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STAR RAIN  作者: bagswife
7/30

封印の鎖

その夜は何事もなく終わった。


だが翌日の早朝——

アギトの兵舎の扉が外から叩き割られた。


「何事だ!!」

カナンが跳び起き、廊下に出た瞬間、黒い腕が首を掴んで壁に叩きつける。


「ぐっ……!!!」


黒い腕の持ち主は人の形をしていた。だが人ではない。

全身が泥でできた、ずんぐりとした化け物。

それが廊下に2体、兵舎の前に4体。


「んだこいつ....中級レベルか……!!」

ダリウスが窓から外を確認し叫ぶ。

「6体いる!!全部中級相当だ!!」


廊下の奥、扉の残骸を踏み越えてゆっくりと歩いてくる人影が2つ。

1人は煙草の煙を漂わせながら。もう1人は眼鏡をクイッと上げながら。


「アギトってのはここか。ずいぶんみすぼらしいとこだな。」


====================


「たった2人で乗り込んできたのか……!?」

セナが剣を展開しながら叫ぶ。


「2人じゃない。」

ダリウスが素早く分析する。「外に4体、中に2体。計6体の泥人形。全部中級だ。俺たちが外に出ようとすれば挟撃される位置にいる....」


眼鏡の男——テアルが静かに口を開く。

「私の能力は泥使い(ダートドール)と呼ばれています。泥から任意の形の人形を作り、使役することができる。数を揃えれば一個部隊を相手にすることも可能です。」


そう言って指先を軽く動かす。

廊下の泥人形がカナンの首を締め上げた。


「っ……!!!!」


「念のため申し上げておきますと、これらは中級相当の力を持っています。

御部隊の戦力では数の相手は難しいかと。」


淡々とした口調。感情がない。


「……頭。」テアルが傍の男を見る。


壁に背を預け、煙草を吸っていた男がゆっくりと口を開いた。


「俺はアルバトロスの頭、キャブラ=スタローン。ガンバスとパーカーを返してもらいに来た。」


ムサシが前に出る。「神栄団の管轄区域に踏み込んで奇襲か。ナーガスラムのやり方はそうらしいな。」

「国が決めたルールなんざ知らねえ。ナーガスラムは俺たちのシマだ。」


ムサシとキャブラの目が合った。


「テアル。そいつを離せ。」

「いいんですか?」

「離せ。」


テアルは指を動かし、泥人形がカナンの首を解放した。

カナンは壁に手をついて呼吸を整える。


「その代わり——」キャブラが口を開く。

「パーカーをやったのはどのガキだ。」


静まり返る。


「……俺だ。」フユは答えた。


キャブラはにやりと笑い、煙草を床に落として踏み消す。


「そのガキと話をしようや。部下がやられて俺が黙ってたんじゃ示しがつかねえ。」

「断る。」ムサシが前に出る。

「うちの新人に用があるなら俺を通せ。」


「邪魔すんなよ団長。……じゃなきゃ全員ぶちのめしてからそのガキと話すぞ。」


キャブラの右手に鎖が現れた。

じゃらりと音を立てて床を打つ、黒光りする重い鎖。


封印の鎖、イグナイトチェーン。


「カナン。下がれ。」

「でもムサシさん——」

「下がれ。」


====================


カナンが退くと同時に、ムサシとキャブラの間で空気が変わった。


「……その鎖、一度だけ見たことがある。」ムサシは静かに言う。「ホークアイの副団長が持っていた。」

「ああ。元々はレオポルドさんの形見だがな。いまは俺が使う。」


キャブラが鎖を一振りした瞬間、ムサシは横に跳んだ。

鎖が空気を切り、壁に叩きつけられた石が砕ける。


「速い。」カナンが息を飲む。


連続で振り回される鎖がムサシを追う。

ムサシは距離を取りながら刀を抜く。間合いに入れない。

鎖がある限りキャブラの懐には近づけない。


「ムサシさん!!鎖に触れるな!!」

ダリウスが叫ぶ。「触れた部位が封印される。動かなくなる。弱点は鎖の根元——」


「うるさいな。」

テアルが素早く動き、ダリウスの視界を塞ぐように割り込んだ。

廊下の泥人形がダリウスの前に立ちふさがる。


