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STAR RAIN  作者: bagswife
10/30

泥の中の忠義

工場の中は既に戦場になっていた。


泥人形が次々と立ち上がる。一体倒せば二体現れる。

カナンは傀儡化身を全開にして3体を同時に抑え込んでいたが、背後からさらに2体が来る。


「っ……!数が多すぎる!!」


コウは一体と真正面から切り結んでいた。

雫の加護はタイマンでこそ力を発揮する。複数を相手にしている今、その能力は十全に発動できない。

それでも刀さばきだけで2体を相手にしていた。しかし3体目が加わった瞬間、足を取られる。


「ぐ……!」


シリアが横から援護に入るが、そのシリア自身も2体に手を焼いていた。


「私はレベルが違うと言っておいたのに。」

テアルが2階の欄干から静かに見下ろす。

「元神栄団の副隊長格を舐めすぎです。あなたたちはまだ私が全力でないことに気づいていない。」


テアルの指が複数同時に動く。


床のあちこちから泥が盛り上がり、人形を作り続ける。

壁の泥。柱の泥。工場全体が素材だ。


「!!まだ出すか!!」カナンが叫ぶ。


テアルは答えない。ただ静かに指を動かし続けた。


====================


工場の別室。


シュルトは3つ目の扉を開けて舌打ちをした。

資材置き場だった。


「……北口はどこだ。」


シュルトは別の部屋に入ってしまっていた。


シュルトは太刀を担ぎ直し、また歩き出す。

どこかで大きな音が聞こえた。戦闘が始まっている。


「……方角がわかれば問題ない。」

確信を持って右に曲がった。


また資材置き場だった。


「……。」


====================


工場の中央。


セナとシリアが泥人形の群れをかき分けながら前進していた。


セナの複数の剣が縦横無尽に動き、次々と人形を斬り崩す。

だが崩れた泥が再び集まり、また形を作る。


「再生するのか!!」

「させなければいい。」シリアが短く言い、クナイを人形の中心部に打ち込む。

泥の核が砕け、今度は再生しなかった。


「核があるのか。」セナが目を細める。

「弱点は一つだ。」


2人の息が合う。

セナが剣で動きを封じ、シリアがクナイで核を砕く。

一体、二体、三体——


「止まれ。」


テアルの声が響いた。


2人が見上げると——

工場の床、壁、天井の泥が全て剥がれ、一点に集まっていた。


巨大な塊が人形を形成していく。

床が揺れる。天井が軋む。


10メートルを超す巨躯。

複数の人形が一体に合わさった超巨大泥人形が、工場の中央に立ち上がった。


「……でかい。」セナが呟く。

「問題ない。」シリアが短刀を構える。


「問題ない、って……あれ相手に2人で?」

「僕一人でいい。」


シリアの目が変わった。


バーサーカー。


希少度S——狂戦士の加護が解放される瞬間、シリアの周囲の空気が歪んだ。


「……シリア。」セナが一歩引く。

「テアルを頼む。」


それだけ言ってシリアは走った。


====================


バーサーカー解放のシリアに、理性はほとんどない。

あるのは前に進む衝動だけだ。


巨大泥人形の拳が振り下ろされる。

シリアは正面から受けた。


床が陥没した。

しかしシリアは沈まなかった。両足で踏みとどまり、拳ごと押し返す。


「……!!」

テアルが目を見張る。


シリアは拳を足場に跳び上がり、巨体の肩へと上がっていく。

短刀を頭部に向けて振り下ろす。一撃。二撃。三撃。

泥が抉れ、飛び散る。


核はどこだ。


巨体が体を揺さぶり、シリアを振り落とそうとする。

シリアはクナイを胴体に打ち込み、振り落とされながらもそれを足場にして再び跳ぶ。


胸の中心部。

微かに他の泥と色が違う箇所がある。


「そこだ。」


短刀が深く、核に打ち込まれた。


巨大泥人形が崩れていく。

山のような量の泥が工場の床に広がった。


シリアは着地しながら目の色を少し戻した。


「……ふぅ....終わり。」


====================


その瞬間、テアルの注意が一瞬だけシリアに向いた。


セナはそれを見逃さなかった。


展開させた複数の剣が一斉にテアルを囲む。

テアルが指を動かそうとした——動かせなかった。

5本の剣が腕、肩、足首を完全に固定していた。


「動かないで。」セナが階段を上りながら静かに言う。

「……上手い。」テアルは動かない。


セナがテアルの前に立ち、縄を取り出した。


「確保。」


====================


縛られたテアルは、抵抗しなかった。


「……大人しいな。」セナが不思議そうに言う。

「頭の邪魔にさえならなければいいですからね。」

「邪魔?」


テアルの目が微かに揺れた。


「……足止めは十分でしょう。」

「そう。にしては長いわね」

「……馬鹿な子たちだ。」


テアルは静かに目を閉じた。


「頭は——キャブラは、隊長格に匹敵する力を持っている。

子供2人では、まず勝てない。」


「君たちがここで足止めされてるから。」


シリアが近づいてきて、テアルを見下ろす。

「お前は元神栄団らしいね。」


テアルは少し間を置いた。「……そうです。ホークアイに所属していた。」


「ならなぜアルバトロスにいる。」


====================


【テアルの回想】


10年前。ナーガスラム。


食べ物がなかった。

寒かった。

家族が3人、冬を越せずに死んだ。


テアルは路地で泥を弄っていた。

能力が使えると気づいたのもその頃だ。泥を動かすと少し暖かかった。


貧困。孤立。国からの施しはない。

神栄団は来ない。誰も来ない。


「——お前、面白い能力を持ってるな。」


声をかけてきたのは、まだ若いキャブラだった。

ホークアイの副団長になる前の、ただの青年だった。


「お前みたいなやつがいる。ナーガスラムには山ほど。

強いのに誰にも見てもらえないやつが。」


「……あなたは何者ですか。」


「同じナーガスラム出身だよ。俺たちで俺たちの街を守る。

お前の力を貸してくれ。」


それが全てだった。


神栄団がホークアイに誘ってきた時も、テアルはキャブラについていった。

キャブラが団を出た時も、ついていった。


「テアル、お前は頭がいいんだから神栄団に残ってもよかった。」

いつかキャブラが言った。

「残りません。」


「なんで。」


「あなたがいないところに、私の居場所はないから。」


キャブラは笑った。それだけだった。


====================


回想が終わる。


テアルは目を開いた。


「頭がナーガスラムに来た時、私は14歳でした。

親も兄弟も、みんな貧困で死んでいた。

あの人が来なければ——私はとっくに死んでいた。」


セナもシリアも、黙っていた。


「頭は今日、捕まると思いますか。」

テアルが静かに問う。


セナは答えなかった。

その答えは、奥の部屋から聞こえてくる戦闘の音が決める。


====================


工場の廊下。


ようやく扉を見つけたシュルトが「ここか」と呟きながら取っ手を掴んだ。


開けると——そこは外だった。


冷たい朝の空気が吹いてきた。


「……また外か。」


シュルトはしばらく空を見上げ、来た方向を確認し、もう一度工場の中へ戻っていった。


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