「……相変わらずですね。」


「お互い様だろ、ムサシ。」


リチャードはウィスキーを一口飲み、窓の外の夜明けを見た。


「アルバトロスの連中——生かして連れてこい。ナーガスラムの問題はまだ終わってないからな。」


その一言だけが、ひどく重かった。


====================


フローゼルの廊下。

ムサシとリヒトが並んで歩く。


「アギトの新人。パーカーを捕まえたらしいな。」リヒトが先に口を開く。

「そうだ。」

「使えそうか。」

「俺が判断することじゃない。」


リヒトは少し間を置いた。

「うちの新人もいい動きをした。連携できるなら悪くない。」

「自分の団の心配をしろ。」

「それはこちらの台詞だ。」


2人の足音が廊下に響く。

正面玄関で、互いに別の方向へ歩き出す前に、リヒトが静かに言った。


「7名の仇はとる。」

「……ナイツバードの仕事だ。横から入るな。」


それだけ言い、2人は別れた。

朝の光がフローゼルの石壁を赤く染め始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