「分析を妨害するためか。」ダリウスが舌打ちする。


「フユ!」セナが叫ぶ。

「わかってる!!」


フユは横に走り込んでいた。

キャブラの注意がムサシにある。今が入れるタイミングだ。


剣を構え、一直線に踏み込む。


キャブラは振り返りもせずに鎖を後ろに流した。

フユは咄嗟に跳んでかわす。鎖が足元を掠める。


「速い……!!」

とテアル


着地した瞬間、今度はキャブラが正面からこちらに向き直っていた。

「悪くないな、ガキ。」

鎖が巻き上がり、フユに向かってくる。


フユは剣で弾こうとした。

「触れるな!!」ムサシの声が飛ぶ。


フユはギリギリで剣を引き、横に体を転がした。

鎖が床を叩き、石畳にひびが入る。


「ほう?……ちゃんとかわしたな。」

キャブラが少し目を細める。「だがそれだけじゃなあ。」


フユは荒い息を整えながら立ち上がる。

届かない。鎖に触れたら封印される。間合いに入れない。

正面からでは無理だ。


ならば——


フユは目を閉じた。一瞬だけ。

胸の奥のざわめきを感じる。

引き寄せられるような、不快な共鳴。


ノールが俺に引き寄せられるなら——キャブラの鎖も闘気、意識もひとときこちらに向く。


「セナ。」

「何。」

「3秒、キャブラの正面を見せてくれ。」

「……わかった。死ぬなよ。」


セナの複数の剣がキャブラの正面から飛ぶ。

キャブラは鎖でそれらを弾く。


その3秒、フユは動いた。


正面ではなく——真横。

キャブラが鎖を前に向けた一瞬の死角を抜けて、懐に飛び込む。

接近する。鎖を振れる間がない距離。


剣の柄でキャブラの顎を打ち上げようとした——


キャブラの手がフユの手首を掴んだ。


止まった。


「……惜しいな。」

キャブラはフユをまっすぐに見下ろしていた。

「もう一手あれば届いた。」


フユは掴まれた手首のまま、キャブラの目を見返した。

怖かった。足が震えていた。それでも目は逸らさなかった。


「……返せよ。ガンバスとパーカー。」

「できない。」

「じゃあこの手首、封印するぞ。」

「やってみろ。」


しばらく2人は見つめ合った。

キャブラは——笑った。


「気に入ったよ、ガキ。」


手首を離し、テアルに目配せする。

テアルは静かに頷き、指を一つ動かした。

廊下と外に散っていた泥人形が一斉に崩れ、ただの泥の塊に戻る。


「ガンバスとパーカーの件は今日は引き下がる。だが次は返してもらう。」

キャブラは振り返らずに言う。「それと——お前、名前は。」

「フユ=エバーノート。」

「覚えた。またくるよ、ガキ。」


テアルが深々と一礼し、二人は去った。


足音が遠ざかり、兵舎が静まり返った。


崩れた泥が廊下に広がっている。割れた石畳。砕けた扉。

それが今の戦力差をそのまま示しているようだった。


====================


「怪我はないか。」ムサシが一通り確認する。


「カナンが首を絞められてます。」コウが静かに言う。

「そのくらい平気だ。」カナンが頷く。


ムサシはフユを見た。「さっきのは何を考えた。」

「ノールが俺に引き寄せられるなら、キャブラの能力の意識も一瞬こっちに向くと思いました。セナが正面を取った瞬間に死角を作れると。」

「読んでいたか。」

「ちょっとだけ。」


ムサシは少し間を置いた。「惜しかった。次は届かせろ。」


それがムサシなりの評価だとフユにはわかった。


セナが息をついた。「心臓に悪いわまったく。」

「ありがとうございました。」

「礼は勝ってから言え。」


ダリウスが腕を組んで言う。

「テアルという男、分析を妨害するために動いた。泥人形で俺の視界を塞ぐのが目的だった。頭のいい動きだ。」


コウは何も言わなかった。ただ、兵舎の壊れた扉を静かに見ていた。


フユはキャブラが消えた方向を見ながら、さっきの目を思い出していた。


——残忍さの奥に、何か別のものがある目だった。


あれはなんだ。それがずっと、頭に引っかかっていた。



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